投稿日:2022年05月25日
力学には物体が静止した状態を調べる「静力学」と、物体の運動状態を調べる「動力学」があります。
CAE解析においても大別して静解析と動解析に分かれており、設計する製品がどのような環境で活用されるものなのか把握することで、どちらの解析を行うのか理解できるようになります。
今回はCAE技術者も知っておきたい、解析の基礎となる静解析と動解析の違いについてご説明します。
静解析と動解析の違いとは?
静解析と動解析の違いには以下のようなものがあります。
【静解析】
- 荷重が静的に加わり、時間によって変化しない状態
- 境界条件は動解析に比べて複雑でなく計算負荷も低くなる
【動解析】
- 荷重が動的に加わり、時間によって変化する状態
- 境界条件は静解析に比べて複雑であり計算負荷も高くなる
- 代表的な解析に固有値解析(モーダル解析)、周波数応答解析、過渡応答解析などがある
つまり荷重が一定の状態で加わるか、一定ではない状態なのかを判断して解析を行う必要があり、静的な荷重条件を主に取り扱う材料力学を学んだ方は静解析に馴染みがあるかと思われます。
機械設計で例えるなら、機械全体を支えるフレーム部品に加わる「重みによる負荷」は静解析で行い、対照的にベアリング部品など常に回転している「動きによる負荷」は動解析で行います。
また、解析には材料の性質により「線形」と「非線形」にも分類されますが、機械設計では応力と歪が比例関係にある状態において解析を行うケースが多いため、今回は線形解析を中心にご説明したいと思います。
※実際の現象は、荷重が加わる際に構造の剛性が変化する非線形で解析する必要がありますが、非常に複雑な解析となってしまうため、線形に置換して行うことが実用的です。
静解析の実用例について
先にも述べた通り、静解析は「荷重が一定に加わる」状態を仮定したシミュレーションです。
大型機械や建築物など、全体を支えているフレームや柱の構造が脆弱であれば、予想外の力が加わることで突然に故障や破壊に繋がるため、CAE解析によって事前に調べるのが一般的となります。
CAE解析にて、計算を流す前の主な作業は以下の3つになります。
- モデルの材料特性を定義する
- 境界条件(拘束や荷重方向など)を入力する
- メッシュを切る
この中で特に注意したいのが「境界条件の入力」です。
境界条件が曖昧なままCAE解析を行うと、計算を流しても意味の無いデータが出力される可能性が高くなってしまいます。
例えば、「拘束した箇所は必然的に剛性が上がるため過度に設定しない」、「荷重の掛かる範囲を3Dモデルで前もって正確に計測しておく」など、これらの知識はCAEに触れながら覚える必要があります。
荷重が変化する動解析と比較し、静解析は境界条件の特定がしやすいため、拘束や荷重の条件をしっかり把握して解析に臨めば、実際の試験に近いデータを得ることができます。
モデルの現物がどのような環境で扱われるのか、自分の目で見て確かめておきましょう。
機械設計を含め、モノづくりの世界では想定外の故障や破壊が起こります。
過去の設計実績から、補強箇所をある程度予測できるかもしれませんが、それでも意外な場所に応力集中が起こったり、コストダウンを目的とした材料の変更が影響して部品に亀裂が入ったりします。
近年では3DCADの進化により、部品同士の干渉を避けるなど様々な不具合を解消できるようになりましたが、立体的なモデルを見ただけで構造物の脆弱な位置を予測するのは困難です。
CAE解析では、視覚的に問題の発生した箇所を特定しやすいため、機械設計だけでなく建築業界でも不可欠な技術へと進化しました。
材料力学や有限要素法を学んだ方なら、CAE解析も理解しやすいと思われますので、設計の技術者も積極的に活用してみましょう。
動解析の実用例について
静解析と比較して動解析は少々難解です。
静解析とは対照的に、動解析は動的な荷重や回転を伴う振動問題を扱い、慣性力や遠心力を想定した解析なので、機械設計においても重要な検討手段になります。
振動解析の一つとして代表する固有値解析では、主に部品同士の共振問題を解決するための手段として活用されていますが、そもそも構造物の振動特性を調べる加振試験(ハンマリング試験)は、拘束条件がフリーの状態で行うことが理想とされており、これはCAE解析でも同じです。
拘束条件がフリーの状態と聞くとイメージし難いかもしれませんが、シンプルに例えるなら「部品が宙に浮いている状態で加振試験を行う」といった感じです。
小さい部品なら糸に吊るすなどして加振試験を行えても、大きい部品では不可能なので、固有値解析はコンピュータ上で行うことが一般的とされています。
つまり現在の共振問題を解決する方法は、CAE解析が重要なサポート役を担っているとも言えるのです。
共振問題はどのモノづくりにも多大な影響を及ぼし、小さい問題なら騒音やヒビ割れ、大きな問題なら構造物の破壊へと繋がります。
しかしながら、問題となる周波数帯域と固有振動数が重ならないように設計するのは、業務に長く携わったベテランの技術者でさえ難しいと思われます。
固有振動数の関係式は以下になります。
fn=固有振動数(Hz)、K=バネ定数(N/m)、M=質量(kg)
つまり、固有振動数は「バネ定数(剛性)」か「質量」を調整することで数値が変わります。
質量に関しては実際に計測することが可能なので、単に重さを削減する形状に変更すれば良いのですが、剛性の上げ下げを見た目で判断するのは経験が必要になります。
剛性は形状の変更によって変わる場合と、材料の選定によって変わる場合があり、基本的に「リブを入れる」、「板厚を増す」、「拘束箇所を増やす」などの補強対策で固有振動数を調整します。
とは言え、初心者にとってはどの箇所に対策すれば良いのか判断が難しいのではないでしょうか?
こうした時に、CAE解析は画面上で問題のある箇所を指摘してくれるため、共振問題の解決方法を学ぶには最適なツールなのです。
固有値解析を詳しく話すと長くなってしまうため、ここでは割愛させていただきますが、モノづくりにおいて振動や騒音は避けて通れない問題なので、3DCADに搭載するCAEソフトを積極的に使ってみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は大まかに「静解析」と「動解析」に分けて説明しましたが、どちらの解析も力学の基礎と応用が詰まっており、CAE技術者にとって学んでおきたい知識ばかりです。
CAE解析と聞くとハードルが高いように思われがちですが、実際はビジュアルで問題箇所を特定できる、初心者にも分かりやすく扱いやすいツールなので、設計の技術者も気軽に触れてみることをオススメします。
あなたにおすすめ
- 【強度設計(材料力学)を動画で学ぶ!全8章(380分)】
強度・剛性など強度性能を満たす設計ができるようになる