投稿日:2022年08月19日
からくり改善のコラムは、全9回に渡って連載を予定しています。
過去4回のコラムでは、からくり改善の概要や進め方、からくり改善事例集の作成方法について紹介しました。
以下の目次から興味がある内容がありましたら、是非バックナンバーをご参照ください。
今回のコラムでは、経験が浅い設計者がからくり機構のアイデアを発想して設計業務を進めるための準備方法や設計手順について紹介します。
からくり改善は勿論のこと、開発品の設計の進め方の参考になる内容が含まれますので、是非、一読いただきお役立てください。
1.設計初心者とベテラン設計の差とは
設計初心者の中にはベテラン設計者よりも製図(図面を描く作業)が速い方がいます。
製図に関しては運動神経のように、作業を繰り返し実施することにより作業速度が増します。
一方、からくり改善のような課題はさまざまな要求に対応する必要があるため、設計時間に大きな差が生じる場合があります。
何故、このような差が生じるのでしょうか?
設計初心者とベテラン設計者の差が生じる原因
1)設計仕様の調整
からくり改善のような案件は依頼元や現場作業者からさまざまな要望があり、関係者に個別にヒヤリングしても複数の意見があるため、どの仕様で検討を進めれば良いか迷います。
2)設計手順
からくり改善のテーマは、案件によっても設計手順が異なるため、さまざまな場面での設計手順に対応できる経験が必要になり、この差が進捗に影響する場合があります。
また、設計経験の浅い方の中には誰に何を質問すれば良いのかが解らず、担当者が課題を抱え込み、多くの調査を行った結果、設計時間が増大します。
3)課題の実現方法
要求仕様を実現するアイデアを発想する際に、具体的な機構や部品の知識が少ないと、少ないアイデアで計画を進めてしまい、後戻りや追加検討が発生します。
以上のように仕様調整や手順、経験や知識の差が少ない状態では、ベテラン設計者と同じアウトプットを出せずに設計時間が増大するリスクがあります。
上記の課題は、設計担当だけの問題では無く、仕事を与えた職場の管理体制やコミュニケーションの問題もあります。
そこで今回のコラムでは、上記の課題に対してどのようにアプローチすればこれらの力量差を最小限に留められるかと、職場における設計進捗の管理方法について解説します。
2.設計者のスキル差を少なくする方法
1)設計仕様の整理
関係者の要望や意見を聞くことは大切でが、世の中の情報を取り入れ、しっかりと事実関係を分析することが設計者には求められます。
また設計者の中には確認行為を省略して設計を進めてしまい、途中でそもそも論になり、再検討が必要となる場合があります。
このようなことが無いように設計業務は、担当者の個人プレイでは無く、組織的にレビューを繰り返し、関係者の合意を取り進める必要があります。
以下に理想の仕様調整方法の例を示します。
①依頼元や現場作業者からの要望を整理する。
②整理した要望と他に考えられる案を加え、仕様を整理する。
③複数案がある場合は比較表を作成し、第3者が理解できるように定量的(コスト、時間、性能等を数値化)な判定基準で評価し、その結果をまとめ、考察、結論までをまとめる。
④上記結果を関係者に説明し、仕様の合意を得る。
図1に仕様比較の例を示しますので、参考にしてみてください。
図1.仕様比較表の作成例
2)設計手順
設計手順が解らないという方の多くは、計画表を作成せずに何となく設計作業を進めてしまい、色々な検討を進めてしまう傾向があり、どれも中途半端な場合があります。
このため管理者は、設計初期にマスター工程を作り、定期的にデザインレビューを計画させて、設計業務を進めてもらうようにしましょう。
※デザインレビューとは、各設計プロセスの節目において関係者で設計図書や検討結果を確認し、次のステップへ進んで良いかを審査する活動。
また、職場上長は計画日までに設計が進んでいることを確認し、定期的にレビュー会を設定させ議事録を残し、設計の過程を明確にして進めさせましょう。
