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航空機における梁の破壊モードと強度評価方法

投稿日:2022年03月08日

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航空機や建築物に多く用いられる構造部材である「梁」ですが、意識して身の回りを眺めてみると、実に多くのモノが梁理論を用いることで強度評価が出来ることに気付きます。

例えば机の周りをざっと眺めるだけでも、机の骨、イス、スタンドライトの取り付け部などがそれらにあたります。

このコラムでは航空機に用いられる梁部材の破壊モードと強度評価方法を解説します。

ただ、梁の強度評価方法は他の製品の強度評価にも有効であるため、強度評価初心者の方は是非本コラムを参考に梁の強度評価方法をマスターしましょう。

(なお、本コラムに用いる数式は、「航空機構造解析の基礎と実際:滝敏美著」を参照しています。)

このコラムを書いた人

強度、振動解析の専門家
計算力学技術者(固体)、(振動)の1級を保有。航空機メーカーで10年、自動車メーカーで3年、それぞれ強度と振動の解析業務を担当する。現在は車載機メーカーで製品の強度・振動の保証業務の取りまとめ役。過去の経験や専門知識を活かして、悩める設計初心者に情報を発信する。趣味はサイクリング、2児の父として家庭と仕事の両立に日々邁進中。

航空機における梁

梁って何のこと?

垂直方向に配置される「柱」に対して水平方向に配置される構造部材のことを「梁」と呼びます。

柱と梁はほぼ全ての構造物に使われていますが、もっとも身近で有名な構造物といえば、「建物」でしょう。

他にも身の回りのモノで例を挙げれば、「イス」、「テーブル」、「棚」、「物干し竿」など、キリがないほど沢山の構造物がこの梁で構成されています。

梁は構造物に加わる荷重に対して垂直に配置されるため、主に「曲げ荷重」を受け持つ構造部材です。

航空機の構造

航空機の構造は、客室や貨物などを載せるスペースとなる「胴体」と、主翼や尾翼などの揚力を発生させるための「翼」に分けられます。

胴体は乗客や貨物を載せる部分です。広い空間が必要となる現代の多くの旅客機や輸送機は、胴体外形を維持するための「フレーム」、軸方向の荷重を受け持つ「縦通材」、曲げ・ねじり・せん断荷重を受け持つ「外板」から構成されている、「セミモノコック構造」を採用しています。

胴体は床によって上下に分けられており、民間機などは一般的に客室や操縦席を床上に、貨物室を床下に配置しています。

翼には機体を浮かせる揚力を発生させる「主翼」と、水平飛行を安定させるための「尾翼」があります。

翼は断面形状を維持するための「リブ」、長手方向に延びる「縦通材」、そして「外板」から構成されます。

翼も胴体と同じようにセミモノコック構造をとることが多いですが、グライダや軽飛行機の一部などには、外板が荷重を取らずに骨組みだけで荷重を取る「トラス構造」が使われています。

航空機の構造に用いられる梁

航空機における飛行時の荷重のつり合い状態を考えると、胴体は重心で支持される梁に、主翼は揚力を受ける片持ち梁に、それぞれモデル化ができます。梁に負荷される荷重は重力(自重)と揚力で、互いに釣り合っています。

ただし民間機の胴体や翼はセミモノコック構造をとることがほとんどであるため、部材毎のミクロな領域における荷重状態に着目すると、胴体が受ける自重による曲げモーメントは上部が引張荷重、下部が圧縮荷重、側部がせん断荷重にそれぞれ分解されます。

したがって曲げモーメントを受け持つ縦通材なども、それほど大きな曲げモーメントを取るわけではありません。

一方で、座席や乗客の重量を支えるための床は、柱と梁の骨組みの上に床板を敷いているため、集中荷重を受ける典型的な梁構造となっています。

他にも予圧を受ける耐圧隔壁や、脚収納スペースの隔壁などが平板で作られている場合には、等分布荷重を受ける梁としてみなすことが出来ます。

梁の破壊モード

梁の破壊モード一覧

下表に梁の破壊モード一覧を示します。

梁に曲げモーメントが負荷された場合、上端と下端で最も大きな引張・圧縮応力が発生し(下図fmax, fmin)、この応力のどちらかが許容応力を越えると梁は破壊します

この時の破壊モードは最も応力の高い端部における引張・圧縮破壊、またはクリップリング座屈です。

また、特殊な条件下のみで成立する「塑性曲げ」や、断面の高い梁に生じる「横倒れ座屈」などの破壊モードもあります。

クリップリング応力

クリップリング応力とは?

薄肉で細長比が小さい断面を圧縮した場合に起こる、局部的な座屈現象をクリップリング破壊と言います。

クリップリング破壊は、圧縮部における板の部分が先ず荷重を取れなくなり、角部分が耐荷できなくなった時につぶれる現象です。

梁に適用する場合には、中立軸から最も離れた最大圧縮応力が働く端部のクリップリング応力を許容応力とします。

クリップリング応力は実験的に求められた値を元に算出される値なので、算出方法が複数あります。

本コラムでは最も広く利用されている、Lockeheed社のCrockettが発表した方法を紹介します。

クリップリング応力の算出方法

①平板要素への分割

断面のクリップリング応力を算出する箇所を、分割します。

②平板要素毎のクリップリング応力の算出

①で分割した平板要素毎にクリップリング応力を算出します。

b/tが小さい領域ではFcyをカットオフ値とします。

また、「One Edge Free」と「No Edge Free」は、板要素毎の端部拘束条件を示します。上図の場合は、片側しか拘束されていないため、「One Edge Free」となります。

この式は全ての延性材料に適用できます。

③クリップリング応力の計算

例のようにクリップリング応力を求める断面が、単一の板要素ではなく、複数ある場合は下式のように平均値をクリップリング応力とします。

④クラッド材の補正

クラッド材とは、板の表面に耐食性向上のための純アルミ層がある部材で、航空機の外板などに用いられます。クラッド材はクラッド層の板厚分だけ強度が落ちるため、クラッド層を除いた板厚でクリップリング応力を計算します。

塑性曲げ

塑性曲げとは?

弾性領域内において、梁の曲げ応力分布は線形であると仮定しているが、実際の梁の曲げは破壊に近づくと線形ではなくなります。この材料非線形を考慮した曲げが「塑性曲げ」です。

塑性曲げは特殊な条件下でしか使用できない計算法なので、もし使う場合には注意が必要です。塑性曲げを適用する条件は以下の通りです。

①最終破壊までに安定した断面であること。(座屈が生じない)

②微小変形領域であること。

③梁に圧縮の軸力が働かないこと。

塑性曲げモーメントの算出方法

本コラムでは、Cozzoneの方法を用いた対称断面における塑性曲げの算出方法を示します。

Cozzoneの方法では下図のように、曲げ応力が台形分布であると仮定して計算します。この時の塑性曲げモーメントは、下式で計算できます。

ここで、Iy:断面二次モーメント、c:中立軸から断面の端までの距離、K:断面形状係数です。断面形状係数はその名の通り、断面形状によって決まる値です。代表的な断面の値と、計算式を以下に示します。

「航空機構造解析の基礎と実際:滝敏美著」から抜粋

横倒れ座屈

横倒れ座屈とは?

横倒れ座屈は下図に示すように、断面が高い梁に曲げ荷重が負荷された時に、圧縮側が横に倒れてしまう座屈現象です。

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