遊星歯車列の減速比の決め方と諸元計算

投稿日:2025年01月28日

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遊星歯車列はオートマチックトランスミッションやハイブリッドシステムのトランスミッション、風力発電機や航空機にも使われるように多くの機械に減速装置や増速装置として使われています。

この記事では多くの機械に使われている遊星歯車列について説明します。

このコラムを書いた人

歯車設計のスペシャリスト
大手機械メーカー10年中小メーカーで30年機械設計の経験を積み、現在はベンチャー企業で開発設計に従事。その間、試験装置なども設計。2次元CADや3DCADのCATIA、SOLIDWORKS、FUSIONを使用。ものづくりが好きで趣味はARDUINOを使った電子工作と旅行。失敗の数が成長の証。チャレンジに年齢は関係ないと信じて挑戦しています。

遊星歯車列とは

遊星歯車列は、歯車列の中心にあるサンギヤ、その周りにある遊星ギヤ、遊星ギヤを支えるキャリヤ、遊星ギヤに噛み合うリングギヤで構成されています。

図1.遊星歯車列

遊星歯車列には次の特徴があります。

  1. 入出力軸が同一直線上にある。
  2. 外歯車を使った減速機に比べコンパクトで大減速比が得られる。
  3. 制御の仕方次第で逆転、0回転、正転までの無段変速ができる
  4. サンギヤ、キャリヤ、リングギヤのどれを固定するかによって減速比を変えられる
  5. 歯車列を多段化しやすく大減速比が作れる

この記事ではこのような特徴をもった遊星歯車列の減速比の決め方や諸元計算の仕方を解説します。

ギヤ比の決め方

ギヤ比の決め方には2通りの方法があります。一つは計算式で決める方法でもう一つは共線図と言われる図を使って決める方法です。

計算式で決める方法

減速比はどのギヤを固定するかによって変わると書きました。それぞれのギヤを固定した場合の減速比の計算式は次の表の式です。

固定するギヤ 入力ギヤ 出力ギヤ 減速比 減速比例
リングギヤ サンギヤ キャリヤ 3
サンギヤ リングギヤ キャリヤ 1.5
キャリヤ サンギヤ リングギヤ -0.5

表中の記号Zs:サンギヤの歯数、Zp:遊星ギヤの歯数、Zr:リングギヤの歯数、ギヤ比のマイナスは入力軸と出力軸の回転方向が逆になることを表します。

減速比例の数値はZs=38、Zp=19、Zr=76の時の減速比です。キャリヤを固定した場合は入力軸と出力軸の回転方向が逆になります。

共線図を使って決める方法

共線図は、横軸に歯数、縦軸に歯車の回転数を描いた図です。サンギヤの歯数Zs=38、遊星ギヤの歯数Zp=19、リングギヤの歯数Zr=76の歯車列の共線図を考えます。

この歯車列のサンギヤを30回転、リングギヤを0回転とした共線図が下図です。

図2.共線図1

横軸の原点位置がサンギヤの回転数、横軸の76がキャリヤの回転数、リングギヤとサンギヤの歯数の和114がリングギヤの回転数です。サンギヤの回転数のポイントとキャリヤの回転数のポイント、リングギヤの回転数のポイントは直線上にあります。

各回転数のポイントが直線上にあるため、2つの回転数が決まれば残りの一つの回転数は決まります。

下の図は、各ギヤを固定した時の共線図です。

図3.共線図2

遊星歯車列の一つを必ずしも固定する必要はなく外部から強制的に回す使い方もあります。この場合も共線図を使って残りの回転数がわかります。

例としてサンギヤを30回転、リングギヤの回転数を10回転とした共線図を考えます。この図の横軸76の位置から、キャリヤの回転数が16.7回転であることが分かります。

図4.共線図3

共線図から数値を読み取るのは困難ですが、このグラフの式は比較的簡単に出せます。

サンギヤの歯数:Zs、回転数:Ns、リングギヤの歯数:Zr、回転数:Nrとすれば、キャリヤの回転数:Npは次式です。

オートマチックトランスミッションはクラッチ操作で各ギヤを固定させて変速していますが、プリウスのトランスミッションは固定するのではなく回転数を制御して出力軸回転を制御しています。

遊星歯車列では、サンギヤを一定回転で回してもキャリヤ(リングギヤでも可)の回転数を制御することでリングギヤの回転数を逆回転にもゼロ回転にもできます。

遊星歯車列の歯車諸元の計算

サンギヤの歯数Zs、遊星ギヤの歯数Zp、リングギヤの歯数Zrには制約があります。歯数をきめるには3つの条件が必要です。

ピッチ円の検討

サンギヤ(歯数Zs)、遊星ギヤ(歯数Zp)、リングギヤ(歯数Zr)は標準歯車で考えるとピッチ円と軸間距離の関係から次の式を満たす必要があります。

式2は標準歯車で適用されますが、転位歯車の場合は転位係数で軸間距離が変るので必ずしも適用されるわけではありません。

噛み合いの条件

遊星ギヤはリングギヤとサンギヤの両方に噛み合います。また等間隔に配置すればサンギヤに均等に力がかかるため軸は不要です。軸を無くしたことで製造誤差が原因で発生するアンバランスを吸収します。

この2つを満たす条件は次の式です。

Nは遊星ギヤの数です。

例としてZs=36、Zp=19、Zr=76で構成された式3と一致しない歯車列の噛み合いを説明します。

下図は遊星ギヤをサンギヤに嚙合う位置に配置し、一個の遊星ギヤが噛み合うようリングギヤを配置しています。この配置では残りの2個の遊星ギヤはリングギヤと噛み合いません。

遊星ギヤが干渉しない条件

遊星ギヤの数を増やせば、力が分散されるので強度の面からは有利ですが、多くすると隣の遊星ギヤと干渉します。干渉させないための条件は次式です。

上記以外にも最小歯数など歯車としての一般的な制約があります。

まとめ

  1. 減速比は、計算式または共線図で求める。
  2. 共線図を使えば回転数が0以外の条件でも速度比がわかる。
  3. 遊星歯車列は「ピッチ円」「噛み合い」「遊星ギヤの干渉」を検討する。

遊星歯車列は、コンパクトで大減速比を得られ使い方次第で無段変速機にもなります。この記事が業務の参考となれば幸いです。

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