投稿日:2024年11月04日
就職や転職ではじめて真空装置を設計することになり、不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。たしかに、真空装置設計では、知っておかなければならない前提知識や、検討しなければならない要素が数多くあります。
本記事では、はじめて真空装置を設計する機械設計者に向けて、真空技術の最も基本的なポイントを3つ解説いたします。
ポイントを押さえて、本格的な業務に向けて準備をしておきましょう!
①真空とは?真空の定義
日本工業規格(JIS)では、真空とは「大気圧よりも低い圧力の気体で満たされた空間の状態」と定義されており、「空気が少ない状態」のことです。一般的な意味では「空気がない」「真の空っぽ」ですが、物理の世界では違います。
たとえば、ストローでジュースを飲むときの口の中や、採血のときの注射器内も真空です。「気体分子が少ない状態のことなんだ!」といった感覚を持ち、真空技術者の大前提をしっかり身につけておきましょう。
②真空で使う圧力の種類と単位は?換算方法の紹介
真空業界で使われる圧力の種類や単位にはどんなものがあるでしょうか?
圧力の定義は「単位面積あたりに働く力の大きさ」のことで、基本的に「力」÷「面積」で表されます。
圧力の基礎について詳しく知りたい方は、以下の姉妹サイト(MONOWEB)を参考にしてください。
圧力の単位にはさまざまなものがあるため、他業種や海外、過去の資料を参考にする上で知っておく必要があります。見かけたときに、圧力の単位だと分かるだけでなく、種類や換算方法、おおよその力の大きさも分かるようになっておきましょう。
圧力の種類:ゲージ圧と絶対圧
気体の圧力は「ゲージ圧」と「絶対圧」の2種類があります。
ゲージ圧は、標準大気圧を基準「0」とした場合の圧力の大きさです。真空ではマイナスの値になります。絶対圧は、完全に空気のない状態「絶対真空」を0とした場合の圧力の大きさで、マイナスの値は存在しません。
絶対圧とゲージ圧については、以下の姉妹サイト(MONOWEB)に詳しい説明があるので、参考にしてください。
真空業界では主に絶対圧表記ですが、ほかの業界ではゲージ圧がよく使われます。資料を参考にする際には、ゲージ圧か絶対圧かを必ず確認するようにしましょう。
パスカル[Pa]
真空業界で最も使われる圧力の単位にパスカル「Pa」があります。1パスカル「Pa」は、1m2あたりに1ニュートン「N」の力が働くときの圧力の大きさのことです。
1Pa=1N/m2
最も基本的な単位なので、必ず覚えておきましょう。
標準大気圧は「1013hPa」が馴染み深いですが、ヘクトパスカル「hPa」は真空業界ではあまり使われない単位です。標準大気圧は下記のように示します。
- 0.101 [MPa]
- 101.3 [kPa]
- 1.0×105 [Pa]
どれもよく使われるものなので、見てすぐに標準大気圧だと分かるようにしておきましょう。
気圧[atm]
標準大気圧は「1気圧」と表記され、単位は「atm」を使います。見かけたときに必ずイメージできるようにしておきましょう。
似たような単位にバール「bar」がありますが、厳密には1atm=1.013barです。
1atm=1気圧=1.013bar=1.013×105Pa
ミリバール「mbar」は昔の天気予報でおなじみの単位だったため、過去の資料を参考にするときには知っておきましょう。
1mbar=1hPa
トール[Torr]
トール「Torr」はアメリカで使用されている単位で、国内でもよく使用されたミリメートルエイチジー「mmHg」と同じ扱いをします。
標準大気圧は760Torr、760mmHgです。
1気圧=760Torr=760mmHg=1.013×105Pa
トールのままで扱うのは日本人には馴染みがなく難しいので、必ずパスカル「Pa」に換算するようにしましょう。
圧力単位の換算表
複数の資料やカタログに載っている値は単位がバラバラなので、計算するときには単位換算する必要があります。
よく使われる圧力単位の換算表を掲載しておくので、参考にしてください。
表 圧力単位換算表
Pa | atm | Torr |
1 | 9.86923×10–6 | 7.50062×10-3 |
101,325×103 | 1 | 760 |
133.32 | 1.31579×10-3 | 1 |
③真空度って何?真空の分類
真空には分類があることをご存知でしょうか?
真空は度合いによって特徴が異なるため、圧力範囲ごとにレベル分けされています。たとえば、気体分子が詰まっている状態と、スカスカになったときでは、異なる特徴をもつことが想像できます。
ここで解説することは、真空の分類において大切な真空度と、排気において重要な気体の流れの区分についてです。本格的な勉強の前に、真空度や特徴について、ある程度イメージを身につけておきましょう。
低真空から極高真空までの5段階
真空度とは「真空度合いのレベル分け区分」のことで、低真空から極高真空までの5段階があります。
低真空:約10万Pa~100Pa
中真空:100Pa~10-1Pa
高真空:10-1Pa~10-5Pa
超高真空:10-5Pa~10-8Pa
極高真空:10-8Pa以下
極高真空はJISでは正式に定義されていませんが、1990年代から呼ばれるようになりました。
各真空度に合わせて、それぞれ使用できる排気ポンプや真空計、材料などが異なります。真空装置設計の際には、目標の真空度はどのあたりなのかを把握し、真空度の段階に合わせて適切な選定が必要です。
JISでは、圧力領域ごとに使用できる代表的なポンプや真空計の記載があるので、設計するときには参考にしてください。
粘性流、分子流
真空における気体の流れは、粘性流、中間流、分子流の3つに分けることができます。
粘性流は、気体分子が頻繁に衝突しながら流れる状態で、おおよそ低真空あたりまで見られる特徴です。
分子流は、気体分子がほとんど衝突せず飛び交う状態のことで、高真空あたりから特徴が見られます。
粘性流と分子流の間の特徴を持つ状態の流れを中間流といい、中真空あたりで見られる特徴です。
流れの種類によって適切な検討をしないと、排気ポンプが壊れてしまったり、真空引きに余計な時間がかかってしまったりします。必ず使う知識になるので、真空度による気体分子の挙動をイメージできるようにしておきましょう。
まとめ
本記事では、はじめて真空業界で機械設計を行う人に向けて、真空技術の基本ポイントを3つ紹介しました。
真空装置設計では、容器(チャンバー)内の状態をイメージできるようになっておくことが最も大切です。実際に設計するには他にも必要な知識が数多くありますが、事前知識を持つことで、スムーズに業務に携われるようになります。
この記事が、新たに真空装置設計に関わる機械設計者の足がかりになれば幸いです。