装置建設時に確認する耐震設計の考え方

投稿日:2023年05月09日

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機器を新たに設置する際に、「耐震性は問題ないか?」と確認していますでしょうか。

日本は地震大国である為、多くの人が地震に対する対策を取ることに違和感はなく、どんな機械装置に対しても地震時の対策をとるように心掛けているかと思います。

会社でのある光景として、上司に「機器の耐震性の確認をしなさい!」と言われて、転倒対策をしたものの、本当に大丈夫か説明が出来ずに困った経験がある人もいるかもしれません。

中には、「床にボルトで固定して転倒防止をしているから問題ないでしょ!」と思っている人もいるかもしれません。転倒対策をすれば、耐震性の対応としては十分と考えがちですが、法規上耐震性の評価が必要な場面もあるのです。

そもそも耐震性の確認とはどういった事を確認することを指しているのかを理解しておきましょう。

耐震性の確認とは?

耐震性の確認とは、地震発生時に縦揺れや横揺れが起きた際に、その機器の垂直荷重や水平荷重によって機器の転倒や、機器を支えている構造物が崩壊しないかを確認することです。

大抵の場合は、横揺れ時の水平荷重によって機器が転倒しないか、支持架台の強度が持つかを検討することになろうかと思います。

以下模式図のように水タンクを具体例とした場合、地震時の水平荷重によって模式図に示す➀、➁、③の強度が問題ないかをしらべることになります。その他、タンク本体が地震時に揺らされて変形したり、内部の水が揺動することも場合によっては考えなければいけません。

※適用法規によっては、縦揺れ時の垂直荷重も加味して検討しなければならないので注意が必要です。

図.耐震検討で主に強度を確認する箇所 ①②③

地震時に物を倒す力は「機器重量」と「設計震度」の積で計算する

地震時に生じる荷重を理解する為に、まず地震について知っておかなければならない事があります。

地震の大きさは、一般的に「震度」を使って表現している事は、ご存知かと思います。この震度という値は、地震によって地盤面が揺れる時の加速度の大きさに関係している事が分かっています。

加速度は、その物体の質量(重量)を掛けると、力になります。その力が、地震時に機器に働く力となるのです。ちなみに地震の震度と最大加速度(単位をgalガルといいcm/s2)の関係は、以下の表に目安値が示されています。

よって、地震時に水平に掛かる力は、「️機器の自重」×「地震時の水平加速度」ということになります。

この「地震時の水平加速度」に相当する値を、耐震設計では「設計震度」と呼びます。

※設計震度は、よく記号「K」の値で表されており、KHは水平設計震度、KVは垂直設計震度を表します)

地震時の水平荷重 = 設計震度 × 機器重量

表.震度階級と最大加速度の関係

気象庁震度階級表

震度階級 計測震度 地震加速度(cm/s2)
0 0.5未満 0~0.6ガル
1 0.5以上1.5未満 0.6~1.9ガル
2 1.5以上2.5未満 1.9~6.0ガル
3 2.5以上3.5未満 6.0~19ガル
4 3.5以上4.5未満 19~60ガル
5弱 4.5以上5.0未満 60~110ガル
5強 5.0以上5.5未満 110~190ガル
6弱 5.5以上6.0未満 190~340ガル
6強 6.0以上6.5未満 340~600ガル
7 6.5以上 600ガル以上

注釈:計測震度とは、地震動の強さを示す指標として気象庁が定める計算によって求めます。

国土交通省 気象庁

「地震と加速度について」

引用元:https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/kyoshin/kaisetsu/comp.html

設計震度は適用法規によって求め方が異なる

「設計震度」が加速度を表すなら、上の表から簡単に設計震度を知ることができるのですが、適用法規が絡むと必ずしもそういう分けではなくなります。

地震時に発生する加速度(cm/s2)が耐震性と関係していることは上で説明しましたが、地盤面の設計震度=地震時に発生する地盤面の加速度とみなすことはできても、設置している地盤面の様子や、建物の階層、コンクリート基礎の有無等の条件によって、検討対象となる機器自体(の足元)の設計震度は変わってしまうのです。

その設計震度をどのように求めるかについては、各適用法規によって異なります。

例えば建築基準法においての設備機器の設計震度の考え方は、階層(地表階・中間階・上層階)によってその震度の値を変化させて考えることになっています。

建築基準法の設計震度の求め方

水平設計震度KH=KG×K1×K2×Z×Dss×Is×Ik

K1:各階床の振動応答倍率(1階:1.0、中間階:1.5、上層階:2.5)

K2:設備機器の応答倍率(一般機器:1.5、防振機器:2.0)

Dss:構造特性係数 Dss=2/3

Is、Ik:設備機器や建物の用途や重要度に応じた値

   ※Is×Ik≦2の条件で、Is:1~1.5、Ik:1~1.5

KG:基準震度=0.4(400gal)

上記の式を当てはめると、防振機器でなければ水平設計震度最大KH=2.0、最小KH=0.4となります。

一方、高圧ガス保安法では、KHKS0861で規定されており、機器の重要度と設置する地域、表層地盤によって、設計震度(地表面における設計地震動の水平震度)の値を決めるようになっています。

高圧ガス保安法の設計震度の求め方

水平震度KH=0.15×μk×β1×β2×β3

μk;地震動のレベル(μk=1以上)

β1:機器の重要度に応じた値

β2:地域係数(地域区分に基づく係数であり、0.4~1.0の値をとる)

β3:地層地盤増幅係数

地盤種 係数β3 注記
第1種地盤 1.4 第3紀以前の地盤
第2種地盤 2 洪積層地盤
第3種地盤 2 1,2,4以外の地盤
第4種地盤 2 埋土または沖積層の厚さが25m以上の地盤

高圧ガス保安法では、計算条件によって変わりますが、おおむねKH=0.3程度になります。

その他、消防法等でも機器の設計震度の計算方法の規定があり、設置する機器によってどの設計震度で計算するかを決めなければいけません。

さらに、設計震度においても、水平設計震度と垂直設計震度という2種類があり、垂直設計震度は水平設計震度の2分の1の値とすることになっています。

※垂直設計震度は垂直にかかる荷重を計算する際に使用します。

(例)垂直設計震度による垂直荷重計算例

とある装置を設置した時に、設計垂直震度が0.075である場合は、その機器重量が重量Wkgとすると、地震時の垂直荷重はW×(1 + 設計垂直震度0.075)となります。

ここまで説明すると、耐震の確認はとても面倒に見えるかもしれません。

その為、適用法規がない場合や、とりあえず計算して安全性を確認したい場合などは、
地震加速度をKH=0.3(300gal相当)に装置の重量を掛けた値を地震時の水平力として
検討しておけばよいでしょう。

その場合は、震度5強までは耐えられるかどうかの検討をしているのだと理解すれば良いかと思います。

まとめ

地震時に機器にどれくらいの水平荷重が掛かかるかは、水平設計震度×機器重量で求めることができます。それにより、機器の転倒だけでなく、各機器の架台や基礎等の強度検討等も行えるようになります。

その為、機器の重量が大きくなれば、地震時に水平方向に働く力も大きくなるため、大型の装置を設置する際は、極力耐震の検討を行うようにしましょう。