投稿日:2022年02月25日
「客先から圧縮機の安全対策が不十分であることを言わたので、もっと分厚い板厚に変更しよう」
「強度計算上、肉厚が十分ある容器であるから安全対策は必要ないでしょ」
このような考え方をしては、装置設計は必要以上に強固で過重量になってしまいます。肉厚をいくら増やして強度を保証しても、安全を担保しているとは言えません。
その為、機械設計者はどのような装置に対しても、必ず安全対策を講じておく必要があります。
この記事ではその安全装置の代表と言える安全弁について説明し、その装置を設置するときの注意事項を記載いたします。
安全弁とは
安全弁とは、設計圧力以上の内圧から機械を保護するだけでなく、2次的被害(爆発火災・人的被害)を防止するための圧抜き弁です。
普段は操作する必要がない為、忘れた存在になりそうですが、安全を担保する為の非常な重要な役割を担っています。
ここで安全装置として一般に使用されているものを以下の3つを紹介します。安全弁は、安全装置の代表格ですが、用途に合わせて安全弁以外の方法もあることを知っておきましょう。
表.内圧上昇の安全装置として使用される装置
名称 | 構造 | 用途 |
安全弁 | ばね式やパイロット弁式や重錘式と呼ばれるタイプがある。 | 機械の内圧上昇の防止。 一番用途が多く、安全対策として最も有効である。 |
破裂版(ラプチャーディスク) | 破裂板とその板を押さえるフォルダーによって構成される。 所定の圧力で破裂板が破れ、2次側に圧力解放する。 |
腐食環境下等により安全弁では使用できない環境で使用できる。 ただし、一度きりの使用となる。破れていることを検知する為の検知ノズルを2次側に設置する必要がある。 |
レリーフ弁 | ガスではなく、液体の圧力上昇を防止する為に使用される。 | 液体の加熱による体積膨張防止(液封防止)やポンプの締切運転防止用の安全装置として使用される。 |
ブリーザー弁 | タンク内の微小な圧力変化でも内圧を大気圧に近い値に維持する為の装置。 圧力が上がった際に内圧を外に逃がす弁と、負圧になった際にガスを取り込む弁の2つついている。 |
圧力に対する性能を保証し辛い機械に使用される。 その他、容積が大きい貯蔵タンクにも使用される。 |
図.ブリーザー弁の構造模式図
では、安全弁はどのように作動するのでしょうか?
安全弁は個別に吹出し始める圧力を決めてあり、この設定圧になるまでは、弁体がばねや弁体自身の重さで弁シート部を押さえ付けて密閉する構造になっています。
弁のシート部は蒸気や流体に合わせて材料が選定されており、衝撃に強く、エロ―ジョン摩耗に強い硬さを有する金属が使用されること多いです。(ステライト盛りされたSUS304等)
図.安全弁の動作原理
続いて、安全弁の形状や仕様について説明します。
安全弁には、弁の気密性と弁を閉じる方法とリフト形式の3つの仕様ついて異なるタイプがあります。その仕様について以下にまとめます。
1.弁の気密性
仕様 | 特徴と用途 |
解放式 | 2次側に気密性がない構造、弁が開いたときに、流体が洩れ出る為、外気に放出しても問題ない蒸気や空気の場合に用いる。 |
密閉式 | 弁が開いても、2次側に気密性がある構造。 ガスが外気に洩れることが許容出来ない場合に用いる。 (例)毒性ガス、可燃性ガス、油蒸気 |
2.弁体の形状
形状 | 特徴と用途 |
ばね式 | 弁体をばねの力で押さえつける構造。 仕様例としては最も多い。 |
重錘式 | 弁体の重さのみで押さえつける構造。 安全弁の1次側と2次側の圧力差が小さい場合に用いられる。 ばね式では使用できない低温域の流体でも使用できる。 |
パイロット式 | 安全弁の1次側圧力をパイロット弁を介して、弁体を押さえる圧力に利用する構造。 弁が吹き始める圧力をばね式安全弁より精度よくコントロールしたい場合に用いる。 |
3.リフト形式
弁体形状 | 特徴 |
全量式 | 弁座流路面積が、のど部(弁座への流路部)の面積より十分大きくなるリフト |
揚程式 | 弁座口の径1/40以上、1/4未満のリフトで弁座流路面積が最小となるなるリフト |
安全弁の設置法令と弁購入時の注意
安全弁の設置は、主に法令で求められている場合が多く、弁メーカでは一般的に「圧力容器構造規格」に準拠して製造されています。
その為、ユーザが国内の弁メーカで安全弁を購入した場合、特に適用法規を指定していなければ、圧力容器構造規格が適用されることが多いです。(何に準拠しているかは、メーカからもらう図書の安全弁試験成績書や吹き出し量計算書等に記載されていると思います)
主に安全弁の設置が求めれる法令は、以下の法令です。
- 高圧ガス保安法
- 労働安全衛生法のボイラー、圧力容器
- 消防法(危険物)
- ガス事業法
- 電気事業法
機械設計者は、その安全弁が何の法規に該当するかを弁メーカに連絡をしなければいけません。
適用法規によって、メーカ側で必要となる検査や書類は変わってくるからです。
吹出圧や所要吹出量とは?
安全弁の吹出し圧力は弁の設定圧力とは微妙に違います。
安全弁が吹き始める際の内圧の時間的変化を以下のグラフで示します。
安全弁は吹き始めてから弁体がリフトアップして完全に開ききるまでに圧力が上昇していきます。
その弁体が開き始める圧力を安全弁の設定圧力(吹始め圧力)としています。
そして、弁体が開き切ったときの圧力を吹出し圧力(公称吹出し圧力)としています。
この時の吹始めの圧力から吹出し圧力までの差をアキュームレーションと呼び、法令によってこのアキュームレーションに制限(おおよそ10%前後で規定)があります。
安全弁で流体を吹き出す必要量のことを「所要吹出量」と呼び、吹出し圧力の時にその必要量が吹出されるように設計されています。
図.安全弁が吹出しから吹止りまでの圧力変化
設置検討する際の注意事項
設計者が注意しなければいけない事項として、アキュームレーション(圧力上昇)を考慮せずに設計圧を決めてはいけません。
アキュームレーションによる圧力上昇が許容できない場合は、安全弁の設定圧を下げる等の措置が必要です。
また、適用法規上の安全弁の定義がJIS B 8210で規定されているものに限定している場合もあるので注意が必要です。
その条件は、「設定圧力が0.1MPaG以上で且つのど部が7mm以上の全量式、弁座口15㎜以上の揚程式安全弁になっているか」です。
これに該当しない安全弁を使用する場合は、注意してください。
以上の点に注意して弁の購入を行いましょう。安全弁を購入する時に必要となる情報を下にまとめておきます。
表.安全弁を購入する際に必要な情報(発注者が弁メーカに連絡する内容)
項目 | 連絡内容 |
流体仕様 | 流体名のみでなく、以下の物性を記載する事。 1.「流体の分子量」 2.「液体」、「蒸気」、「液化ガス」、「ガス」のどれか 3.「可燃性ガス」、「毒性ガス」、「毒性ガス+可燃性ガス」、「その他ガス」 のどれに該当するか |
弁取付先の設計圧と設計温度 | 安全弁を取り付ける機器の設計圧力と設計温度 |
所要吹き出し量 | 安全弁の必要吹き出す量を計算で求める。(単位:kg/hr) |
弁の材質 | 流体の腐食性の有無を考慮した材質を指定すること。 |
弁の設定圧力 | 安全弁の設定圧力を決める。弁のアキュームレーションを考慮すること。 |