投稿日:2019年02月10日
製造現場の最前線で設計・開発に奮闘されているエンジニアの皆様、
いつもお疲れ様です。
ついに図面を描き上げ、自信満々で試作を依頼した数週間後。
あなたのデスクの電話が鳴ります。
相手は組立現場の担当者です。
「悪いけど、この形状だと工具が入らなくて組めないよ」
あるいは品質保証部から、
「これ、万が一の故障時にユーザーがケガをするリスクを見落としていないか?」
と呼び出しを受ける……。
あなたは深夜のオフィスで図面を修正しながら、
こう思うかもしれません。
「なんであの時、もっとよく考えておかなかったんだろう」と。
実は、このような「手戻り」や「不具合」の多くは、
あなたの設計スキルが低いから起きるわけではありません。
製造業における構造的な「ある落とし穴」に
ハマっている可能性が高いのです。
今回は、多くの若手設計者が直面する「不具合の泥沼」から抜け出し、
スマートに出図を完了させるための
「フロントローディング」と「未然防止」の思考法について深掘りします。
なぜ「頑張っている」設計者ほど、後工程で責められるのか?
私たちは日々、良い製品を形にしようと必死です。
それなのに、なぜ後工程でこれほど多くの問題が噴出するのでしょうか。
その最大の理由は、
「設計をさぼる(=早期の課題抽出を怠る)」ことによる
不適合コストの増大にあります。
製品開発プロセスには、
「商品企画」「構想設計」「基本設計」「詳細設計」といった工程があります。
しかし、工程が後ろに進めば進むほど、
不具合を修正するためにかかる時間とコストは
指数関数的に跳ね上がります。
「構想設計」段階で気づけば数分で直せた寸法ミスも、
量産直前に発覚すれば、金型の作り直しや仕掛品の廃棄、
最悪の場合は市場からの「リコール」に発展します。
驚くべきデータがあります。
自動車業界のリコール届出件数を分析すると、
不具合の原因が「製造工程」にあるものに対し、
「設計段階」にあるものはその約2倍にのぼります。
つまり、製品の運命の大部分は、
製造現場ではなく、
あなたのデスクで図面を描いているその時に決まっているのです。
「試作して不具合が出たら直せばいい」という考え方は、
一見するとスピード感があるように見えます。
しかし、実際には「手戻りの大洪水」を招く、
最も非効率な進め方と言わざるを得ません。
「未然防止」の切り札、FMEAが教えてくれるシステム視点
では、どうすれば「見落とし」を防げるのでしょうか。
ここで重要になるのが、開発の初期段階に負荷をかけ、
あらかじめ課題を出し切る「フロントローディング」という考え方です。
そのための具体的なツールが、FMEA(故障モード影響解析)です。
これは、いわば「トラブル予測チェックリスト」です。
多くの初心者が陥るミスは、
部品単体の不具合だけを見て満足してしまうことです。
しかし、真のプロは「システム全体への波及」を想像します。
例えば、スマートフォンの充電ポートのピンが1本曲がるという
小さな故障を考えてみましょう。
部品単位の視点:
「ピンが曲がって通電しなくなる」
システム・ユーザーの視点:
「充電できない」
↓
「バッテリーが切れる」
↓
「スマホが一切使えなくなる」
↓
「緊急時に連絡が取れず、仕事や生命に関わる重大な事態を招く」
このように、一つの小さな故障モードが、
製品全体の価値を根底から破壊する可能性があることに気づけるかどうか。
それが、設計者の「質」を左右します。
品質を作り込む「3つの具体的ステップ」
明日からの実務ですぐに使える、
品質を作り込むためのアプローチをご紹介します。
【ステップ1】フロントローディングの実践
「設計が終わってから評価する」のではなく、
構想設計の段階から、
製造のしやすさ(DfM)や組み立てやすさ(DfA)を考慮した計画を立てます。
後工程の担当者がお客様であるという意識、
つまり「後工程はお客様」という意識を持ち、
彼らが何に困るかを先回りして潰しておくのです。
【ステップ2】FMEAによる「危険度(RPN)」の数値化
思いつく限りの故障をリストアップしたら、
以下の3つの指標で点数(1〜5点)を付けます。
発生度:
その故障はどのくらいの頻度で起きるか?
影響度:
起きたとき、ユーザーやシステムへの被害はどのくらい大きいか?
検出度:
その故障は出荷前や発生時にすぐに見つけられるか?
これらを掛け合わせた「危険度(RPN)」が高いものから、
優先的に対策を行います。
【ステップ3】「他部署の知恵」を借りるデザインレビュー(DR)
FMEAを一人で完璧に仕上げるのは不可能です。
なぜなら、人間は自分の「思いついた故障」にしか
対策できないからです。
製造、営業、品質保証など、
異なる専門性を持つメンバーを巻き込んだ
デザインレビューを実施しましょう。
現場の「リアルなトラブル事例」を反映させることで、
一人では気づけなかった火種を見つけることができます。
理解度チェック!ミニクイズ
今回の内容を踏まえ、
設計現場で必須となる考え方を確認してみましょう。
Q1.
製品開発において、工程の後ろに行けば行くほど、
不具合修正にかかるコストはどうなるでしょうか?
