幾何公差を高精度に測定するなら真円度測定機。三次元測定機と比較

投稿日:2022年4月6日

幾何公差を効率的に測定していますか?

幾何公差の多くに対応できる測定機として、三次元測定機と真円度測定機があります。幾何公差をすべて三次元測定機で測定している人も多いと思います。

三次元測定機を使うと多くの幾何公差に対応できますが、効率的とは言えない場合があります。三次元測定機はまず測定をして、後から解析をする測定機です。

そのため、多くのデータを取っていれば、後からいろいろな解析ができます。裏を返せば、後で解析するかもしれないから、必要ないデータもとりあえず取っておこうとしがちです。

真円度測定機は、最初に測定する項目を決めるので、必要なデータしか取得しません。よって、測定項目が決まっていれば、三次元測定機より効率的な測定が可能です。

本記事では、三次元測定機と真円度測定機で幾何公差を測定するメリット・デメリットについて解説します。

もし幾何公差ごとの測定法を知りたいという人は、これだけは覚えたい基本的な幾何公差8選!測定方法も紹介もご覧ください。

三次元測定機のメリット・デメリット

三次元測定機には、門型、アーム型、カメラ型、レーザートラッカーなど、たくさんの種類があります。

それぞれの種類によって測定対象物が異なりますが、測定できる結果は同じで、測定点のX,Y,Z座標を取得します。

その座標を使って、線や面や中心を解析し、その距離や寸法を計算します。

その使い方のひとつとして、幾何公差の解析があります。
ここでは、三次元測定機で幾何公差を測定するメリットとデメリットを紹介します。

三次元測定機で幾何公差を測定するメリット

お金をかけずに幾何公差を測定するには、定盤、ダイヤルゲージ、Vブロックなどを上手く使うことで可能になります。

しかし、この方法はセッティングによって基準面が決まります。幾何公差は基準との差を測定することなので、基準面のセッティングがとても重要になります。

そのため、セッティングに時間がかかったり、1回のセッティングで1つの幾何公差しか測定できなかったりと、測定に時間がかかるのが難点です。また、精度があまりよくありません。

そこで、三次元測定機を使うことで、たくさんのメリットがあります。

測定時間を短縮できる

三次元測定機を使用すると、測定時のセッティング時間を大幅に削減できます。なぜなら、測定したデータを使って、基準面や基準線、基準点を作れるからです。

つまり、セッティングが精度に与える影響が小さいので、セッティングに気を使う必要がなく、時間を短縮できます。

自動測定も可能

プログラミングをしておけば、自動測定ができる機種もあります。これにより、測定の工数削減にもつながります。

後から解析できる

三次元測定機は、データをいっぱい取っておいて、後でじっくり解析するのが得意です。

データをいっぱい取っておくことで、不具合が発生したときに、今まで注目していなかった幾何公差を解析することも可能です。

三次元測定機で幾何公差を測定するデメリット

メリットが多い三次元測定機ですが、いくつかのデメリットもあります。

お金がかかる

一番大きいデメリットは、導入コストがかかるということです。高機能な機種、大きなものが測定できる機種ほど高額になります。

高いもので数千万円から1億円というものも存在します。また、精度維持のために、定期的なメンテナンスやキャリブレーションにもお金がかかります。

設置スペースが必要

一般的によく使われている門型の三次元測定機は、測定対象物を載せて測定する必要があります。そのため、対象物を載せる定盤が大きくなり、測定機を設置するために大きなスペースが必要になります。

さらに、精度良く測定するには温度環境も整える必要があるため、恒温室が必要になります。

測定できないものも存在する

当たり前のことかもしれませんが、接触式ではプローブが接触できない場所は測定ができません。深い穴や細い穴などは測定が難しくなります。

非接触式では光が届かない場所の測定ができません。また、黒くて反射しづらいもの、鏡面のように光が散乱しないものも測定が難しくなります。

精度がそれほど良くない

三次元測定機の中で一番精度が良い、門型の接触式プローブでも測定精度は 1 μm程度です。非接触であれば、10 μm程度になります。

幾何公差で必要な精度が数 μmであれば、三次元測定機は使えないと思った方が良いでしょう。

精度良く測定するには熟練が必要

三次元測定機を精度良く使うためには、コツを理解する必要があります。どの方向から測定するか、どのくらいの力で接触するか、どこを基準に解析するかなど、さまざまなコツがあります。

そのため、精度良く測定するには、教育に時間がかかることを覚えておきましょう。

真円度測定機のメリット・デメリット

真円度測定機は、真円度や円筒度しか測定できないと思っている人も多いと思います。
しかし、機種によっては、真直度、平面度、平行度、直角度、同軸度、同心度、円周振れ、全振れなど多くの幾何公差を測定可能です。

よって、三次元測定機より、真円度測定機を使用した方が良い場合もたくさんあります。

ここでは、真円度測定機で幾何公差を測定するメリットとデメリットを紹介します。

真円度測定機で幾何公差を測定するメリット

真円度測定機で幾何公差を測定するメリットは下記の通りです。

安価で導入できる

真円度測定機は、三次元測定機と比較して安価で導入することができます。一番安いものは数百万円で購入することができます。

精度が高い

真円度測定機の精度は、三次元測定機より1桁以上高く、10~100 nm程度です。そのため、ほとんどの幾何公差の測定で、精度が問題になることはありません。

接触式でもデータの点数が多い

真円度測定機は、1周1万点程度と非常に細かくデータを取ることができます。そのため、より詳細な解析ができますし、ノイズの影響も受けづらくなっています。

自動測定のプログラムが簡単に作れる

三次元測定機はできることが多いため、設定が複雑になりがちです。測定にも解析にも多くの設定が必要になります。

真円度測定機は、幾何公差の種類を選べば、最適な設定になるため、設定の手間が少なくてすみます。

真円度測定機で幾何公差を測定するデメリット

真円度測定機で幾何公差を測定するデメリットは下記の通りです。

大きいものは測定できない

測定機に載らないものは測定できません。真円度測定機には、測定対象物が回転するテーブル回転型と、測定対象物が固定されている検出器回転型があります。

真円度測定機でエンジンのような大きいものを測定するときは、検出器回転型の真円度測定機を使います。

しかし、検出器回転型の真円度測定機でも、数百mm角以下の大きさが限界です。

寸法の測定はできない

真円度測定機は、狭い範囲を精度良く測定することに特化しているため、基本的に寸法測定はできません。「基本的に」と書いた理由は、比較測定が可能だからです。

例えば、直径10.000 mmの基準を用意すれば、それと比較して、9.5~10.5 mmの直径は測定できます。

まとめ

幾何公差の測定を精度良く効率的に測定するには、三次元測定機か真円度測定機を使用します。

三次元測定機は工数削減が大きなメリットですが、コストがかかるのが最大のデメリットです。一方の真円度測定機は、コストが抑えられ、精度良く測定できますが、大きいものや寸法測定ができません。

幾何公差を測定するとき、とりあえず三次元測定機で測定する人がいますが、用途によって使い分けた方が効率的です。

高精度に測定するために、真円度測定機も活用してみましょう。

- このコラムを書いた専門家 -

本田 裕

・形状・幾何公差・表面粗さ計測のスペシャリスト
・16年間「精密測定機器メーカー」で機械設計に携わる
・精密工学会論文賞、発明大賞発明奨励賞などを受賞
・特許出願6件、特許登録4件
・メーカーへ測定面のアドバイス、講習会の講師を行う
・計量法校正事業者登録制度 (JCSS)事業の立上げに携わる
・日本工学測定機工業会(JOMA)の技術委員を務める
・2022年~MONO塾専門家