プラント設計者にとってレイノルズ数とはどのように扱われているか?

投稿日:2024年04月14日

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流体を多く扱う工場では、ポンプなどの回転機械を使用して、送りたい液量をコントロールしながら液体輸送をしています。

そういった液移送を行う工場の設計では、たとえ少量の液体でも人がバケツリレーをするのではなく、機械装置で液移送ように設計しています。

少量の水であれば、バケツでくみ取って目的の場所まで運ぶことはできますが、それでは人手もかかる上に、流量のコントロールができず、大量の水は運べません。

流体を扱う工場や施設を設計する場合、その液体挙動はたとえ水や空気であっても、予想とは違う様子を示すことがあるので、注意が必要となる上、失敗は許されません。

例えば、ポンプで1時間当たり10tの温水を送るポンプ設備を設計し、設備が完成した後でいざ動かしてみると、当初の半分の1時間当たり5tしか流れなかったとなった場合、やり直すための金額は建設費以上にかかってしまいます。

つまり、プラント設計者は、実物で試験をすることができない上に、失敗してもやり直しができないといったプレッシャを背負って設備の設計を行うのです。

※液体や気体には、分子量や密度や粘度といった物質固有の物性値がありますが、個々の物性値だけでは流体の状態を表現することは難しいのです。

そこで、設計者が流体の挙動を理解する上で重要な役割を果たすのが『レイノルズ数』です。

レイノルズ数は、流れを支配する速度項と粘性項の比で表す無次元数(単位がない値)で、流体の速度、密度、粘性がどれくらい影響を与えるかを示す重要な指標であり、これによって流れが層流か、乱流かを知ることができます。

ρ:密度kg/m3、L:代表長さ[m]、U:流速[m/s]

μ:粘度[Pa・s]、ν:動粘度[m2/s]

このレイノルズ数が低いときは、「層流」であり、高い値になったときは「乱流」の流体です。

層流と乱流を見分けるときは、蛇口から出る水を見てみるとわかりやすいです。

水の量が少ないときは、蛇口から流れ出る水が透明になって出てきます。これは、流速が遅い為、層流の水が蛇口から出てきています。

一方、蛇口からの水量を上げていくと、透き通っていない水が流れ始めます。水の流速が早くなることで、水が乱流になって蛇口から出ているのです。

層流と、乱流のレイノルズ数の値に境目は明確になっておらず、その遷移境界は2300~4000とされています。そのため、レイノルズ数が2300を超えるか超えないかで層流か、乱流かを判断している設計者が多いです。

代表流さLの使い方を覚える

レイノルズ数を求める式を見てみると、代表長さLとは何か?と疑問に思いませんか。
このレイノルズ数の式では、代表長さは「流路の形状」と「流体内の物体」によって値の取り方が変わります。

単純流路の中のレイノルズ数を求める場合

①円筒管内を流れる場合

円形の配管内では、その流路の内径が代表長さLとなります。

②四角、長方形などの矩形流路の場合で管路が流体で満たされた状態

管路断面積を使って以下の式で変換して代表長さLを求めます。

P: 潤辺(流体に接する管路の外周長さ)

③四角、長方形などの矩形流路の場合で管路が流体で満たされていない状態

排水溝などの断面が矩形で、流体が接する路面が3面しか接していない状態などを想定します。

④2重管の外側管内を流れる場合

熱交換器などで使用される2重管の外側を流れる流体については、以下の式を用いて代表長さとします。

⑤2つの平板の間を流れる場合

平行な二つの平面の間を流れる流体の場合の代表長さは、その2つの平面の間の距離となります。

流体内に物体がある場合の代表長さ

流体内に流路ではない物体がある場合、その物体がどのように流体にぶつかり、流れに影響を与えるかを考えるには、その物体の形状が重要とされています。

そのため、代表長さの捉え方は、様々な研究や実験を行う上で、流体に与える影響が大きいとされる部分を代表長さとして決めています。代表的な例を紹介します。

①流体の中に円筒の物体がある場合

一方向に流れている流体内に円筒型の物体がある場合、その物体の直径が代表長さLになります。

②容器の中で撹拌翼を回した場合

回転する翼の長さ(円形の場合は直径)を代表長さLととらえて計算します。

さらに、レイノルズ数の式で用いる速度Uは、以下の式で求められます。

L:代表長さまたは翼長さ[m]、n:一秒あたりの回転数[rps]

レイノルズ数を聞いて設計者は何を思うか

レイノルズ数は、多い方がいいのか少ない方がいいのかについては、断言はできないですが、以下の様にイメージしておくのがいいのかもしれません。

レイノルズ数が小さいメリット

①流れが層流となっている為、流路の摩擦抵抗(圧力損失)が少ない。

②流体が路壁に振動を与えない。

レイノルズ数が大きいメリット

①流れが乱流となっていることで、撹拌が促進され、流体内の物質の分散に有利

②熱の移動が促進される。

圧力損失は、一般的にダルシー・ワイズバッハの式を使って計算を行います。

Δh:圧力損失(m)、λ:管摩擦係数、Le:配管長さ(m)、v:管内流速(m/s)、D:配管内径(m)

管摩擦係数λを求める式は、層流であればλ=64/Reで求められ、圧力損失は速度に比例して大きくなります。

一方、乱流の場合の圧力損失は、流速の7/4乗に比例して大きくなるため、層流は乱流に比べ速度変動による圧力損失の変化は低くなります(同じ速度で流れるなら層流の方が圧力損失が低くなる)。

よって、管路設計では、なるべく層流の方が圧力損失では有利であると考えます。

しかし、乱流は撹拌操作や温度均一、熱交換においては、層流に比べ非常に優位となるため、このような使い方をする場合は、流体がわざと乱流域になるように設計することが多いです。

まとめ

プラント設計者にとってレイノルズ数とは、流体の状態がどんな状態で流れているのかを算出する値として、一番使用されている値といえるでしょう。

機器を設計する際に、小さな試験装置から大型の実プラントにスケールアップする場合も、無次元数であるレイノルズ数を合わせるように設計を行ったりもします。

流体を評価する際に、レイノルズ数は欠かせない値なのです。