投稿日:2022年01月03日
「この部品のボルトサイズはどれくらいが適正なのだろう?」
「ボルトサイズを決めるには何を根拠にしたらいい?安全率の目安は?」
「ボルトの強度計算のやり方を知りたい」
今回は、このような悩みに答えていきます。ボルトサイズを決める際、何を目安にしたらいいか分からなかったり、強度計算に苦手意識があったりする方もいるかもしれません。
そこで本コラムでは、ボルトサイズを決めるために必要な前提知識や、実際の強度計算のやり方を解説します。紹介するのは簡単にできる計算方法なので、設計初心者の方もぜひ参考にしてみてください。
1. 【必要な情報は2つ】ボルトサイズの決め方
ボルトサイズは、加わる力に対してボルトがその機能を果たせなくなる限界値に、安全率を考慮して決定します。ここでは、ボルトサイズを決めるために必要な2つの情報、「安全率」と「強度の限界値」について解説します。
1-1. アンウィンの安全率を用いる
強度計算においては、実際にボルトにかかる荷重を大きめに見積もる必要があります。つまり、実際の荷重に安全率を乗じるわけですが、その数値としてはアンウィン(Unwin)によって提唱された値を用いるといいでしょう(下記の表を参照)。
厳密には、多くの条件を考慮して詳細な計算を行います。しかし少し過剰な設計が許されたり、受ける荷重の大きさが正確に分からなかったりする場合は、この安全率を用いて簡易的に選定するのをおすすめします。
応力集中係数などさまざまな因子を考慮する必要がなくなり、手間をかけずに強度計算を行えるようになるからです。
アンウィンの安全率
静荷重 | 動荷重 | ||
片振り繰返し荷重 | 両振り繰返し荷重 | 衝撃・変動荷重 | |
3 | 5 | 8 | 12 |
※上表は材料が鋼の場合の数値を示す。
1-2. 強度の限界値は降伏点にする
ボルトサイズを決める際、アンウィンの安全率を乗じた荷重が、強度の限界値を超えないようにしなければいけません。強度の限界値としては、引張強さや降伏点が挙げられますが、後者を選ぶようにしましょう。
アンウィンの安全率は経験的に決められた推定値のため、理論的な根拠に乏しいという欠点があります。そのためアンウィンの安全率を使うときは、降伏点を選ぶほうが安全です。
下記の表は、ボルトのサイズ・強度区分ごとに降伏荷重をまとめたものです。強度計算の際に活用してください。
※強度計算を簡単にするために、降伏点(単位:kN/mm2)ではなく、降伏荷重(単位:kN)の数値をのせています。
並目ボルトの降伏荷重(単位 kN)
ねじの呼び | 有効断面積(mm^2) | 強度区分 | ||||
4.6 | 6.8 | 8.8 | 10.9 | 12.9 | ||
M4 | 8.78 | 2.1 | 4.2 | 5.6 | 8.3 | 9.7 |
M5 | 14.2 | 3.4 | 6.8 | 9.1 | 13.3 | 15.6 |
M6 | 20.1 | 4.8 | 9.6 | 12.9 | 18.9 | 22 |
M8 | 36.6 | 8.8 | 17.6 | 23 | 34 | 40 |
M10 | 58.0 | 13.9 | 28 | 37 | 55 | 64 |
M12 | 84.3 | 20 | 40 | 54 | 79 | 93 |
M16 | 157 | 38 | 75 | 100 | 148 | 173 |
M20 | 245 | 59 | 118 | 162 | 230 | 270 |
表の参考文献:『機械設計: 機械の要素とシステムの設計(第2版)』オーム社出版 P78 表3.10
2. 【計算例を紹介】ボルトの強度計算のやり方
これまで説明してきた内容を押さえた上で、実際のボルトにおける強度計算のやり方を解説します。
今回の計算条件は下図のように、側面へ2本のボルトで取り付けた部品の先端に、500Nの静荷重がかかった場合を想定します。
基本的な計算手順としては、下記のような流れで行うといいでしょう。
手順①:ボルトにかかる荷重を確認する
手順②:荷重に安全率を乗じて降伏荷重と比較する
2-1. 手順①:ボルトにかかる荷重を確認する
まずやるべきは、ボルトにかかる荷重を確認することです。ねじ部にかかる荷重の種類や大きさを明らかにしないと、ボルトサイズを決められないからです。
今回の条件であれば、ボルトにかかる荷重はモーメント計算によって求めます。モーメント計算のポイントは、部品に力が加わったときに動かない点を見ることです。
上図のように部品の先端に垂直荷重F1がかかると、A点を支点にして部品が回転するように動き、ボルトを引き抜く力F2が働きます。
この引き抜く力に対して2本のボルトは抵抗するため、A点を中心にしたモーメントのつり合いを考えると、下記の式が成り立ちます。
F1×120=F2×30×2
この式を整理すると、ボルト1本にかかる引張力F2は、
F2=(500×120)/(30×2)=1000N=1kN
と算出できました。
2-2. 手順②:荷重に安全率を乗じて降伏荷重と比較する
今回は静荷重のため、安全率は3になります。ボルトにかかる荷重に安全率を乗じると、
F2×3=3kN
となり、降伏荷重の表から、
適切なサイズのボルトは「強度区分4.6のM5ボルト」であると分かりました。
以上がボルトの強度計算のやり方になります。
まとめ
今回はボルトサイズの決めたについて解説しました。紹介した安全率や強度の考え方によって、安全に効率の良い強度計算ができるようになります。
今回紹介した内容が、ご参考になりましたら幸いです。
なお、強度設計に苦手意識があったり、もっと学びたかったりする方には、MONO塾の強度設計入門講座がおすすめです。実務に役立つ強度設計の知識を、ムダなく効率的に学習して頂けます。
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