投稿日:2021年12月02日
回転する部品が機構に含まれる
製品には「振動」の問題が避けられません。
近年では、
CAEを用いて部品やアセンブリの固有振動数を解析し、
設計した製品の振動や騒音を事前に抑えることが可能となりました。
しかしながら、経験の浅い多くの技術者にとって、
振動を極力抑えるよう設計するのは至難の業だと思われます。
今回は、甚大な被害を生む振動の問題について、
皆さんと一緒に考えてみましょう。
設計により意外な振動が発生する仕組み
振動とは、
物体が左右に揺れ動く現象のことであり
それに伴い騒音や共振などが発生する可能性があります。
物体の形によっては、太鼓のように製品の内部に振動が伝わって
大きな音を生み出すため、設計者は個々の部品の
『固有振動数(すべての物体が持つ、最も振動しやすい固有の周波数)』
を意識しながら設計する必要があります。
洗濯機を例に挙げて考えてみましょう。
皆さんは洗濯機の脱水機能を使用する際、
急にガタガタと激しく揺れ、大きな音が出た経験があるかと思われます。
この時に一時停止して蓋を開けてみると、
洗濯物が洗濯槽の片方側に張り付き
正常な回転を阻害していることが分かります。
こうした予想外の回転により、
ドラムの振動と洗濯機との固有振動数が一致してしまい
耳に障る騒音を生み出す『共振現象』が起こります。
洗濯機のように、
騒音の出ることが分かっている製品なら
許容できる範囲かもしれませんが、
同じような現象が静音性を求める製品に発生すれば問題になります。
そして音には大きさだけでなく、
低音や高音の領域に人間が不快になる周波数帯があり
これらも考慮に入れた設計を行う必要があるのです。
また、機械の組み付けによる不具合や
部品の故障などで意外な振動が生まれ、
そのまま使い続ければ機械全体の故障に繋がる可能性もあるでしょう。
ものづくりと振動は切っても切り離せない関係にあり、
設計の段階においても、部品の形状や選定した
金属材料の影響で騒音の大きさが変化するのです。
あまり知られていない『振動』の脅威
平板の鉄とアルミを金槌で叩くと、
音の聞こえ方や大きさが当然違いますよね?
設計時において、
どの金属材料を選べば振動や騒音を抑えられるかは
過去のノウハウによってある程度は予測できるかもしれません。
一方で「形状で振動や騒音を抑える」となるとどうでしょうか?
技術者にとってはコストダウンやデザイン、
機能性の向上ばかりに目が行きがちなので
振動を抑えるための設計を意識する人は少ないかと思われます。
しかしながら、
自動車のエンジンが洗濯機のように
ガタガタとボンネットの内部で揺れれば、
大きな事故へと発展する可能性があるでしょう。
甚大な被害を生んだ歴史的な事故として、
1940年に起きたアメリカワシントン州のタコマ吊り橋の崩壊があります。
この橋が壊れた直接的な原因は
横風(毎秒19m/s)による自励振動です。
問題のあった
設計の要因として以下の2点があります。
- 「橋げた」の剛性不足
- 「橋げた」が扁平(へんぺい)なH形を用いたため
剛性(ごうせい)とはシンプルに説明すると
「変形のしにくさ」
を表す指標であり、固有振動数を求める際にも
用いられる要因の1つです。
「橋げた」の剛性不足により
橋全体がたわみやすくなり、最初は小さな揺れから
大きな揺れへと成長しながら、ねじれるように橋は崩落しました。
また、「橋げた」を扁平なH形にしたことで
風の作り出した空気の渦が発生し、
その渦が「橋げた」を動かして振動を起こしたのも
崩落の原因となったのです。
タコマ吊り橋の事故は映像として残されていますが、
例えるなら時計の振り子に軽く指でタイミング良く力を加え、
だんだんと揺れが大きくなる様子に似ています。
自励振動は機械加工による切削時にも起こり、
びびり振動として観察され、場合によってはバイトの歯が欠けたり、
切削物が激しく揺れてチャックから外れたりします。
このように、自励振動は「成長する振動」でもあるため、普段は問題なくても
特定の条件が加われば発生するやっかいな現象なので、
設計時に予測するのは困難だと考えられます。
被害を抑えるためのCAE活用法
近年では、CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)による固有振動数や
モードシェイプ(振動時における構造体の動く様子)の検討、
およびシミュレーションが当たり前になりました。
特に自動車分野では、車内の静音性が一定の基準を満たす必要があります。
部品同士が共振すると、不快な騒音につながる可能性があるため、CAEを活用して事前に検討することが重要です。
CAEを使った振動解析は、一般的に「モーダル解析(固有値解析)」と呼ばれ、これにより部品単体の固有振動数を把握することができます。
モーダル解析の手順は以下の通りです:
1.3DCADで設計した3Dモデルを準備します。
2.メッシュモデルを作成します(モデルを小さな要素に分割する作業)。
3.材料の特性値としてヤング率、ポアソン比、密度を入力します。
振動解析では、応力解析のように外部から力を加える必要がないため、荷重の入力は不要です。境界条件(拘束条件)は基本的に「フリー」(拘束しない状態)で解析を行います。
ただし、境界条件の設定によって固有値が大きく変わる場合があるため、CAEに詳しい人のアドバイスを受けながら進めると良いでしょう。
解析の結果として、「モード1」「モード2」など、各周波数帯における振動の形状が画面に表示されます。
この結果をもとに、共振が起こりそうな周波数帯を特定します。その際、注目するモードの剛性を高めるなどの設計変更を行い、加振周波数(外力によって発生する振動数)から遠ざけることで、振動や騒音を抑えることができます。
実際の設計では、製品化された部品が大規模な軽量化を行わない限り、共振による振動や騒音が発生することはほとんどありません。それでも、CAEを活用することで、急な設計変更にも柔軟に対応できる点が大きな強みと言えます。
まとめ
共振や自励振動(じれいしんどう)などの異常状態は非常に稀なケースです。
そのため、あまり神経質にならず設計を進めることが大切となりますが、振動や騒音の基準が法令などで定められている場合は、CAEを活用するなどして積極的なコストダウンを図りましょう。
すでに基準を満たした場合でも、振動の様子を可視化すれば次の設計に生かすことができますので、勉強の意味も含めてモーダル解析の技術に触れてみることをオススメします。
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