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強度設計で差がつく!安全率の計算法と実例を詳しく解説

投稿日:2025年11月27日

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機械設計に携わると必ず直面するのが「安全率」という考え方です。安全率は製品が壊れないようにするための余裕を数値化した指標であり、設計者が守るべき基本ルールの一つです。

しかし、実際には「どのくらいの値を設定すればよいのか」「なぜそんなに余裕が必要なのか」と疑問に思う方も多いでしょう。

安全率を正しく理解していないと、適切な設計ができません。過剰設計によるコスト増加や、不足設計による破損事故の危険性があります。

この記事では、安全率の基礎から許容応力の考え方、具体的な計算例、さらに安全率を大きくした場合のメリットとデメリットまでを整理し、設計初心者でも理解できるように解説します。

安全率とは


安全率とは、構造物や部品が壊れないように余裕を持たせるための数値です。材料の持つ強さ(基準強度)と、材料にかけてもよい応力の上限値(許容応力)の比で表され、以下の式で計算されます。

S(安全率):構造物や部品が壊れないように余裕を持たせるための数値
σc(基準強度):材料の強さ(単位:N/mm2
σa(許容応力):材料にかけてもよい応力の上限値(単位:N/mm2

以下の図のように、基準強度が200 N/mm2に対して許容応力が200 N/mm2のときの安全率は1となり、許容応力が40 N/mm2のときの安全率は5となります。

安全率の例

設計をする上で基準となる安全率として、以下の表に示すアンウィンの安全率と呼ばれる値があります。ただし、アンウィンの安全率は、あくまで設計の「目安」であり、実際には用途や使用環境、製造条件などに応じて柔軟に調整してください。

材料 静荷重 繰り返し荷重
(片振)
繰り返し荷重
(両振)
衝撃荷重
鋼材 3 5 8 12
鋳鉄 4 6 10 15
銅・アルミなど 5 6 9 15
木材 7 10 15 20

なぜ安全率が必要なのか

安全率が必要な理由は、設計時に完全に予測できない要素(材料のばらつき、荷重の変動、経年劣化など)が数多く存在するためです。

材料のばらつきがあると、同じ規格の材料でも製造ロットによって強度に差が生じます。カタログ値は平均的な性能であり、実際の部品には必ずばらつきがあるからです。

荷重の変動も重要な要因です。設計時に想定した荷重が実使用では変わることがよくあります。たとえば、産業機械では作業者の操作方法や加工条件によって、予想以上の負荷がかかる場合があります。

経年劣化による強度低下も無視できません。金属材料は疲労や腐食により徐々に強度が低下し、樹脂材料は紫外線や熱により物性が変化します。

このように、材料のばらつき、荷重の変動、経年劣化といった不確定要素が存在します。安全率は「保険」のような役割を果たし、予期しない事態から製品と使用者を守るのです。

許容応力とは

許容応力は、前述の安全率の式を変形して求められる値で、材料にかけてもよい応力の上限値を表します。

σa(許容応力):材料にかけてもよい応力の上限値(単位:N/mm2
σc(基準強度):材料の強さ(単位:N/mm2
S(安全率):構造物や部品が壊れないように余裕を持たせるための数値

設計では、実際に材料にかかる応力がこの許容応力を超えないようにすることで、部材の破損や寿命が縮むというリスクを防ぎます。設計者は実際の使用条件を考慮して適切な安全率を設定し、それに基づいて許容応力を決定します。

安全率の計算で使用する基準強度

安全率の計算で使用する基準強度には、材料の特性を示すいくつかの種類があります。機械設計でよく使われる主な強度とその使い分けを理解しておくことが重要です。以下に応力-ひずみ線図の簡易図を示します。

引張強度(引張強さ)は、材料を引っ張ったときに破断する時の最大応力です。材料が完全に壊れる限界値であり、最も基本的かつ重要な強度特性として広く使用されています。引張試験は最も標準化された試験方法であり、材料メーカーが必ず公表している基本データです。設計の安全性指標として、材料の破断に対する余裕を明確に示すために、引張強度を基準とした安全率が多く使われています。

降伏強度(降伏点)は、材料が塑性変形(永久変形)を始める応力です。この値を超えると、荷重を取り除いても元の形状に戻らなくなるため、塑性変形を絶対に避けたい精密部品や、形状保持が重要な用途では、降伏強度を基準強度として用います

この記事では引張強度を基準強度として解説します。なお、「引張強度と許容応力と安全率」の関係について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

