ミーゼス応力で強度を評価する方法とは?

投稿日:2021年11月09日

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CAE(Computer Aided Engineering)を用いた強度評価では、「ミーゼス応力」の理解は必須ですが、大学で学ぶ材料力学の教科書にはミーゼス応力は載っておらず、耳慣れないものではないでしょうか?

このコラムでは、強度設計におけるミーゼス応力の意味と実務での使用例を紹介します。

CAE解析で「出力された応力の結果をきちんと評価できていない!」という方はぜひ参考にしてください。

ミーゼス応力の定義

【ミーゼス応力の概要】
ミーゼス応力(またはフォン・ミーゼス応力)は、材料の降伏理論である「せん断ひずみエネルギー説」に基づいて算出される値で、材料の単軸降伏応力であるσy以上になると塑性変形します。

定義を読んでもピンと来ない方も多いのではないでしょうか。はじめての方には、ちょっと難しいお話かもしれませんので、基礎の部分から“かみ砕いて”説明を進めていきます。

通常、材料が引っ張られた時の強度を評価するには、図1に示すように単軸方向(一方向)に棒状の試験片を引っ張ってテストします。

そして、単軸方向に引張荷重を負荷すると図2のように応力とひずみの関係を表す線図を得ることができます。このとき材料が塑性変形をはじめるときの応力が降伏応力σyです。

さて、実際の設計部品には、様々な方向から力が加わったり、複雑な形状をしている部品も多いため、先ほど例で示した試験片のように一方向の単純な応力にはなりません。

このようなケースでミーゼス応力を使うと、3次元の部品に働く複雑な応力状態を正のスカラー量(大きさのみを持つ量)として定義でき、一方向の応力で評価することができます。

このようにミーゼス応力は、複雑な応力の評価に便利なものであり、CAEが活用されるようになってから多くの強度評価で使用されるようになっております。

ただし、定義式が若干複雑なので、手計算や電卓を使ってミーゼス応力を算出することは実務ではほぼありません。

【ミーゼス応力の公式】

下図に示す3次元応力状態におけるミーゼス応力σvmは、

です。

最大主応力σ1、中間主応力σ2、最小主応力σ3を用いることで、下式のように単純化できます。(主応力についてはあとで説明します。)

各主応力を3軸とした主応力空間でミーゼス応力は、半径が√(2/3)σyの円柱で図示され、円柱は弾性変形基準面となります。つまり部材の主応力の状態が円柱の内側である場合が弾性変形であり、円柱面上で降伏状態となり、外側に移ると塑性変形します。

主応力との違い

【主応力の概要】

強度評価に用いられる応力の指標に「主応力」があります。

主応力は引張、圧縮、せん断などが同時に働く複雑な応力状態における、最大・最小の応力値です。2次元応力状態での主応力の例を下図に示します。

上図左は、部材にせん断応力のみが働いている状態を表しています。この部材を45°傾けると右図となり、この状態ではせん断応力が0となる代わりに引張応力と圧縮応力が働きます。

この引張応力が最大主応力、圧縮応力が最小主応力です。つまり主応力とは、せん断応力が0となる方向の最大・最小応力のことです。3軸状態だと中間主応力が加わります。

主応力は、ミーゼス応力で強度判定ができない引張強さが圧縮強さよりもはるかに低い材料や、最大引張応力が破壊現状を支配する疲労強度、脆性破壊強度の強度評価に使用されます。

【主応力とミーゼス応力の差】

具体的な数値を与えた時の、主応力とミーゼス応力の差を計算してみましょう。

式を単純にするために、2次元状態で比較します。2次元状態のミーゼス応力は、

です。3次元状態の式から、中間応力のσ3が無くなります。

Case1:最小主応力が0、最大主応力が引張の場合

σ1 = 300 MPa、σ2 = 0 MPaとすると、

となり、ミーゼス応力は最大主応力と同じ値となります。

Case2:最小、最大主応力が引張の場合

σ1 = 300 MPa、σ2 = 50 MPaとすると、

となり、ミーゼス応力は最大主応力よりも小さくなります。

Case3:最小主応力が圧縮、最大主応力が引張の場合

σ1 = 300 MPa、σ2 = -50 MPaとすると、

となり、ミーゼス応力は最大主応力よりも大きくなります。つまり、最小主応力と最大主応力の符号が異なると、ミーゼス応力は最大主応力よりも大きくなります。

ミーゼス応力を用いた強度評価

強度評価の流れ

金属材料の降伏判定にミーゼス応力を用いることは常識となっています。

弾性・塑性変形域を持つ、鉄やアルミなどの延性材料の強度評価に使用されます。

非金属材料でも引張りと圧縮で挙動が大きく異なるコンクリートのような材料を除くとミーゼス応力が使われます。

ただミーゼス応力には負の値が無いため、応力の引張・圧縮判定ができません。
解析結果で赤く示されている部分が見つかっても、この応力が引張なのか圧縮なのかわからないということです。

従って引張・圧縮の判定には主応力値を使用します。

実際のCAEを用いた強度評価の流れは、

  1. CAEモデルから、部材に加わるミーゼス応力の最大値を算出する
  2. ミーゼス応力の最大値発生部の主応力の値から、応力状態を判定
  3. 引張または圧縮の材料許容値σyをJIS Handbookなどから抽出する
  4. 安全率を考慮して、降伏判定を行う

という順番で強度評価を行います。

具体的な値を用いた強度評価

では実際の材料許容値を用いて、強度評価を行ってみましょう。

ある2次元要素でモデル化した部材の応力状態、材料許容値を示します。

  • 材料:SS400
  • 引張強度:400 MPa
  • 引張降伏応力:245 MPa
  • 安全率:4
  • ミーゼス応力の最大値:90.4 MPa
  • 最大主応力:85 MPa
  • 最小主応力:-10 MPa

このモデルで、最大ミーゼス応力が発生する箇所では、最大主応力が最小主応力の絶対値よりも大きいため、引張応力が支配的であることが分かります。
従って降伏判定は引張降伏応力とミーゼス応力を比較します。

安全率を考慮すると、ミーゼス応力と降伏応力の比が4以下となり部材が降伏するため、設計変更が必要です。