投稿日:2022年11月21日
皆さんは、「ラーメン構造」という言葉をご存じでしょうか?
学生の頃に構造力学や材料力学等で聞いたことがある(記憶がある)なと思った人は、素晴らしい記憶力を持っています。私は機械専攻でしたが、この言葉は仕事をはじめてから知ることになりました。
昔、私が設計した機器架台を指さしながら、「この機器架台は、ラーメン構造になっていない」と一緒に働いていた建築士から言われたことがありました。その時は「え?ラーメン構造?」、「ちゃんと梁と柱の強度計算をしたんだから大丈夫なはず」と見当違いなことを考えていました。その建築士が何を指して「ラーメン構造でない」と言ったのか、当時は理解出来ていませんでした。
そもそもラーメン構造とは何でしょうか?
ラーメン構造とは、垂直の柱と水平の梁からできるフレーム構造で、その梁と柱の結合部を一体化させた構造体のことを指しています。「ラーメン」という言葉は食べ物ではなく、ドイツ語のRahmen(枠)からこのように呼んでいます。ラーメン構造は、梁と柱の接合方法が剛体であり、梁や柱が変形しても、その接合箇所の角度は、変化しない構造をいいます。
➀角度が変わらない剛体接合
梁と柱の角度が変わらないということは、その接合部にはせん断応力とモーメントの反力が加わっていることになります。
➁梁や柱は変形が起きる
それぞれの変形にはパターンがあり、梁にはせん断応力と曲げ応力、柱には曲げ応力と軸応力(圧縮・引張応力)とせん断応力が負荷することになります。
ラーメン構造は、柱と梁の角度が90度を維持したまま変形するため、この構造に外力が加わった時に、以下のイメージの様に変形します。
地震等で発生する外力を、柱や梁の全体で負荷する構造となっているのがラーメン構造の特徴です。その為、梁と柱を頑丈にしなければならないので、トラス構造やブレース(筋交いや斜め部材)構造に比べると、柱や梁は大きい部材を採用します。又、高層階の建築物では、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の構造が主流です。このことから、ラーメン構造の材料費は比較的高額になってしまうという側面もあります。
「じゃあ、ブレース構造の方が安価だから良いですね」とはなりません。ラーメン構造は枠の形状であり、柱の間にブレースを不要としている為、住宅や作業場では空間を作りやすいといったメリットがあるのです。ラーメン構造は、自由に建築物を設計する為には必須の構造なのです。オフィスビルやテラス等の広い空間ではブレースの無いラーメン構造が採用されています。
ブレースのない広々したロビーはラーメン構造で設計されている
その一方で、ブレース構造は補強がしやすいというメリットがあります。建築基準法の改定で、耐震設計を既存の建造物に施す為に、ブレース構造を外側に取り入れる場合もあります。もとはラーメン構造を併用していても、耐震補強はブレース構造になっている場合も多いです。
バルコニー外にブレースを取り付けることで耐震補強をしている建築物も多い
ラーメン構造の剛体接合とは?
ラーメン構造は、角部を剛体として扱う必要があるため、その接合部の曲げ応力で部分的な変形を防止する工夫が施されています。はじめに記載していましたが、過去に私が建築士から指摘された「機器架台がラーメン構造になっていない」と言われた理由は、この接合部の補強が不十分(全くしていなかった)であったことが原因でした。
建築の分野では、柱と梁の接合部や柱脚部(地盤面と柱の接合構造)が特に変形しやすい部位として、特に気を付けて設計するようになっています。その為、ただ鋼材を溶接でつなぎ合わせただけの梁柱接合部では、局部的に変形が起きてしまうと判断されてしまうのです。
ラーメン構造での柱に負荷する曲げモーメントについて
ここからラーメン構造の代表的な2つの例を使って、梁柱にどのように曲げモーメントが負荷しているかを見てみます。ここで紹介する2つの例は、柱脚固定とピン接合の2種類を例です。上から分布荷重が負荷している状態で、どのように曲げモーメントが掛かっているかをその図を以下に示します。
柱の部分のみを見てみると、上にいけば行くほど、曲げモーメントが大きく負荷しています。ラーメン構造では、梁に負荷する荷重がこの柱に曲げモーメントとして伝わる為、柱には圧縮応力だけではなく、曲がる力も柱に伝わるのです。
※この記事では特にふれていませんが、梁と柱をピン接合でくっつけたトラス構造の場合は、モーメントは伝わりません。
門型ラーメン(柱脚固定)の計算例
部材の係数k=I_b/I_c ×h/L
H_a=〖―H〗_d=(wL^2)/4h(2+k)
M_a=M_d=(wL^2)/12(2+k)
M_b=M_c=― (wL^2)/6(2+k)
M_max=(wL^2)/24×(2+3k)/(2+k)
門型ラーメン(柱脚ピン)の計算例
部材の係数k=I_b/I_c ×h/L
H=H_a=― H_d=(wL^2)/4h×1/(2k+3)
M_b=M_c=― H_a×h
M_max=(wL^2)/8×(2k+1)/(2k+3)
ラーメン構造の曲げ応力は、ひずみ量のつり合いから求める解法やひずみエネルギーのつり合いから求めるエネルギー法などあるのですが、正直結構面倒です。
上記の様に、一般的な形状はある程度公式化されているので、公式集をみると良いかもしれません。
実際に接合部はどうすればいいのか?
梁と柱を剛体接合とする為には、ただ溶接するだけではなく、その接合面に生じる曲げモーメントによって変形を起こさない様に強化することが必要です。その代表的な構造を下に示します。
一般的に用いられているのが、通しダイヤフラムと呼ばれる剛体接合です。この構造は、ダイヤフラムと呼ばれる板材を柱に取り付けることで、その部分の変形を防止することが出来るようになっています。実際の建設工事では、あらかじめ工場で短く切った梁(ガセット)を所定の方向の柱に取り付けておき、現場に持ってきてから梁と高力ボルトで締結することがほとんどです。そうすることで、梁を取付ける際に、部材を現場で加工する手間がなくなる為、現場での組み立て作業の効率がぐっと上がります。
ラーメン構造として成り立たせるには、ただ単純に大きい部材の梁と柱をくっつけるのではなく、その接合面にダイヤフラムと呼ばれる補強板を取り付ける工夫が必要なのです。
まとめ
多くの建築物や構造物は、その構造体にブレースが入っていなければ、そのほとんどはラーメン構造で設計していることになります。しかし、機械設計者であっても私のように、梁や柱の強度は意識しても、その接合点の強度を意識していない人が多いので注意が必要です。身の回りの建物や構造物が、「どのようにラーメン構造となっているか」という視点で観察してみるのも、新たな発見があるかもしれません。