投稿日:2026年11月5日
MOTとは、Management of Technologyの略で、日本語では「技術経営」と呼ばれます。技術をどのように生み出し、育て、顧客にとっての価値や事業の成果につなげるかを考える分野です。
「経営」と聞くと、設計や開発の現場から遠い話に感じるかもしれません。しかし、どの性能を優先して開発するか、どのテーマに人や時間を使うか、技術の価値を上司にどう説明するか。こうした日々の判断にも、MOTの視点は関わっています。
私は、技術に自信がありながら、現場で役立つ製品や事業の成果へとうまく結び付けられなかった経験があります。その経験を踏まえ、今回は「MOTとは何か」を、設計者の仕事と結び付けてお伝えします。
MOTでは、技術の先にある「使われ方」と「事業」を考える
設計では、要求された性能を実現できるか、品質や信頼性を確保できるかを確かめます。MOTの視点を加えると、その技術を誰が、どのような目的で使い、どのような価値を受け取るのかまで考えるようになります。
例えば、ある機構を改良し、処理速度を上げられるとします。これは説明のための仮の例ですが、技術的な成果は「速くなった」と表現できます。
一方、顧客が導入を判断するときには、仕事全体の時間が減るのか、ほかの工程で待ち時間が発生しないか、導入や保守にどれだけ費用がかかるかも重要になります。
さらに自社としては、開発や提供に必要な費用を踏まえ、事業として続けられるかを考える必要があります。顧客に役立つことと、自社の収益になることの間にも、価格や提供方法といった検討すべき点があるのです。
私は、技術の強み、顧客が受け取る価値、事業として続けられる仕組みをつなげて考えることが、MOTを学ぶ入口になると考えています。
私が、技術の完成度だけでは足りないと感じた経験
私には、欧州で成功した製品をアジア市場へ展開した際、現地の環境や紙幣の扱い方を十分に捉えられず、不具合が相次いだ経験があります。
当初は、使い方が想定外だった、環境が特殊だったと考えていました。しかし、そこで使われる製品をつくる以上、実際の使われ方を設計の前提に取り込む必要があります。
そこで現地調査を行い、設置環境を社内評価でどう再現するかという判断基準をつくることを重視しました。技術の説明も、性能の高さに加え、顧客の負担や利益にどう関わるのかを伝えるように変えました。
この経験を通じて、私は技術を、磨く対象としてだけでなく、事業を支える経営資源として見るようになりました。技術をどこで、何に役立てるかという問いが、設計の判断にも関わってくるのです。
設計者の仕事に引き寄せると、三つの問いが見えてくる
MOTが扱う範囲には、技術戦略、製品開発、知的財産、投資判断、人材や知識の活用などがあります。最初からすべてを学び切ろうとする前に、自分の仕事について、次の三つの問いを考えてみてください。
1.この技術は、誰のどのような課題を解決するのか
性能を高める目的を、顧客の仕事から捉えます。誰が何に困っていて、その技術によって何が変わるのか。実際の環境や使い方を理解することが、開発の前提を決める手がかりになります。
2.この技術に取り組む価値を、どう説明するのか
技術的な難しさや新しさに加え、顧客への効果、必要な費用、開発期間、残っている不確実な点を整理します。技術を知らない相手にも、何を根拠に進めるかを一緒に判断できる形で伝えることが大切です。
3.限られた人や時間を、どこへ振り向けるのか
目の前の不具合対応も、将来の開発も必要です。それぞれの仕事の目的と、次に確かめるべきことを明らかにし、何を優先するかを考えます。技術を育てるには、開発の中身とともに、取り組みを支える人や時間の使い方にも目を向ける必要があります。
この三つは、MOTの全体を分類し尽くしたものではありません。設計者が、日々の課題から技術経営を考え始めるための入口です。
技術者が経営の視点を持つと、話し合えることが増える
私は以前、「これ、本当に儲かるの?」と問われた際に、技術の説明だけでは上司たちを納得させられなかったことがありました。
その問いに答えるには、技術的に何ができるかと、事業として何を目指すかをつなぐ必要があります。技術者は、実現の難しさや必要な条件、まだ確認できていない点を具体的に説明できます。その情報は、営業や企画、経営に関わる人が判断するうえでも欠かせません。
利益を考える際にも、品質や信頼性、技術者としての責任は判断の土台になります。目先の数字だけで決めず、顧客との関係や将来の技術をどう育てるかまで視野に入れて考えたいところです。
まずは、担当している技術について「誰の、どのような課題を、どう解決するものか」を一文にしてみてください。うまく書けないところがあれば、現場で確かめたり、ほかの部門と話し合ったりするテーマが見えてきます。
身近な課題から、MOTをもう一歩具体的に考える
ここまでの問いのうち二つは、別のコラムで、経験や仕事の進め方に結び付けて詳しくお伝えしています。今のご自身の課題に近いものから読んでみてください。
・「技術の価値を社内でどう伝えるか」を考えたい方へ
→ 技術的には優れているのに、なぜ社内提案が通らないのか?
提案する前に、顧客への効果や必要な条件をどのように整理するかを解説しています。
・「いまの対応と将来の開発をどう両立するか」を考えたい方へ
→ 不具合対応に追われて、新しい開発ができない。設計リーダーが見直したい仕事の配分
不具合対応の内容を整理し、将来の開発へ人や時間を振り向けるための考え方をお伝えしています。
MOTの基本を、自分の仕事に結び付けて学びたい方へ
私が講師を務める「MOT入門セミナー 技術を経営資源に変える思考法」では、技術経営の基本から、顧客を意識した製品開発、技術の価値を事業につなげる考え方までを扱います。
技術に関する判断を、顧客や事業の視点から見直したい方に、現場での経験を交えてお伝えします。ご自身の仕事と結び付けながら学びたい方は、講座内容をご確認ください。