主な材料の引張強度

下の表に主な材料の引張強度を示します。

材料 引張強度(N/mm2)
一般構造用圧延鋼材(SS400) 400
冷間圧延鋼板(SPCC) 270
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304) 520
アルミ合金(A5052) 260

たとえばSS400鋼材を使い、安全率8で設計した場合、以下の計算より50 N/mm2が許容応力となります。設計段階では、部品にかかる応力がこの値を超えないかどうかを必ず確認する必要があります。

安全率の計算方法と計算例

安全率の概念を理解したところで、実際の計算方法を具体例で確認してみましょう。

安全率の計算例1

断面積100 mm2の鋼製棒(SS400)に繰り返し引張荷重(片振り)5,000 Nが作用する条件での安全率を確認してみましょう。

まず、鋼製棒に実際にかかる応力σを計算します。

P:荷重(単位:N)
A:断面積(単位:mm2

SS400の引張強度は400 N/mm2であるため、安全率は以下のようになります。

アンウィンの安全率の表によると、鋼材で繰り返し荷重(片振)条件では安全率5が必要です。計算値8.0の方が大きいため、安全率は十分確保されています。

安全率の計算例2

厚さ2mm、幅30mmのアルミ製板材(A5052)に曲げモーメント1.5 Nmが作用する静荷重条件での安全率を確認してみましょう。

板材にかかる応力σを算出するため、まず断面係数Zを求めます。長方形断面の断面係数は下式で計算できます。

b:板材の幅(単位:mm)
h:板材の厚さ(単位:mm)

断面係数Zより、曲げ応力σを計算すると以下のようになります。

M:曲げモーメント(単位:Nmm)
Z:断面係数(単位:mm3

A5052の引張強度は260 N/mm2となるため、安全率は以下となります。

アンウィンの安全率の表によると、アルミ材で静荷重条件では安全率は5必要です。計算値3.47の方が小さいため、安全率は不十分となります。したがって、設計の見直しが必要です。

設計変更の例として、板材の厚みを2mmから2.5mmに変えて確認してみましょう。

変更後の断面係数Zは以下のようになります。

板厚変更により、曲げ応力σは以下のように変化します。

安全率は以下の通りです。

板厚を2.5mmに変更することで安全率が5.42となり、必要値5を上回るため安全率は確保されました。

安全率を大きくするメリット・デメリット

安全率の設定は、製品の安全性と経済性のバランスを左右する重要な判断です。安全率を大きくすることには、安全性向上という明確な利点がある一方で、コストや性能面での課題も生じます。ここでは、安全率を大きく設定した場合の影響を整理して解説します。

安全率を大きくするメリット

安全率を大きく設定することで、製品の信頼性が大幅に向上します。予期せぬ荷重や使用条件の変化に対しても、十分な余裕を持って対応できます。主なメリットは以下の3点です。

  • 破損や事故のリスクを大幅に低減できる
  • 荷重の変動や製造誤差に対して余裕を持てる
  • 長寿命化が期待でき、メンテナンスコストを削減できる

安全率を大きくしたことによるデメリット

一方で、安全率を必要以上に大きくすると、製品開発において避けられない課題が発生します。過剰な安全率は、競争力のある製品開発の妨げになることがあります。考慮すべき主なデメリットは次のとおりです。

  • 材料費が増加する
  • 重量が増えて性能(燃費や操作性)に影響する
  • 重量が増えることで共振周波数が低下し、振動しやすくなる可能性がある
  • 加工や組立が難しくなる場合がある

たとえば航空機では軽量化が最重要のため、解析や試験で信頼性を確認しながら安全率を小さく設計します。

一方で橋梁や産業機械では、安全性を優先して大きめの安全率を取ります。「どの程度の安全率が妥当か」は製品の用途や要求仕様によって変わるのです。

安全率の計算例まとめ

安全率は、材料の強さと実際の応力を比較して「どれだけ余裕があるか」を示す数値です。設計においては、許容応力を基準に応力計算を行い、安全率が適切な範囲に収まるように調整する必要があります。

安全率の決定では、荷重の性質、使用環境、製造精度、メンテナンス条件など多くの要素を総合的に判断することが重要です。

過剰設計も不足設計も避けるべきであり、設計者には「安全性」「コスト」「性能」のバランス感覚が求められます。

新人設計者の方は、まずは材料ごとの強度データと安全率の関係を理解し、簡単な計算例から確実に身につけていくことをおすすめします。

実際の設計では計算だけでなく、過去の類似事例や業界標準も参考にしながら、適切な安全率を選択する判断力を養うことが大切です。

経験を積む中で「この製品にはどの安全率が適切か」という判断力が養われ、設計の精度が格段に向上していきます。

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