メカニカルシールは万能なのか?

投稿日:2022年09月27日

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化学製品を扱うポンプや攪拌機は、その内部の流体を外に漏らすことは決して許容できるものではありません。それら装置には、その回転する軸から外部に漏れ無いようにメカニカルシールと呼ばれる軸封装置がついています。

そのメカニカルシールは、液体だけでなくガスもシールことができる為、非常に多くの回転機に採用されています。ポンプ等の回転機をよく扱っている方は、非常に慣れ浸しみのある装置だと思います。

この記事では、メカニカルシールを選定する際に注意すべき点とメカニカルシールは万能なのかについてをユーザ目線で記載しています。

メカニカルシールの選定で気にしておく点としては、「シール構造」「フラッシングプラン」の2点です。シール構造がダブル型やタンデム型を選択した場合は、「シール液」が必要になります。軸封装置は、精密機器であり回転機を構成する部品の中でも、非常に高価なのです。さらにフラッシングプランによっては、外部の装置や配管工事が必要になったりと、装置全体の製作費がぐっと高値になってしまいます。(著者である私も装置を導入する際に、事前にしっかり想定していない為に予算が赤字になってしまうという経験をしたことがあります)

その為、メカニカルシールを採用する場合は、シール構造やフラッシングプランを決めた後にその費用を積算を積算しておくことをおススメします。

メカニカルシールの構造

ここで表題からは少しそれますが、メカニカルシールのシール部構造について説明します。

機械設計者が知っておかなければいけないメカニカルシールの構造は、主要構造、受圧部構造、シール部構造、ばね部構造の4つです。

➀主要構造

軸封の主要構造である固定環、回転環、スプリングを1セットで構成された軸封が、シングル型です。

ポンプ等の多くはこのシングル型を採用しており、メカニカルシールの基本的構造です。

ケーシングに固定されている固定環と、軸とともに回転する回転環の間で、ばねの力で流体をシールする構造となっています。

又、内部の圧力が高い場合に、2セットの軸封を同じ向きで並べて使用するタンデム型や背中合わせで使用するダブル型があります。ダブル型は、内部流体より十分圧力を高くしたシール液で蓋をしている状態となっている為、内部流体を外部に絶対に漏らしたくない場合は、ダブル型を使用します。

➁受圧部構造

受圧部には、内部の圧力によって軸封のシール面を押さえつける力とシール面のわずかな隙間の中で生じるシール面を開こうとする力のバランスで、軸封構造が保たれています。

それぞれ受ける圧力はどちらも同じであるため、その圧力を受ける面積(下図Ap,As)によって、2つの力はバランスを調整しています。Apの方を大きくしシール面を押さえる力を大きくしたタイプがアンバランス型、一方のAsの方を大きくしシール面を開こうとする力を大きくしたタイプをバランス型と呼びます。バランスシールは、その軸径をわざと細くすることで、ApとAsの面積を変化させています。

③シール部構造

シール部に使用している回転環と固定環の材料は主にSiC(シリコンカーバイド)やカーボン材等の硬度の高い材質を使用しています。この回転環と固定環は、どちらかをばねで押す構造になっています。このばね構造がケーシングについているものを静止型、軸についているものを回転型と呼びます。高速回転するポンプや液中にスラリーを含んでいる場合は、静止型を選定しておいた方がよいです。

④ばね部構造

ばねの構造は、以下の3つのタイプがあります。

・1つの大きなコイルで押さえるのタイプ・・・モノコイル

・複数の小さなばねで押さえるタイプ・・・マルチコイル

・ベローズによって押さえるタイプ・・・ベローズ

モノコイル型は構造がシンプルであり、ある程度の堆積物が有っても使用できます。マルチコイルは、均等に面圧がかかる為、面当たりにムラが無く、シール部の漏れが少ないといった特徴があります。又、内部にスラリーが多くばねの固着が発生してしまう環境化では、ベローズを採用します。

