設計において共振周波数を改善する方法とは?

投稿日:2023年01月15日

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モーターやエンジンなどの加振源を含んだ製品の設計において、共振対策は必須事項です。

しかし、振動対策の習得は小難しい数式を理解する必要があり、一朝一夕で身に付くものではありません。

本コラムでは振動対策が必要な設計初心者に向けて、過大な振動を発生させる共振の周波数や振動レベルの改善方法についてまとめました。

これから振動対策を学びたい方は、是非本コラムを参考にしてみて下さい。

共振現象

共振現象とは?

振動の教科書に載っているような、「ばねと質量」や、「紐につるされた重り」などの系だけでなく、建物や機械などの全ての物体には、共振周波数(以降では固有振動数)と呼ばれる振動しやすい周波数が存在します。

共振現象とは、このようにその物が持っている振動しやすい周波数の振動を外部から与えられることで、物体の振動(振幅)が際限なく増幅していく現象のことを指します。

振動が大きくなると物体にかかる負荷が大きくなり破壊に繋がるため、建物や動力源を持つ車などの機械は、一般的に地震や動力源の常用周波数(よく使われる周波数)と固有振動数を避けるように設計されます。

しかし、逆に共振現象を利用した物があります。

その代表的な例が、ブランコです。

ブランコは振り子の共振現象を利用した遊具で、ブランコの揺れに対して同じタイミングで足を前後に振ることで揺れ幅がだんだんと大きくなっていきます。

これは足の前後の振れ(外部入力)の周波数とブランコの固有振動数が同程度となり、ブランコが共振したためブランコの振動が大きくなっています。

逆に足の前後の振れの周波数がブランコの固有振動数と合っていないと、上手くブランコの揺れ幅が大きくなりません。(上手くブランコに乗れない幼児は、足がブランコと同じタイミングで振れていないことがほとんどです。)

他にも携帯電話のバイブレーション機能などは、共振現象を利用している製品の一つです。

なお、「共振」は主に物体の振動に用いられ、対象が音の場合は「共鳴」と呼ばれます。

固有振動数の定義

あらゆる物体は、下図のような「減衰1自由度系」の振動モデルに置き換えることが出来ます。

振動モデルでは、物体の質量をmとし、物体の剛性(変形のしづらさ):kをばねに、振動に対する抵抗:cをダンパにそれぞれ置き換えています。

ただ実際の設計では、①減衰の有無でほとんど固有振動数に変化が無い、②減衰を予測することが困難、であるため、固有振動数は「減衰の無い1自由度系」を使って評価されます。

式の導出は省略しますが、減衰の無い1自由度系における固有振動数:fn [Hz]は、

で求められます。

上式から、固有振動数は物体の剛性(変形のしづらさ):kの1/2乗に比例し、物体の質量:mの1/2乗に比例します。

つまり、物体の剛性:kと質量:mを適切に設定することで、設計前に想定した周波数に共振が発生する周波数を設定することが出来ます。

なぜ共振するのか

ではもう少し詳しく共振が発生する要因を見てみましょう。

物体の振動には、大きく分けて「自由振動」と「強制振動」の2種類があります。(他にも「自励振動」や「非線形振動」などの複雑な振動がありますが、本章では省略します。

過去コラム参照:機械の振動基礎を学ぼう

強制振動のように、外部の加振源から系が振動を受ける場合、系と外部間で振動エネルギーがやり取りされます。

入力される振動の周波数が共振周波数ではない場合には、加振源から系にエネルギーを注入する(振動させる)と、系はこれに反発してエネルギーを押し戻そうとします。

このエネルギーの注入と押し戻しが安定している状態が強制振動です。

一方で自由振動は系内部でのばねと質量の間でエネルギーがやり取りされている状態であり、エネルギーが系の外に出ていきません。従って減衰が無い系の場合、自由振動は永遠に続きます。

この自由振動の周波数が固有振動数です。

強制振動において加振源の振動数が固有振動数と同じになると、系の外にエネルギーが出ていかずに、系の内部のエネルギーが増え続けてしまいます。この現象が共振です。

以下に、固有振動数を入力した場合の系の振幅を示します。

エネルギーが増えると振幅が増えることになるため、共振すると振幅が時間に比例して増加し続けているのが分かります。

なお共振は振幅が無限大となると表現されることがありますが、加振開始の瞬間に振幅が無限大になるわけではなく、上図のように時間に比例して限りなく増大し続ける現象ですので、間違えないようにしましょう。

