解析前に知っておきたい材料定数と単位系の関りについて

投稿日:2021年12月08日

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CADに導入するCAEソフトを扱う際、
荷重や拘束条件など様々な入力項目があるかと思われます。

その中で、
意外と軽視されがちなのが『材料定数』です。

材料定数の数値を間違えて入力しても、
計算の途中にエラーが出ることはないため
他の入力項目よりも注意する必要があります。

今回はその材料定数とCAEの関りについてご説明します。

そもそも材料定数とは何か?

材料定数とは、ステンレス鋼やアルミニウム、
チタンといった機械材料の物理的性質を数値で示したものです。

CAEによる応力解析で主に使われるのは、
材料定数のヤング率(縦弾性係数)、ポアソン比、密度などがあり、
解析前に必ず入力する値となります。

そのため、開発している製品の解析を行う場合、
使用する機械材料を設計技術者に聞いて、事前に材料定数を調べておく必要があります。

もしくは組立図に書かれている部品図からも、
一つ一つに機械材料が明記されていますので、解析前に目を通しておくことをオススメします。

他にも、
ベアリングやスペーサーなどは購入品を使用する場合があるため
こちらはメーカーのカタログから機械材料を知ることができます。

解析の内容によっては熱膨張率や熱伝導率、比熱も必要に応じて入力しなければなりませんが、応力解析やモーダル解析(固有値解析)では、先にも述べたヤング率、ポアソン比、密度が最も重要になります。

では、お馴染みの「鋼材」の材料定数を調べてみましょう。

【SS400(一般構造用圧延鋼材)】
 
ヤング率:205 GPa
ポアソン比:0.3
密度:7.85 g/cm^3

【SUS304(ステンレス鋼)】
 
ヤング率:193000 MPa
ポアソン比:0.29
密度:7900 kg/m^3

こちらはWEBの検索ボックスで、
SS400 ヤング率」といった感じで簡単に調べた数値となります。

勘の良い方はお気付きだと思いますが、
ポアソン比以外は単位がまったく統一されておらずバラバラです。

もし単位を統一しないまま数値を入力して解析を続けますと、
出力された結果がまったくの無駄になる可能性さえあります。

「そんな間違いは誰でも気付くよ」と思いがちですが、
あくまでヤング率や密度に限った話なので
入力する項目が増えれば単位の設定もより複雑になります。

CAEの経験者に、
新しく開発する部品の材料定数をネットで調べたと報告したら
「入力する数値の単位は統一しているのか?」と厳しく聞かれるはずです。

材料定数は、
参考にした資料によって単位がそれぞれ違うため、
解析の目的に合わせたものへ換算する必要があることを覚えておきましょう。

設計や解析時に混乱する単位系の役割

機械分野の技術者であれば『SI単位系(国際単位系)』のことは学んだと思われます。

長さであればメートル(m)、質量は(kg)、時間は秒(s)と決まっており、世界で通用する一貫性のある単位系として知られています。

このSI単位系ですが、力の単位はニュートン(N)であり、過去に用いられていた重量キログラム(kgf)ではないため、近年は材料定数もこれに準拠しています。

例えば、上に記載したSS400とSUS304のヤング率ですが、SI単位系によるギガパスカル(GPa)とメガパスカル(MPa)です。

「ギガ」や「メガ」はパソコンでもお馴染みの記憶容量に関わる用語なので、知っている人も多いかと思われますが、ギガはメガのおよそ1000倍になります。

そのため、ヤング率の単位をMPaで統一するとなれば、SS400は205000MPaとなります。

ギガとメガの換算は簡単ですが、複雑なのは後ろにある「パスカル(Pa)」であり、「1Pa=1N/m^2」と定義されるため、ニュートンやメートルが含まれる「N/m^2」や「N/mm^2(MPa)」の単位をCAEで用いるケースもあります。

設計図のほとんどはミリメートル(mm)で記載されています。

しかしながら、SI単位系の長さはメートル(m)であるため、例えば応力解析での荷重による変位量を見たい場合、ヤング率の単位をPa(N/m^2)で設定すれば、出力された結果の変位量はメートル単位となり、資料を作成する際にわざわざミリメートルに換算しなければなりません。

1m=1000mmなので換算が容易ですが、
本当に困るのはGPa、MPa、Pa、N/m^2、N/mm^2の区別が良く分からず、
ネットで調べた数値をそのまま解析で使用してしまうケースです。

例えばSS400の応力解析を行う際、「荷重による歪の変位量を見たいから、解析結果はミリメートルで出力して」という依頼があれば、ヤング率は205GPaではなく、205000MPa(N/mm^2)を入力して統一を図る必要があります。

CAEソフトの仕様によっては、数値入力の際に単位の設定項目がないパターンもあるため、「205」と「205000」では計算結果の違うことが一目で分かりますよね。

単位の設定項目があったとしても、205GPaを間違えて205MPaと入力すれば、出力された結果が無駄になるのは火を見るよりも明らかです。

また、荷重についても入力はニュートン(N)となりますが、過去に重量キログラム(kgf)を使用していた場合、1kgf=9.80665Nに換算するなどの細かい調整を経て解析モデルを完成させます。

入力間違いによる被害を出さないために

単位の間違いは後々まで影響するため、
CAE初心者の方は特に気を付けて材料定数を入力してください。

材料定数の入力項目はそれほど多くはないため、
一つ一つの単位にちゃんと意味があることを覚えておきましょう。

また、STEPやIGESといった3Dモデルの中間ファイルで取引先とやり取りする際、インポート時に単位が変わってしまう可能性もあり、ミリメートル寸法のはずがメートル寸法で解析を行ってしまい、使い物にならない結果が出力されることもあります。

こうした問題を防ぐため、計算処理を行う前に経験者からのアドバイスを受け、元データの3Dモデルや入力した項目を確認してもらう習慣を身に付けましょう。

解析の対象となる3Dモデルが複雑になればなるほど、計算に要する時間もそれに比例して増えますので、事前に問題を回避すれば工数の削減にも繋がるはずです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

先にも述べた通り、
材料定数は機械材料の物理的性質を定義した数値なので、
桁が一つでも間違えば解析結果が大きく変わる重要な入力項目です。

荷重や拘束条件などは3Dモデル上に表示されるため、間違いに気付きやすいですが、材料定数はすぐに入力が終わってしまうことから、CAEの初心者は注意を払わずに計算処理を行ってしまう可能性があります。

材料定数が思わぬ落とし穴にならないよう、
日頃から慎重に扱うことが大切だと思われます。

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