A. 小さくなる
B. 変わらない
C. 大きくなる
Q2.
設計の初期段階で負荷をかけ、
あらかじめ課題やリスクを出し切って対策する手法を
何と呼ぶでしょうか?
A. バックローディング
B. フロントローディング
C. サイドローディング
Q3.
FMEAで「危険度(RPN)」を算出する際、
掛け合わせる3つの要素は、
「発生度」「影響度」と、あと一つは何でしょうか?
A. 検出度(見つけやすさ)
B. コスト(安さ)
C. 納期(早さ)
▼ ミニクイズの解答・解説は、ページの末尾に掲載しています。
「経験則」だけに頼る設計の限界を突破する
いかがでしたでしょうか。
多くのエンジニアは、ベテランの背中を見て
「なんとなく」で品質管理を学んできました。
しかし、FMEAやFTAといった手法は、
単に書類を作ることが目的ではありません。
これらは「設計者の誠実さ(スチュワードシップ)」を形にし、
会社と自分自身、そして何よりユーザーの安全を守るための武器なのです。
独学でこうした品質保証の体系を学ぶのは骨が折れます。
しかし、一度その「地図」を手に入れれば、
設計者としての視界は一気に開けます。
「なぜこの設計にしたのか」を論理的に説明できるようになり、
周囲からの信頼も格段に高まるでしょう。
・「手戻り」のループから抜け出し、定時に帰れる設計者になりたい。
・デザインレビューで質問攻めにされても、自信を持って答えたい。
・市場不具合のリスクを最小限に抑え、プロとしての責任を果たしたい。
そうお考えの皆様のために、
設計者に必要な品質保証(信頼性設計)から、
プロジェクト管理、安全対策、法令までを網羅した
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この講座では、今回触れたFMEAの具体的な演習はもちろん、
故障の原因を深掘りするFTA(故障の木解析)や、
設計変更に特化したDRBFMなど、
現場で即戦力となる手法を体系的に学ぶことができます。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【回答・解説】手戻りを防ぐ設計思考ミニクイズ
記事内の「品質・手戻り対策編」ミニクイズの正解と、
実務に役立つ詳しい解説をお届けします。
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Q1.
製品開発において、工程の後ろに行けば行くほど、
不具合修正にかかるコストはどうなるでしょうか?
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正解:C. 大きくなる
【解説】
製品開発のコストには、
プロジェクトの後半、つまり後工程になるほど、
不具合修正にかかる費用が指数関数的に増大するという特性があります。
例えば、構想設計の段階でミスに気づけば、
図面上の数字や文字を修正するだけで済み、
手間もコストも最小限です。
しかし、量産直前や出荷後に不具合が発覚した場合、
金型の修正、部品の再製作、仕掛品の廃棄、
さらには市場からのリコールといった
膨大な「外部不良コスト」が発生してしまいます。
設計段階でしっかりとリスクを潰しておくことが、
結果的にプロジェクト全体のコスト削減と成功につながるのです。
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Q2.
設計の初期段階で負荷をかけ、
あらかじめ課題やリスクを出し切って対策する手法を
何と呼ぶでしょうか?
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正解:B. フロントローディング
【解説】
製品開発の初期段階、
つまり商品企画や構想設計などの段階にしっかりと計画や設計を行い、
後工程での手戻りを減らす手法を
「フロントローディング」と呼びます。
多くの設計現場では、
「まずは試作して、不具合が出たら直せばいい」
と考えがちです。
しかし、これでは後工程で問題が噴出し、
修正作業に追われることになります。
初期段階で、
製造のしやすさ(DfM)や組み立てやすさ(DfA)などを考慮し、
課題を先回りして解決しておくことで、
開発の効率を大幅に上げ、リスクを最小化できるのです。
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Q3.
FMEAで「危険度(RPN)」を算出する際、
掛け合わせる3つの要素は、
「発生度」「影響度」と、あと一つは何でしょうか?
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正解:A. 検出度(見つけやすさ)
【解説】
FMEA(故障モード影響解析)では、
想定されるトラブルの優先順位をつけるために、
以下の3つの指標を掛け合わせて
「危険度(RPN:Risk Priority Number)」を算出します。
発生度:
その不具合がどのくらいの頻度で起きるか
影響度:
起きたとき、ユーザーやシステムにどの程度の被害、
たとえば安全上のリスクなどを与えるか
検出度:
その不具合が出荷前や発生時にすぐに見つけられるか
※見つけにくいほど点数が高くなります
これらを数値化することで、
限られた時間とコストの中で、
「どのトラブルから優先的に対策すべきか」を
論理的に判断できるようになります。
「とりあえず図面を描く」から
「品質をコントロールする」設計者へ
いかがでしたでしょうか?
今回出題した「フロントローディング」や「FMEA」は、
設計者にとって、会社やユーザーを守るための
非常に強力な武器となります。
しかし、実際の現場でこれらを使いこなすには、
単なる用語の知識だけでなく、
体系的な手順、つまり設計者としてのOSの理解が必要です。
・「未然防止」の視点を、どう設計プロセスに組み込むか?
・「信頼性」を客観的に評価し、他部署をどう納得させるか?
・「安全規格(ISO/JIS)」に基づいた妥当な設計とは何か?
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