投稿日:2025年09月03日
機械の動きを高精度かつ安定して支える、それが「ガイド(案内要素)」の役割です。本記事では、直線運動から回転運動まで幅広く使われるガイドの基礎を解説します。
機械設計を学びはじめた方に向けて、ガイドのポイントをわかりやすくまとめましたのでご一読ください。
このコラムを書いた人
武田(もの猫):機械設計のプロフェッショナル
製造業で10年以上にわたり機械設計に従事し、機械設計技術者試験1級を保有。基本設計から評価、量産までの工程を経験しています。若手技術者の育成や設計リーダーとしての役割も担い、幅広い業務での知見をもとに、実務に役立つ情報を発信することを目指しています。
ガイド(案内要素)の種類との基礎知識
まず押さえておきたいガイドの基本ポイントは、「摩擦」「剛性」「精度」です。ここを理解しておくと、カタログを開いた瞬間にどの方式が自分の装置に向くか、おおよその当たりがつけられるようになります。
摩擦 ― 動きを軽くする
ガイドには「滑って動くもの」と「転がって動くもの」があります。すべりガイドは、引き出しレールのように面同士がこすれ合って動くため、動き出しには力が必要です。
その反面、構造が単純で、重いものをゆっくり動かす用途には強い味方になります。
転がりガイドは、スケボーの車輪のようにボールやローラが間に入る方式で、軽い力でサッと動き出します。高速で位置決めしたいロボットや産業機械が多く利用するのはこちらです。
剛性 ― 押されても曲がらないか
剛性は“たわみにくさ”と考えるとわかりやすいでしょう。鋳鉄でできたすべりガイドは、剛性が高く、面同士の広い面積での接触の為クッションの役目を果たし、振動を吸収してくれます。
一方、軽量で細いアルミのフレーム製のガイドは、曲がりやすくなるので要注意です。
精度 ― 何度でも正しい位置に
加工機では、刃先をミクロン単位で動かす必要があります。このためには、ガイドがまっすぐ・滑らかに動くことが大前提。機械によってさまざまな指標がありますが基本は次の二つです。
- 真直度:移動中にどれだけ真っすぐ移動するか
- 繰返し精度:同じ位置に戻したとき、誤差がどれだけ小さいか
代表的なガイド要素
ここからはガイドを 「直動(リニア)」と「回転(ロータリ)」の二つに分け、それぞれの代表例について特徴を見ていきましょう。
直動のガイド
すべりガイド
旋盤のベッドとキャリッジに代表される古典的な案内方式です。固定側と稼動側のガイド面の間に一定時間毎に潤滑油を供給する方法や摩擦抵抗の少ないフッ素化合物の樹脂板等を挟む方法が採用されています。
特徴としては、摩擦抵抗が高く、高速運動や高精度な位置決めには不向きですが、剛性・減衰性が高いことから重量物の工作物や重切削を行う大型のマシニングセンタで採用されています。
転がりガイド
鋼製レールの溝をボールまたはローラが循環して転がる、現代の主流ガイド。摩擦係数は極小で高速送りが可能です。ボールタイプは安価で汎用、ローラタイプは線接触で剛性が高く、工作機械や射出成形機など重荷重向きです。
リニアスライドレール
OA 機器や車載インテリアでおなじみの薄型レール。ブロック形状が箱ではなく板状なので、厚みをとらないのが最大のメリットです。
耐荷重は小さめですが、長ストロークに対応しやすく、プリンターの紙搬送トレーや自動倉庫の小型昇降体などに多用されています。
ボールブッシュ
ボールブッシュは、中空の円筒(外筒)の内側で鋼球が循環しながら、シャフトの外周を転がることで直線運動を支持します。コンパクトな直動ガイドとして軽量搬送ユニットに向きますが、1 本支持ではモーメントに弱い点は注意が必要です。
直動ガイドについては以下の記事もご覧ください。
回転のガイド
すべり軸受
