投稿日:2021年12月10日
部品の強度評価には、大きく分けて「静強度」と「疲労強度」があります。
静強度は材料や形状によって決まる「許容値」に対する「負荷荷重(応力)」の評価であるため、計算も単純で比較的分かりやすいのに比べ、疲労強度は「許容値」以外にも「応力集中」や「繰り返し回数」を考慮する必要があり、強度評価初心者の方には若干複雑です。
このコラムでは、金属における疲労破壊の基礎と、疲労強度の評価の流れを紹介します。
強度評価初心者の方で、疲労破壊の概念を勉強したい方はぜひ参考にしてください。
このコラムを書いた人
強度、振動解析の専門家
計算力学技術者(固体)、(振動)の1級を保有。航空機メーカーで10年、自動車メーカーで3年、それぞれ強度と振動の解析業務を担当する。現在は車載機メーカーで製品の強度・振動の保証業務の取りまとめ役。過去の経験や専門知識を活かして、悩める設計初心者に情報を発信する。趣味はサイクリング、2児の父として家庭と仕事の両立に日々邁進中。
疲労破壊とは?
【疲労破壊現象】
疲労破壊は、「部品が繰り返し応力(引張)を受けることで、引張強度以下の応力負荷状態で生じる破壊現象」です。
静強度の定義では、弾性変形の範囲内であれば、荷重を除荷すると変形は元に戻るとされています。
しかし、これは人間の目で見える巨視的な範囲での定義であり、原子レベルの微視的な観点では、弾性変形範囲内でも一部の原子は元の位置に戻らない「非弾性的」なふるまいである「転位現象」を起こします。
疲労破壊は、この転位現象が繰り返すことで材料にダメージが蓄積していき、遂には破壊してしまう現象です。
疲労破壊は金属だけでなく、樹脂やプラスチック、ガラスなどでも発生します。
また、部品が加熱と冷却を繰り返し受けることで発生する「熱疲労」や、接触部品のすべりによって発生する「フレッチング疲労」など、特殊な疲労破壊現象があります。
損傷許容設計
疲労破壊を考慮すると部品が重くなりますが、航空機や原子炉などのように、重量、コスト、安全性などの制約で、十分な疲労強度を持てない部品もあります。
この様な部品は、繰り返し応力がかかる運用中に、検出できない初期き裂が発生し進展していくことを前提として部品寿命を評価する「損傷許容設計」が用いられます。
損傷許容設計は部品の交換を前提としており、下図のようにき裂がある程度進展しても、部品が持つ強度(残存強度)が繰り返し応力を上回るように、部品の交換期間を設定します。
部品の寿命が短くて良い分、疲労破壊の繰り返し回数が小さくなるため、繰り返し応力が大きくなっても疲労強度が満足できるようになります。
損傷許容設計は疲労強度の評価概念とは全く異なったものですが、航空機の設計者は疲労強度設計と併せて覚えておきましょう。
①材料許容値
材料の疲労特性の評価には、縦軸に応力、横軸に繰り返し回数を示したS-N曲線が用いられます。
横軸の繰り返し回数は対数で表します。
S-N曲線は、鉄鋼系材料と非鉄系金属材料で疲労特性が異なります。
下図のように、鉄鋼系材料では、ある繰り返し応力:σlim以下の応力では疲労破壊が起こらず、直線となる領域が存在します。この時のσlimを疲労限度といいます。
これに対して、アルミなどの非鉄系金属材料には明確な疲労限度はありません。
航空機などの場合では、最大運用回数である107回の時の応力値を疲労限度とするのが一般的です。
S-N曲線は疲労試験のデータから引いた線であり、以下のような細かい条件が決められています。
設計初心者の方は、間違った定義をしていないかを確認しましょう。
②応力集中
部品の断面形状が急変する場所では局所的な応力の増大現象が生じますが、これを応力集中といいます。
下図に、一様に引張応力が働く無限平板の、円孔周辺の応力状態を示します。
この時の応力の増加率を示す応力集中係数:Kは、3.0です。
疲労破壊は応力集中が発生する箇所で起きるため、応力集中がどのような場合に起きるかを把握することは設計者には非常に重要です。
応力集中係数は部品の形状だけでなく、荷重の負荷方法(曲げ、ねじり、引張)でも異なるため、注意が必要です。
なお、金属材料のような延性材料の静強度評価には、応力集中は考慮しません。
なぜなら延性材料が破壊する際には応力集中箇所から順に塑性変形していくため、塑性変形部から荷重を取れなくなり、結果的に破壊時の応力分布が均一となるからです。
逆に塑性変形しない脆性材料は、静強度でも応力集中を考慮する必要があります。
③疲労寿命を計算してみよう
では、実際の値を用いて疲労寿命を計算してみましょう。
なお本章で用いる計算は、簡略化のため以下を前提としています。
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