特に経験が少ない設計者には、設計の場面を少し細かく区切り、都度状況報告させながら経験を積ませ、少しずつ大きな範囲を任せ育成すると良いでしょう。
このように進めることで仮にマスター工程より遅れが生じても、早期に組織的にバックアップが可能になります。
①マスター工程の作成
図2にマスター工程の例を示します。
図2.マスター工程作成例
先ずは依頼内容から概略の作業内容とデザインレビューや出図日程(目標)を仮設定する。
要求時点で製作期間が十分に確保出来ない等の計画に無理がある場合や既存設備と取り合いがあり、製造ライン停止が必要な案件は、依頼元と事前に日程調整して進めましょう。
先ずは情報を整理して依頼元と日程や作業内容の調整を進めましょう。
②詳細設計アイテムの整理
マスター工程だけでは、日々どのように設計を進めるかがイメージ出来ないため、具体的に設計アイテムを整理し日程や手順を明確にしましょう。
このような整理作業に時間を掛け過ぎても仕事が進みませんので、綺麗にまとめる必要はありませんが、細目に懸案を整理し、検討漏れや手順に問題が無いかを確認して進める癖を付けましょう。
上記の管理を都度行うことで、マスター工程に対する遅延やコミュニケーション不足による後戻り作業を無くすことが出来ます。
図3.詳細設計アイテムの整理例
3)機構や部品の選定
新規設計や、からくり改善のようにアイデアを発想する案件では、機構や部品のさまざまな分野の幅広い知識が必要になります。
からくり改善においてはローコストを意識する必要があるので、半数~9割近くが購入品で構成される場合が多く、機構や部品選定が出来れば大枠の実現方法が決まります。
①実現したいことと、機構の整理
機構や部品選定ガイドを作成する準備として、先ずは実現したいことを羅列し、それを実現する機構を追記します。
この表が完成すると、実現したいことと、調査する機構や部品が明確になります。
図4.実現したいことを整理した例
②機構や部品選定ガイドの作成
図4で機構や部品が複数記載されている部分は、同じ項目で良いのか?という視点で確認すると、実現したいことの言葉が足り無いことに気付きます。
このため部品毎の特徴を反映(図5の朱記)し、分類等を付加して並び替え整理し、メーカや型式情報等を追加して、以下のように機構・部品選定ガイドにまとめました。
図5に機構・部品選定ガイドの例を示しますが、このようなリストを予め準備することにより、経験が少ない設計者でもスムースにアイデア発想に導くことが出来ます。
図5.機構・部品選定ガイドの例
まとめ
さて、如何でしたでしょうか?
今回は以下の内容について解説させていただきました。
1.設計仕様の整理
①依頼元や現場側の要望と他に考えられる案を加え仕様を整理する。
②コストや納期、性能等を定量的に評価し比較表を作成し、考察、結論までをまとめる。
③関係者の合意を得て仕様を確定する。
2.設計フロー作成と設計進捗管理
①マスター工程を作成し、デザインレビューや出図日程を確定する。
②詳細設計アイテム表を作り、設計の進め方に問題が無いか確認して進める。
3.機構・部品選定ガイドの整理
①機構や部品選定ガイドを作成し、誰でも同じ部品を選定できるようにする。
②推奨メーカや型式、ラインナップ情報を追加し、選定調査時の空振りの無駄を無くす。
今回のコラムでは、設計仕様の整理や設計フロー作成による管理方法を採用することで、設計過程の合意を取り、後戻りを少なく進める設計手法や進捗管理方法について紹介しました。
また、機構や部品選定ガイドを事前に準備することで、アイデア発想をスムースに導けることを紹介しました。
次回は機構や部品選定したものを実際に組み合わせ配置し、目的を実現するために、誰が設計を進めても迷わずに同品質で計画図作成を進めるための手法等について解説する予定です。
引き続き、本コラムを参照いただき、活用していただければ幸いです。