機械加工の生産性に関わる切削スピードを決める要因は(鉄、アルミ)

投稿日:2024年12月12日

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切削速度は機械加工の生産性を上げる要因の一つです。切削スピードを上げれば上げるほど加工時間は短くなります。

しかし、加工機械の仕様や切削工具の損傷のため切削速度の上限が決まります。この記事は、切削スピードを決める要因について例をあげて説明した記事です。

切削速度は加工機械主軸速度と加工径で決まる

切削速度の計算式は以下の式で計算します。

D(mm):切削部の直径、N(rpm):主軸の回転数

計算式からもわかるように、切削速度は主軸の回転数と切削部の直径に比例して大きくなります。

加工機械の主軸回転数

切削加工を行う代表的な機械として、被削材を回転させる旋盤と被削材を固定して工具を回転させるマシニングセンターがあります。

例えばオオクマ製「LB3000 EX Ⅱ CNC旋盤」の主軸最大回転速度は5000rpm、横型マシニングセンター「MA-4000H」の主軸最大回転速度は15000rpmです。

工作機械の主軸最大回転数は機械の性能によって上限が決まっています。このため切削速度を上げるためには旋盤の場合は被削材の径を上げたり、マシニングセンターの場合はカッター径を上げたりすれば切削速度は上がります。

ただ、旋盤もマシンニングセンターも設計上の寸法を加工することが目的なので被削材の径を上げたりカッター径を上げたりすることは自由にはできません。

そのため切削スピードの上限は機械の性能できまることが多くなります

切削工具性能

切削速度を決める要因に切削工具の性能があります。切削速度を上げていくと切削工具が過熱して硬度が落ちたり摩耗したりして使えなくなります。

ほかにも工具性能を落とす原因として、被削材の組み合わせによっては化学的な変化を起こして使えなくなることもあります。

加工機械で切削スピードを上げられたとしても、切削工具の性能がその速度に耐えられなければ切削スピードの上限は切削工具で決まります。

高性能な機械を使っても切削工具がそれに追いついていなければ宝の持ち腐れです。

基本的な切削工具材質と特徴

工具材質 特徴 切削速度 価格
炭素工具鋼 高硬度な被削材の加工には使えない 遅い 安価
高速度鋼 炭素工具鋼より硬い  ↓  ↓
超鋼合金 高硬度な被削材の加工にも使える  ↓  ↓
サーメット 鉄でも溶着が起き難くい。仕上げ加工に向いている  ↓  ↓
CBN ダイヤモンドの次に固く鉄に使える  ↓  ↓
ダイヤモンド 炭素なので鉄と結びつきやすく鉄の加工には不向き 速い 高価

表には基本的な材質を書きました。

しかしそれぞれに種類があり工具にした場合はコーティングなどの表面処理も施されたものがあるので、メーカーカタログを参考にしたりメーカーに問い合わせたりして工具を選定します。

鉄系の切削速度の計算例

ここでは計算例として、直径6mmの穴加工をする場合と100mm穴加工をする場合の計算を行います

はじめに、V=π・D・N/1000の式から切削速度Vを求めます。

表. 鋼を切削するときの切削速度

加工機械 主軸回転数(rpm) 加工径(mm) 切削工具 工具切削速度上限 (m/min) 切削速度(m/min)
旋盤 5000 6.3 ドリル 100 98.9
19.1 バイト 300 299.9
マシンングセンター 15000 2.1 ドリル 100 98.9
6.4 ボーリング 300 301

超鋼ドリル OSG製ADO超鋼ドリル

バイト、ボーリングは大昭和精機製 コーティドインサート

旋盤でのドリル加工では加工径が6.3mmで工具切削速度の上限に達してそれ以上では切削速度は変わりません。コーティドインサートを使う加工では加工径が19.1mmで上限に達します。

マシニングセンターでのドリル加工では加工径が2.1mmで工具切削速度の上限に達してそれ以上では切削速度は変わりません。コーティドインサートを使う加工では加工径が6.1mmで上限に達します。

下図は被削材が鋼のとき、切削速度と切削径の関係を表したグラフです。

鉄系を加工する場合、切削速度を決めるのは主に切削工具の性能です。

アルミの切削速度

アルミはダイヤモンド工具が使えますので、工具の切削速度上限が上がります。

表. アルミを切削するときの切削速度

加工機械 主軸回転数(rpm) 加工径(mm) 切削工具 工具切削速度上限 (m/min) 切削速度(m/min)
旋盤 5000 12.8 ドリル 200 201.0
191 バイト 3000 2998.7
マシンングセンター 15000 4.25 ドリル 200 200.2
63.7 ボーリング 3000 3000.3

超鋼ドリル OSG製 ダイヤモンドドリル

バイト、ボーリングは大昭和精機製 ダイヤモンドインサート

旋盤でのドリル加工では、加工径が12.8mmで工具切削速度の上限に達してそれ以上では切削速度はかわりません。ダイヤモンドインサートを使う加工では、加工径が191mmで上限に達します。

マシニングセンターでのドリル加工では、加工径が4.25mmで工具切削速度の上限に達してそれ以上では切削速度はかわりません。ダイヤモンドインサートを使う加工では、加工径が63.7mmで上限に達します。

下図は被削材がアルミの切削速度と切削径の関係を表したグラフです。

アルミの材料は鉄に比べ高価ですが、加工速度が速く、ダイキャスト化すればさらに機械加工時間が短くなります。アルミは加工まで含めた価格は安価な材料です。

まとめ

加工時間を左右する要因の切削速度について加工機械の性能と切削工具の性能の影響について具体的な計算例を使って解説しました。解説した内容をまとめると以下の通りです。

  1. 切削速度は加工機械の主軸回転数と切削工具の許容切削速度の小さい方で決まります。
  2. 被削材が鋼の場合、加工機械の性能に切削工具の性能が追いついていない傾向が強く、主に切削速度は切削工具の性能で決まっています。
  3. 被削材がアルミの場合、切削工具で決まる切削速度上限と加工機械できまる上限のバランスが良くなってきているので短時間での加工ができます。また余談ですがアルミの場合はダイキャスト化が可能なため切削量もわずかになり短時間での加工ができます。よって、トータルコストが安価です。

ここでは切削速度を決める要因について説明してきました。今後、機械加工に関連した業務を行う場合にここで書いた内容が参考になれば幸いです。

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