投稿日:2024年04月28日
流体がどういった状態で流れていくのかを表すのに「レイノルズ数」と呼ばれる無次元数があります。レイノルズ数の計算は、流体力学で登場する無次元数の中で一番使用頻度が高いといっても過言ではありません。
レイノルズ数は、流れを支配する速度項と粘性項の比で表す無次元数(単位がない値)で、流体の速度、密度、粘性がどれくらい影響を与えるかを示す重要な指標であり、これによって流れが層流か、乱流かを知ることができる便利な数値です。
ρ:密度kg/m3、L:代表長さ[m]、U:流速[m/s]
μ:粘度[Pa・s]、ν:動粘度[m2/s]
このレイノルズ数を求めることで、管路の圧力損失や撹拌動力など様々の計算ができるようになります。
しかしながら、レイノルズ数の数値を算出する際に以下の質問や疑問が生まれます。
「配管内の流れの状態を確認するためにレイノルズ数の計算をしたいのですが、計算で用いる流体の粘度が分かりません」
「インターネットで検索しても粘度の数値が出てきません。」
「そもそも粘度って何でしょうか?」
レイノルズ数を求めるときに、計算者をよく悩ませてしまうのが、「粘度」の値です。この値が分かりづらく、粘度がどのような値であるのかをイメージできずにいる人もいるかもしれません。
ここで粘度とは何かを簡単に説明します。
まず、流体に平行に置いた2つの平板をイメージしてください。この物体の片側をスライドさせた際に、その物体に与える応力(せん断応力)と、その物体に引きずられた流体の速度変化を表す関係式を以下に示します(式2)。
式中の係数μが「粘度」ということになります。
(τ:せん断応力、μ:粘度、U:物体を動かす速さ、h:物体間の距離)
※粘度の数値が大きいものほど粘性による力が強いことを示しています。
しかしこの式2だけを理解しても、まだ少しだけ粘度について理解しにくいと感じている人も多いでしょう。
このコラムを読んで、少しでも粘度を理解してもらえればと思います。
このコラムを書いた人
機械系プラントエンジニア
国内化学プラントで機械設計や建設工事を10年以上経験。危険物製造設備、発電・ボイラ設備・排水処理設備、研究施設の多種多様な設計・調達・工事に携わり、その知識をコラムにて発信中。現場でも活かせる専門知識を、日本のモノづくりに活かしてもらいたい!という強い思いを持っている。
粘度がなぜ悩ましてしまうのか?
粘度が計算者を悩ませてしまう主な理由と解決策を紹介します。
理由1:粘度の値の感覚を持っていない
重さや長さなどは簡単に計測ができる上、「大きい・小さい」や「重い・軽い」など簡単にイメージがしやすいですよね。そのほかに、速さなどの物理数値は、計算式が分かれば算出でき、その単位も数式に基づく単位(例:速さは距離÷時間なので単位はm/s)となっています。
しかし、粘度はどうでしょうか?
流れている様子を見ても、その流体が流れやすいのか流れにくいのかを大雑把にしかつかむことができません。さらに、流れている様子からその流体の粘度の値がどれくらいかを感覚的にわかる人は少ないです。
その為、粘度を代表の物質で大雑把な値をつかんでおくことが大切です。
代表としては、水が1CP、サラダ油が10CP、ガムシロップが100CP、はちみつが1000CPです。液体の粘度がどの程度か迷ったら、どの液体よりさらさらしているのかを考えると粘度の値を推測することができます。
身の回りにあるものの粘度を以下に示しておきます。
気体いずれも、水の100分の1程度(0.01CP)となっています。
理由2:単位がイメージしづらい
と思った人は多いのではないでしょうか?粘度の単位は、[Pa・s]です。この単位から粘度がどんな値か示しているかをパッと推測することができる人は少ないです。「圧力と時間の積って何?」とまず思いますよね。
これは上記の式2から単位を求めると理解できます。
まずせん断応力τは、物体に働く力Fをせん断応力が働く面積Aで割った値ですので、
の式で表します。さらに、式2から以下の式となります。
の式に(式3)を代入して
(τ:せん断応力、μ:粘度、U:物体を動かす速さ、h:物体間の距離)
この式を単位に書き直すと、
よって粘度の単位は、Pa・sということになります。
その他にも粘度の単位には、CP(読み方:センチポアズ)という単位も使用します。
1CP=1mCP=0.001Pa・sという関係性を持っていますので覚えておくようにしてください。
水は常温では、1CPなので覚えやすいです。比較的粘度低い液体を扱う場合は、CPの単位を用いることが多いかもしれません。
理由3:動粘度という物性もある
同じ粘度の液体でも、密度によって流動性が異なります。
その為、流体の粘度をその密度で割った値を「動粘度」と呼び、流動性を示す物性値として、主に潤滑油などに使用されている物性値です。
流動性を示す動粘度の単位は、[m2/s]となり、粘度とは全く単位が異なります。粘度と動粘度は別物の物性であることを認識しておかなければいけません。
ν:動粘度[m2/s]、μ:流体粘度[Pa・s]、ρ:流体密度[kg/m3]
ちなみに潤滑油では、動粘度をISO VG ○○と表記されており、○○のところに数字が入ります。この○○の値が実際の粘度[m2/s]を示しています。
まとめ
レイノルズ数の計算を行う場合は必ず必要となる粘度ですが、理解しにくい値である為、粘度や動粘度の値の意味を理解しておくと、「粘度の値が分からない!」となった場合も、実物の流体から推測ができるようになるかもしれません。
また、水や空気などの一般的な物質は、インターネットで調べれば簡単に入手できます。しかし粘度については、温度に依存して変動する値であるため、なかなかインターネット上では正確な粘度の値を入手することが困難です。
流体が流れている様子を見ることで、粘度の値が予想できるようになっておくと、レイノルズ数の計算で悩まずに済むでしょう。
あなたにおすすめのeラーニング
- 【流体力学を動画で学ぶ!全8章(410分)】
静止流体から管内や物体周りの流体、測定方法まで幅広く学べる