メカニカルシールの金額は、一般的に安価な順にモノコイル<マルチコイル<ベローズの順となっています。

引用元: イーグル工業株式会社HP 当社の事業について

フラッシングプランとは

メカニカルシールを選定する際は、通常はメーカに使用状況を連絡し、メカニカルシールメーカに選定してもらうことが一般的ですが、フラッシングプランについても必ず確認しておくようにしておきましょう。

米国の石油学会によるAPI682(API: American Petroleum Institute)に基づき、メカニカルシールのフラッシング(冷却・シール液封)を装置に施す必要があります。

このフラッシングプランは、API682プラン1から76まで複数あるため、そのプランに従い装置周りの配管やユニットを設置する必要があるのです。以下に簡単に紹介します。

API682 プラン番号 名前 概要
Plan01 インターナルフラッシング メカニカルシールの持つ自己循環でフラッシングを行う。特にフラッシングの装置を付ける必要が無い為、安価である。
Plan11 セルフフラッシング 自身のポンプ等の吐出した流体をそのままメカニカルシールに戻してフラッシングを行う。流体に不純物等が無い場合はセルフフラッシングとする場合が多い。
Plan32 エキスターナルフラッシング 外部からフラッシング用の流体を送り込むことでフラッシングやクエンチングを行う。配管工事が別途必要となる為、新規の場合は、設置費用が高くなってしまう。
Plan52 シール液をシールポットに入れて使用 攪拌機等でシール液が必要な場合は、シール液をポットに入れてシール液圧力を維持して使用する。圧力を維持する装置が無い為、定期的にシールポット内を加圧する作業が必要となる。
Plan55 シール液の外部循環 高圧容器の攪拌機では、シール液を常に内圧以上にする為に、昇圧ポンプを搭載したプレッシャユニットを使用して外部循環を行う。プレッシャユニットが別途必要となる為、機器費、設置費用ともに高額になる。

これらのフラッシングプランは、「想定より機器費用や設置工事費が高額になってしまった」という設計担当者の悩ませる原因となっています。その為、回転機の設計を行う際は、フラッシングプランで必要となった周辺装置とその機器を設置する工事までを計画に入れておくことが大切です。

メカニカルシールは本当に万能なのか?

メカニカルシールとよく比較されるものとしては、「グランドパッキン」が挙げられます。このグランドパッキンは古くから回転機に使用される部品で、非常に安価に軸封が可能です。しかし、グランドパッキンの最大の欠点である「洩れ量が大きい」という点が許容できなければ採用出来ません。

写真:ニチアスカタログより

とはいえ、シングルのメカニカルシールAPI682にも許容漏れ量が規定(5.6g/h以下)されており、メカニカルシールでも全くの漏れが無い状態にすることは出来ません。あくまでメカニカルシールは、漏れ量が限りなく少ないという特徴を持っているということなのです。

一方で、内部が高圧であったり、毒性ガスを外気に放出できない場合は、ダブルメカニカルシールを採用し、外気への漏れ量を限りなく0にすることが出来ます。しかし、代わりにシール液が内部へ混入することになるため、その混入が許容できなければいけません。(内部へのシール液漏れ量は3~10cc/hr程度)

※コンプレッサー等のガスシール用に用いられるメカニカルシールにドライガスシールと呼ばれるシールもあります。ドライガスシールの漏れ量は概ね2Nm3/hr程度であり、内部の圧力は500kPaGまでの条件で使用できます。通常のウェット状態で使用するメカニカルシールより漏れ量は多いですね。

つまりメカニカルシールと言えど、漏れ量やシール液の混入を全くの0にすることは出来ません。どの状態が許容できるのかを、機械設計者が機能と費用を総合的に判断し、どの軸封タイプにすべきなのかを決定するしか無いのです。

メカニカルシールを採用する場合、メカニカルシールメーカから指定された使用条件に、きちんと合致しているかを注意し選定をしてみましょう。

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