投稿日:2022年08月26日
ボルトを締め付けるときに「締め付けトルク」を気にして締め付けたことはありますか?
機械の仕上工員や組立作業員でもない方は、おそらくボルトを決められたトルクで管理し、締め付けた経験は少ないかと思います。
ほとんどの方は、「ボルトの締め付けは、力いっぱいに締め付けを行えばよい」と思っているかもしれません。しかし、このボルトの締め付ける力には、適正値というものがあります。
適正締め付けトルクとは
ボルトは、締め付けトルクが小さいときは緩みやすく、大きすぎるとネジ部の破断が起きてしまいます。
その為に、ボルトに適正な軸力が発生するように、あらかじめ締め付ける力を決めた値を、適正締め付けトルクといいます。
その締め付けトルクT[N・mm]は、トルク係数k、ネジ部の呼び径d[mm]、ボルトの軸力[N]とすると、以下の(式1)で計算が可能です。
締め付けトルクT = k×d×Fs (式1)
トルク係数kの値は、ボルトサイズや締め付け条件によって変わる値です。おおむね0.2で計算することが多いですが、以下の値も参考にして下さい。
トルク係数 k | 潤滑有無 | 材質 |
0.15 | 潤滑あり | FC材、SCM材 |
0.16~0.2 | 潤滑あり | SUS材、S10C |
0.25~0.35 | 潤滑無し | FC材、SCM材、S10C |
又、ボルトを締め付ける力とその時のトルクを計算してみると、実際にどれくらいの力を加えると適正なトルクになるかが分かるようになります。
手でスパナを持って、ボルトを締め付ける力をf[N]としたときに、そのボルトを回す力がトルク[N・m]となります。すると、以下の(式2)で簡単に計算が出来ます。
締め付けトルクT = f × L (式2)
機械設計者が知っておくべき、ボルトのルール
ボルトを選定する際に、必ず考慮しておかなければならないことが3つあります。
➀締め付け時にボルトに生じる軸力(引張力)がボルト材の降伏応力の70%以下であること。
締め付けによってボルトに生じる適正な軸力が、降伏応力である許容値を絶対に超えないということを確認しておく必要があります。
仮に、ボルトのサイズに対して極端に大きなスパナで締め付けをしてしまった場合を考えてみてください。
ボルトの締め付けによって生じる軸力が、許容値を超えてしまいネジ部が削れてしまうか、ボルトがねじ切れてによって破断してしまうことになります。
実際には、ボルトを締め付ける作業員が気が付くのでなかなか起きることではありません。
極端な話に聞こえるかもしれませんが、機械設計者は図面上ではなかなか気が付くことは出来ない為、どれくらいの軸力でボルトを締め付けられるのかを意識することは重要なのです。
締め付け時の最大軸力は以下の(式3)で計算出来ます。
式3にある係数0.7という値は、その軸力がボルト材の許容応力の70%以下であることを表しています。
許容応力が何か分からない人は、ボルトナットの強度区分(12.9や10.9や8.8など)がボルト頭に刻印されていますので見てみてください。
軸力Fs [N]= 0.7×ボルト耐力[N/ mm2]×ボルト有効断面積[mm2] (式3)
※ボルト耐力とは、ボルト強度区分12.9であれば、引張強さの90%であるため、引張強さ1220N/mm mm2の90%ある1098N/mm mm2となる。
さらに、先ほど述べた締め付けトルクの(式1)に当てはめると、最大締め付けトルクが算出できます。その為、適正なトルクで締め付けを行う必要がある箇所は、事前にトルクレンチの選定も行うことができるようになります。
➁繰返し応力がそのボルトの疲労強度の許容値未満であること
ボルトで締め付けた後にそのボルトに繰り返し応力が負荷する際は、その応力の値が疲労強度以下であることがとても重要です。
疲労強度の考え方は、縦軸を応力振幅S、横軸を破壊までの繰り返し応力Nで関係性を示した「S-N曲線」と呼ばれるグラフが参考になります。
疲労強度を超えてしまう場合は、ボルトのサイズを大きくして、ボルトに負荷する繰り返し応力を小さくする等の対策をしておく必要があります。
※S-N曲線とは、繰り返し応力が発生した回数で、材料の疲労破壊するかどうかを判断する際に使用します。縦軸が繰返し応力の振幅値、横軸が材料が破断するまでの回数を表しており、下図の赤線が疲労強度(疲労限度)を示しています。
③締め付けた時に、締め付け対象のモノを破壊させないこと
当然ですが、強く締め付けすぎたことで、締結対象の材料を破壊してしまってはいけません。
機械設計者としては、設計段階でそんなことが無いように、適正なボルトを選定しておく必要があります。材料の許容圧縮応力が式3から求められる軸力以上であることを確認すればそのボルトを使用できると考えてよいでしょう。
ただし、パッキンをはさんだフランジをボルトでつなぐ場合など、状況に合わせて許容圧縮応力以外にも比較する項目がある場合があるので注意しましょう。
ボルトを締め付けて、材料を破壊してしまう恐れがある場合は、ボルトが当たる面にワッシャーを取り付けておくことがおススメです。
ボルトを締め付けた際に、なぜボルトは緩まないのでしょうか?
それは、ボルトを締め付けた際の軸力で、ネジ部がわずかに伸び、その復元力が摩擦力となることでボルトは緩まなくなります。
しかし、ネジを締め付けた後、ネジの伸びが、永久ひずみとして復元力を失ってしまい、ネジを固定する摩擦力が減ってしまうことがあるのです。
これがネジの緩みの原因になってしまうのです。
永久ひずみが起きる場合は、熱膨張やクリープ現象といったケースが考えられますが、常に締め付けトルクで管理し、定期的に締め付けを行うことで解消されます。
まとめ
ボルトを締め付ける際に、ボルトの適正締め付けトルクを気にしている人はほとんどいないと思います。
しかし、ボルトの締め付けトルクを管理する機器メンテナンスでは、機器の故障や漏洩を防止するという非常に重要な意味を持つのです。
ボルトを選定したり、購入したりする際は、「締め付けられれば、なんでもいいや」と考えずに、まずはボルトの強度区分から、ボルト選定が出来るようになって、周りの人を驚かせてみてはいかがでしょうか。