軸とブッシュが直接接触し、荷重を面で受ける軸受です。 一般的にすべり面に油(油軸受)や空気(空気軸受)を作動流体として介在させ摩擦抵抗を低減させています。
表面が面接触のため振動や騒音が少なく、水中ポンプや MRI 装置など静粛性が最優先の機器に最適です。油膜を切らさないよう、軸のくぼみにスパイラル溝を刻んでポンプ作用を持たせる方法もよく行われています。
転がり軸受
転がり軸受は、内外輪の間に転動体を挟み「転がり摩擦」で軸を支える最も一般的な回転ガイドです。
ボールタイプ(玉軸受)は、ラジアル荷重に強く、家電モータや電動工具で定番。スラスト荷重も扱いたいときはアンギュラ接触玉軸受を背中合わせで配置すれば、両方向から押さえ込めます。
ローラタイプ(ころ軸受) は、円筒・円すいローラが線接触で荷重を受けるため重荷重に強く、建設機械の走行部や大型ギヤボックスで活躍します。円すいころ軸受を向い合わせにすると、ラジアルとスラストを1組で同時支持でき、省スペース化も可能です。
磁気軸受・エアベアリング
最後に、少し特殊ですが「部品同士がいっさい触れない」非接触軸受について紹介します。どちらも「摩耗粉が出ない」「潤滑油が要らない」ためクリーンルームと相性抜群です。ただし、制御の複雑さやコスト面が課題なので、用途を見極めて検討しましょう。
磁気軸受 は、軸を取り囲むコイルで磁力を作り、軸を浮かせて回します。軸の位置はセンサで常時測り、コンピュータ制御で電流を微調整しながらバランスを取ります。
摩擦がゼロなのでグリース不要で金属粉も発生せず、超高速でも静かに回せるのがメリットです。ただし、電源が切れると落下するため、非常時用に「補助ベアリング」を必ず併設します。
出典元:株式会社ジェイテクト
エアベアリングは、軸やスライダーのすき間に圧縮空気を薄く(数µm)吹き込み、その空気膜の上を滑らせる方式です。
構造はシンプルで、ノズル穴や多孔質セラミックから空気が均一ににじみ出るようにします。こちらも摩耗ゼロ・低振動で、半導体装置や精密測定機で用いられています。
出典元:オイレス工業株式会社
選定時の5つの留意点
ガイドを選ぶときの留意点として、まずは、次の5つをチェックすることから始めましょう。
荷重と剛性を見積もる
ガイドにかかる最大荷重を計算し、その2~3倍の定格荷重が取れるサイズを選ぶと安心です。さらに、たわみが気になる場合は、ワンサイズ上げて確実に剛性を確保しましょう。
速度と加速度を決める
「どれくらい速く、どれくらい短い時間で止まりたいか」を先に決めると、必要なモータとガイドの組み合わせが絞れます。速く動かすほど低摩擦の転がりガイド(軸受)が有利です。
潤滑のしくみを用意する
油やグリースは「入れれば終わり」ではなく 切らさない仕組みが大切。ときどき手動で給脂するか、自動給脂器を付けるか、メンテナンス体制に合わせて選びましょう。
使用環境を考える
粉塵・水分・薬品の有無で寿命が大きく変わります。汚れが多い場所ならシール付き、湿気が多い場所ならステンレス製、クリーンルームなら低発塵グリースなど、環境に合わせた仕様 が必須です。
保守と交換のしやすさ
ラインを止められない装置は、ネジ数を減らしたり、ユニットごとに交換できたりする構造にしておくと後々ラクです。カタログだけでなく 実際の交換作業 を想像して選びましょう。
最後に|ガイド(案内要素)の種類まとめ
本記事では、ガイドを「直動/回転」「すべり/転がり」という軸で整理し、代表例と選定のポイントを紹介しました。
荷重・精度・環境条件を最初に洗い出し、適切な潤滑と定期点検を組み込むことで、長く安定した動きを引き出せます。
迷ったときは、本記事を思い出し、実機で確かめながら最適な案内方式を選んでみてください。
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