投稿日:2021年10月25日
このコラムでは、エクセルを使ってH鋼の断面二次モーメントの計算方法をご紹介いたします。
エクセルを使った計算方法は、対象物を分割し「部位ごと」に求めていきます。そのため、H鋼のような単純形状から、複雑な形状までエクセル表の「行を追加」するだけで簡単に計算できる、という大きなメリットがあります。
具体的な計算方法を掲載していますので、最後までお読み頂きお仕事へお役立てください。
断面二次モーメントとは?
さて、それでは断面二次モーメントとはなんでしょうか?ここで確認しておきましょう。
断面二次モーメントは、棒状の部材にモーメント(曲げる力)が発生する時の、「部材の曲げにくさ」を表す指標の一つで、単位は [mm4] です。
ご存知の方もいるかと思いますが、部材の曲げにくさを決める指標には以下の二つがあります。
・材料の曲げにくさ:ヤング率
・形状の曲げにくさ:断面二次モーメント
ヤング率は材料が持つ固有の値です。同じ形状を持つゴムよりも金属の方が変形しにくいのは、金属の方がゴムよりもヤング率が高いためです。
一方で断面二次モーメントは、モーメントが発生する断面形状によって決まる値です。
例えば、同じ材料でできた直径 10mm の丸棒よりも直径 20mm の丸棒の方が変形しにくいくいですよね。これは、直径 20mm の方が 10mm よりも断面二次モーメントが高いためです。
強度計算において断面二次モーメントは「部材の曲げ応力」を計算する際の必須知識です。ですが単位 [mm4] を見ただけで、その値が持つ意味を理解することは容易ではありません。
ですので、材料力学を学び始めたばかりの人は、まずは「断面二次モーメントは部材の曲げにくさを表す指標である」とだけ覚えておけば十分でしょう。
断面二次モーメントの公式と導出方法
●断面二次モーメント
実務では断面二次モーメントの公式を覚えておけば十分です。例えば、長方形の断面二次モーメント\(I_x \)の公式は、以下となります。
\(I_x=\frac{bh^3}{12} \)
ここではさらに、断面二次モーメントの理解を深めるために、この定義式から発展させた長方形断面の公式を導出してみましょう。
この先は少し内容が難しくなりますので、少し読み進めて「理解できないな」と感じた場合には、先に本ページ下部の「エクセルを使ったH鋼の断面二次モーメントの計算」をお読みいただき、あとから読み直していただいても大丈夫です。
それでは、説明を進めていきます。
下図におけるx軸周りの断面二次モーメントIxの定義は、
\(I_x=\int y^2dA \) です。
\(I_x \) は図心におけるx軸周りの断面二次モーメントを、yは重心からの距離を示しています。また図のGyは断面形状の図心を表しています。
なお、y軸周りの断面二次モーメントはx、yの記号が逆になります。
この公式から、図心周りの長方形断面の断面二次モーメントを算出すると、
\(I_{xr}=\int y^2dA=\int_{-\frac{h}{2}}^{\frac{h}{2}}y^2 dA=\int_{-\frac{h}{2}}^{\frac{h}{2}}y^2bdy=2\times\left[\frac{y^3}{3} \right]_0^\frac{h}{2}=\frac{bh^3}{12} \)
となり、冒頭で紹介した公式と同じになります。
長方形断面の場合図心Gyは断面の中央になるため、積分範囲は0~h/2です。図心に対して対称形状なので、積分範囲を0~h/2で計算した断面二次モーメントを2倍した値が長方形断面の断面二次モーメントです。
●平行軸の定理
x軸とx’軸の距離をe、断面積をAとすると、x’軸周りの断面二次モーメント\(I_x’\)は、
\(I_x’=I_x+e^2A \)
となります。
平行軸の定理は複数の部材から構成される断面の断面二次モーメントを計算する時に使用します。H鋼は図のように複数の部材から構成されるので平行軸の定理を用いて計算します。
エクセルを使ったH鋼の断面二次モーメント
では実際にH鋼の断面二次モーメントを計算してみましょう。
1.形状を分割する
計算には表計算ソフトのエクセルを使います。
表計算ソフトで断面二次モーメントを計算する場合、先ず断面形状を公式が使える形状(長方形や円形)に分割します。H鋼の場合は、下図で示すように①~③の三つの長方形で分割します。
各部位における寸法は縦方向をy、横方向をxとし、下図のように定義します。
2.断面積を計算する
次にH鋼の断面積を計算すると以下のようになります。
断面積は各部位の断面積の合計値です。
A = x×y:各部位ごとの断面積
\(\sum \ A=46.0 mm^2\)
3.図心を求める
次に図心の位置を計算します。
図心は各部位の断面積と各部位の図心位置を乗算した値を断面積で除した値です。
\( {y_bar} \):x軸から各部位の図心距離
\( {y_bar_total} =\frac{\sum \ A ×{y_bar}}{\sum \ A} =\frac{230.0}{46.0}=5.0mm \)
4.断面二次モーメントを計算する
最後に断面二次モーメントを計算します。
エクセルを使った断面二次モーメントの算出には、先ほど紹介した平行軸の定理を用います。
\( I_{x0}\):各部位ごとの図心に対する断面二次モーメント
\( I_x=\sum \ I_{x0}+\sum \ (A×y_bar^2)-\sum \ (A×{y_bar_{total}}^2)\\=87.8+1757.5-46.0×5.0^2\\=695.3 mm^4 \)
右辺は、第一項の各部位ごとに算出した断面二次モーメント[87.8]に、第二項のx軸に対する距離の二乗と断面積の乗算値[1757.5]を足すことで、x軸に対する断面二次モーメントを算出します。
次に第三項のH鋼の図心に対する距離の二乗と断面積の乗算値[46.0×52]を引くことで、H鋼の図心に対する断面二次モーメントを算出します。
以上が、エクセルを使った断面二次モーメントの求め方となります。
解説で用いたエクセル表はこちらからダウンロードして頂けます。
エクセルのダウンロード → ダウンロード
いかがだったでしょうか。計算方法について理解が深まりましたでしょうか?
この度説明しました「エクセルを使った断面二次モーメントの計算方法」は、分割した部位ごとに分割されているため、複雑な形状でも行を追加することで簡単に計算出来るため非常に便利な方法となります。
ぜひ、お仕事にお役立てください。