バネラインとマスライン

製品で共振が起きると振幅が大きくなり、製品の破壊につながってしまいます

従って、モーターやエンジンなどの加振源を持つ製品の場合、いかに加振源が普段使う周波数帯(常用周波数)に共振を持たないようにするかが重要となります。

前章で記載した通り、固有周波数を変えるには、質量:mと剛性:kを変化させる必要がありますが、これらを変更させると固有周波数以外にも振動に影響が出てきます。

本章では、質量:mと剛性:kを変化させたときの影響について紹介していきたいと思います。

マスライン

先ずは質量:mを変化させた場合を考えます。

以下に減衰の無い1自由度系において、質量を2倍にした場合の系のイナータンス(加速度/力)を示します。(イナータンスは振動レベルとも表現されます。)

縦軸は対数です。

質量を2倍にすると、固有振動数は1/√2倍に下がります。

また、固有振動数よりも大きい周波数帯において、一律加速度が下がっていることが分かります。

この横軸に平行になる線は「マスライン」と呼ばれます。マスは英語のmassで、質量を意味しています。

つまり、質量を増やすことで高周波帯の加速度が一律に低下し振動レベルが下がるため、常用周波数帯が固有振動数よりも高い場合、質量を増やして振動レベルを改善する対策が有効です。

ばねライン

次に剛性:kを変化させた場合を考えてみましょう。

以下に減衰の無い1自由度系において、剛性を1/2倍にした場合の系のイナータンス(加速度/力)を示します。

剛性を1/2倍にすると、質量を2倍にするのと同様に固有振動数は1/√2倍に下がります。

しかし剛性を1/2倍にすると質量を2倍にした場合と異なり、固有振動数よりも小さい周波数帯において、一律加速度が下がっていることが分かります。

この線は「ばねライン」と呼ばれ、系の剛性を比較・評価する時にも使われます。

剛性を低下させると低周波帯の加速度が一律に上昇し振動レベルが悪化するため、剛性を変化させる場合には剛性を上げて、固有振動数を上昇させる設計変更をするのが一般的です

また、常用周波数帯が固有振動数よりも低い場合、剛性を上げて振動レベルを改善する対策が有効です。

以下に質量:mと剛性:kを、ともに2倍にした場合のイナータンスを示します。

このグラフでは実現象と同様に、系に減衰を含めています。

図から、固有振動数は変化しませんが、共振を含めて全周波数帯で振動レベルが改善していることが分かります。

つまり、固有振動数を常用周波数帯からずらす以外にも、質量と剛性を上昇させることにより、振動レベルの改善が出来ます。

ダイナミックダンパによる改良

前章では振動レベルの改善には、質量と剛性の上昇が有効なことを紹介しました。

しかし車などの質量の増加が燃費とコストの上昇に直結する製品では、振動対策として安易に重くすることは出来ない場合がほとんどです。

そのような場合の対策に「ダイナミックダンパ」があります。

本章ではダイナミックダンパの原理と効果について紹介します。

ダイナミックダンパの原理

ダイナミックダンパは動吸振器とも呼ばれ、製品の固有振動数とほぼ同じ固有振動数を持っています。

ダイナミックダンパを製品で抑制したい振動モードの「腹」の位置に取り付けると、固有振動数では製品と一緒にダイナミックダンパが振動し、製品が受ける振動エネルギーの一部をダイナミックダンパが吸収して肩代わりすることにより、製品が受ける振動レベルを下げることが出来ます。

以下にダイナミックダンパを含めた1自由度系の振動系を示します。

上図のように1自由度系にダイナミックダンパを含めると、2自由度系の振動系となります。

ダイナミックダンパの効果

以下に減衰を考慮した1自由度系に、ダイナミックダンパを含めた時のイナータンス(加速度/力)のグラフを示します。

なお下図では、ダイナミックダンパの質量:mdを元の系の質量:mの100分の1とし、固有振動数:√(kd/md)が、√(k/m)と同じになるように設定しています。

図から分かるように、ダイナミックダンパを追加すると固有振動数付近で加速度のピークが二つに割れ、ダンパが無い場合よりもピークの加速度が小さくなります。

この時の2つのピークにおける固有モードは、元の系とダイナミックダンパの系が共に振動しているモードとなり、片方のピークではそれぞれがx方向に対称に動く「逆相」に、もう片方ピークでは同じ方向に動く「同相」となります。

なお、ダイナミックダンパを用いた振動レベルの改善は、固有振動数以外の周波数帯には効果が無いため、ダイナミックダンパの質量:mdや剛性:kdのバラつきが大きいとダイナミックダンパの固有振動数がずれてしまい、十分なレベルの低減が出来ない場合があるため慎重な設計が必要です。

ダイナミックダンパは一部の周波数にしか効果が無いことに加えてコストが比較的高い部品のため、製品設計の下流でどうしても形状変更が出来ない場合に使われる場面が多いです。

従って製品の振動レベルの改善には、先ずは剛性・質量の改善から着手し、どうしようもない最終手段としてダイナミックダンパを用いるようにしましょう。

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