投稿日:2022年04月26日
設計をしていると、梁や柱の強度計算を簡単にサッと計算しておきたいといった場面がたまにあります。たとえば、機器をデッキの上に設置したり、建屋の上層階に重量機器を設置する際に、念のため載せる梁の強度を確認しておこうかな、と思うのです。
そんな時に皆さんだったらどのように強度確認を行うでしょうか?
鋼材の強度を計算する学問に「構造力学」や「材料力学」などがあり、もし機械や建築の学科で学んでいるのであれば、一度は学習したことがあるのではないでしょうか?
新人に「(下図左側をみせて)以前設置したデッキの上の青色梁の強度を手計算で確認しておいてー!」とお願いすると、すでに不静定の梁で強度計算を行なっている計算書があれば、その計算書を見直す程度で済みます。しかし、その計算書が見つからない場合、不静定梁で計算しなおすのが一般的です。
そんな時に上司から「梁のサイズの妥当性を確認したい程度だから、静定梁の条件で計算していいよ」と計算条件を変更するように促されたとき、この静定梁の条件が何を意味するかを知っているかどうかによって、強度計算のとらえ方は違ってきます。
その意図についてぜひ知っておいてください。
不静定問題とは何か
不静定問題とは、構造力学において力のつり合いで問題が解けない問題を指します。たとえば、両端を固定している梁の両側には、梁が曲がろうとするモーメントが負荷することになります。
すると、途端に水平力と垂直荷重の力のつり合いでは、計算出来なくなってしまうのです。その為、不静定問題を解く際は、「水平力のつり合い式」「モーメントのつり合い式」「梁たわみ量とたわみ角の関係」の3つの式から連立方程式で求めることになる為、非常に時間を要します。
一方で、静定問題は、下図のようにヒンジやピンで接合された状態で、梁の両端にはモーメントは発生しないという条件で計算できるため、力のつり合いで簡単に部材への荷重を計算することが出来るのです。
模式図.静定梁と不静定梁の両端に発生するモーメント有無の違い
上の図の静定梁と不静定梁の計算がどれほど計算するのが面倒かを計算してみると分かるかと思います。その違いを以下の模式図と計算式で示してみます。
下の静定梁と不静定梁の2つの計算では、梁に対して垂直に荷重Sという力が負荷している状態の両端に作用する反力を求めてみます。
反力を計算するときは、まずは荷重の釣り合いの式を立てます。この釣り合いの式は静定問題でも不静定問題でも特に変わりません。
しかし、モーメントの釣り合いの式を立てたときに、不静定問題では梁両端のモーメントが不明であるため、反力は求められません。その為、不静定問題では、別の理論式が必要になるのです。
静定梁と不静定梁との計算法の違いが分かりましたでしょうか?
模式図.静定問題の計算(静定梁の両端の反力を計算する)
模式図.
不静定問題の計算(不静定梁の両端の反力を計算したいが簡単には解けない)
※静定問題ならすべてがピン接合であるというわけではありません。
機械設計者への補足として、構造力学の強度計算を行う際は、簡単に求められるからと言って、不静定問題に扱わない方がメリットがある点についてもう少し触れておきます。
梁計算はトラス構造でとらえることもできる
対象の全体構造がトラス構造の場合も手計算できることが多いです。
トラス構造とは、複数の3角形で構成される骨組構造で、その接合箇所は一般的にピン接合となっている構造です。(実際には溶接接合になっている場合もある)
タワーや橋なのでこの構造がよくみられます。トラス構造にすることで、部材の接合点にはモーメントが発生しない構造になり、すべての梁が静定梁と認識し、強度計算を行うことができるのです。
トラス構造のどの範囲を切り取っても力のつり合いが保たれるという点を利用すれば、その部材に負荷する荷重が簡単に算出できるのです(下の模式図を参照)。
余談ですが、トラス構造を使ってトラス状に部材を組み合わせて作る「トラス梁」という部材があります。このトラス梁は、かつては今より計算ソフトがなく、H鋼等の部材が充実していない時期では、主に梁や柱に使用されることが多かったのですが、接合点が多くあるためその製造コストが高く、現在はその多くがH鋼や溝型鋼等の一般鋼材に置き換わっています。今でも体育館や倉庫の屋根の鋼材として残っているかと思います。
模式図.トラス構造の計算方法について
不静定梁での計算はどのような場面で使用されるか?
手計算では連立方程式を使用しないと強度計算が行えない不静定梁の計算は、どういった場合に計算しなければいけないでしょうか?
一般的なのはビルや住宅などの建造物に用いられます。
トラス構造で評価できるのはあくまで梁や柱のみです。それらが接合されている個所に関しては評価していないのです。ビルや住宅といった建造物は、地震に対する耐震が求められます。
耐震性をよくするには、各部材の接合点でどれくらいのモーメントを負担できるかを考慮しなければならないのです。
耐震性を担保するために、部材の接合箇所に加わる応力を算出しなければいけないのですが、ピン接合とする静定構造では接合点に付加する応力を正しく算出できません。
つまり、静定構造で計算するには、梁両端をピン構造で計算する必要があり、接合箇所の強度はモーメントを0としている為に評価出来ないのです。(実際の荷重よりも小さい値で評価してしまうため危険)
その為、梁の接合点の強度計算を行うには不静定構造で計算しなければいけません。
不静定梁で実際に計算するには、たわみ角方等の手法がありますが、構造が少しでも複雑になると、すべての梁柱の荷重とモーメントの式を連立方程式で計算することになるため、計算が非常に大変です。
当然手計算では、計算間違いも起きやすいため、一般に構造計算のソフトで計算します。
以上のことから、建築の分野では建造物の鉄筋や鉄骨といった部材の接合点では、どのような構造とすべきかをきちんと考慮した形状になっています。
たとえば、その接合点(ブラケットと呼ぶ)の扱いは特に注意を払っており、工事でブラケットを溶接し、それを現場で梁と高力ボルトで接合しています。さらに接合点の周りをダイヤフラムと呼ばれる補強板で部材の変形を抑えているのです。
模式図.梁柱の接合点(ブラケット)の構造
※国立研究開発法人建築研究所WEBサイトより:https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/data/143/3.pdf
まとめ
簡単に梁や柱の強度を確認したい程度であれば、ピン接合と認識して静定梁で手計算した方が簡単に計算出来ます。しかし、ピン接合ではその接合点の強度が評価出来ていないということを踏まえていなければいけません。
これを理解せずにあなたが建築士に対して「ピン接合で材料強度を確認したから強度は大丈夫」と説明しても、安心してもらえないかもしれませんね。
参考
国立研究開発法人建築研究所WEBサイト「鉄骨造建築物の接合部ディテール例示資料集 ― 複雑な接合部ディテールの設計・製作の要点 ―」
参考URL:https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/data/143/index.html