投稿日:2022年06月06日
化学工場では、ポンプが壊れてしまった時に、急遽別のポンプを代用して使いたいということが多々あります。その際に、安易にモーターを転用し、別のポンプにつないで起動しても性能がでないことがあるのです。
原因は、ポンプの吐出能力分の動力をモーターが持っていないからです。当たり前の理由なのですが、同程度の容量のモーターを用いる場合は、きちんと検討しなければなかなか判断できないものです。
能力に満たないモーターを使用してポンプを起動した場合、吐出圧力や流量が低下する等の性能低下が発生します。
さらには、定格の電流値を上回り、モーターが過負荷停止(トリップ)したり、ピクリとも動かない初動のトルク不足になってしまうこともあるのです。
モーターの選定方法の概要
では、モーターの選定をどのように行えば、ポンプが安定して運転ができるのでしょうか?
その答えは以下の2つを検討することで解決します。
検討その1:所要動力と定格出力の比較
ポンプの軸動力(又はモーターの消費電)とモーターの定格出力を比較し、モータ―の定格出力が十分であることを確認を行います。
※言葉が複数でてくるのでややこしく感じるかもしれませんが、「所要動力」を回転機器の性能に合わせて言い換えると「軸動力」、モーターの性能に合わせて言い換えると「消費電力」になると考えてください。すべて同じ「Wワット」の単位で表します。
検討その2:起動時の負荷トルクとモータ―が出力するトルクの比較
ポンプを回転するために必要なトルク以上に、モーターが大きなトルクを出力しなければポンプは回りません。その為に、必要なトルクを算出し、モーターが出力できるトルク以下であることを確認します。
検討その3:フライホイール効果(はずみ車効果)の確認
電動機で負荷を回転させている際に、トルク変動が大きい場合に、それに追随してモータ―の回転数が増減してしまいます。
そこで、回転体の慣性力を大きくすることで物体が回り続けようとする力が働き、回転数の増減を抑制することができるのです。その抑制効果のことをフライホイール効果(はずみ車効果)と呼びます。
フライホイール効果は、回転体全重量G[kg]と直径D[m]の2乗の積で計算し、GD2と表すのが一般的です。(ジーディースケアと呼ばれています)
このフライホイール効果の値が大きければ、運転中の負荷変動に対して強いと言えます。
しかし、フライホイール効果が大きいと、モーターにとってデメリットもあるのです。
フライホイール効果が大きい場合に危惧するモーターへの影響
- モーターを起動した際や停止した際に、軸へねじり応力がかかり、軸をねじり破損してしまう。
- モーターを起動した際に、起動電流が流れる時間が長くなり、モーターコイルが焼き付いていまう。
これらを考慮する為に、モータ―には許容できるフライホイール効果の値(GD2)が決まっているのです。その許容値とポンプのフライホイール効果を比較することで安定した起動と停止が出来るようになるのです。
それでは一つずつ解説していきます。
検討その1:所要動力と定格出力の比較~ポンプの能力から出力を計算する~
ポンプの吐出能力は、その所要動力である「軸動力」で決まります。軸動力は、「吐出圧力」と「流量」と「液密度」を使って、以下の式でポンプの軸動力を求めることが出来ます。
この式の分母にあるポンプ効率は、通常の渦巻ポンプでは70%~90%あたりで運転するのが一般的ですが、キャンドポンプ等の低効率のポンプもあるので注意が必要です。
ポンプ効率の具体的な数字は、たいていメーカからもらえる性能曲線に記載されているので、確認してみるとよいですね。
この計算によって求めた軸動力がモーター出力以下であれば、ポンプの運転が可能であると判断出来るのです。
一般的な機器の所要動力はどのように計算するのか?
余談ですが、すでに運転実績がある場合は、別の方法で所要動力を求めることが出来るので紹介します。ここで計算する所要動力は、モーター消費電力です。繰り返しですが、モータ消費電力=軸動力ですね。
その式を下に示してみます。
電源が単相なのか3相によって、消費電力の求め方が違うので注意してください。
3相電源の場合(商用200V、400V、3000V)
単相電源の場合(商用100V、200V)
この式を用いる場合は、実際の運転時の電流値を測定しておく必要がありますが、どんな電動機に対しても計算ができるので知っておくと便利です。
電流値の測定が難しい場合は、モーターメーカのカタログや試験成績書に記載があるので参照してみてください。
ちなみにモータ消費電力とモーター定格出力の関係式は以下の式で計算出来ます。
これでステップ1の定格出力と所要動力を求めることができるので、2つの値を比較することが出来ますね。
検討その2:起動時の負荷トルクとモータ―が出力するトルクの比較
まず、モーター起動時のから定格速度に至るまでの「モーター側の出力トルク」と「ポンプ側の負荷トルク」の変化を把握しなけれません。
その変化を以下のグラフに記載します。
グラフ:かご型モータ―の始動時トルクと負荷側(ポンプ)の負荷トルク曲線
負荷トルクが起動時から定格回転数に至るまで、すべてにおいてモーター出力トルク以下でなければ、動かすことが出来ないのです。
ポンプの負荷トルクを計算する
早速、ポンプの負荷定格トルク(上グラフの赤丸箇所のトルク)を求めてみます。
この値が定格になりますが、2つ疑問点が残ります。
➀起動時のポンプの負荷トルクは?
➁運転中にどれくらいの負荷変動があるんだろう?
この疑問のために目安として以下の値を係数として上で求めた負荷定格トルクとの積をすることで算出します。
破砕機や工作機械などは負荷変動が大きい為、定格トルクに対して常にそれ以上の負荷トルクが発生することを想定しなければいけません。
表.負荷定格トルクに対する倍率(※あくまで参考値です)
機種 | 負荷定格トルクに対する倍率 | |
始動時の負荷トルク | 負荷変動による予測最大トルク | |
ポンプ | 0.4 | 1.5 |
圧縮機 | 0.6 | 1.5 |
ブロワー | 0.4 | 1.5 |
真空ポンプ | 0.6 | 1.5 |
工作機械 | 1.5 | 2~2.5 |
粉砕機 | 1.5 | 2.5 |
よって、始動時の負荷トルク、負荷変動時の最大負荷トルク値の2つの値が求まりましたので以下の比較を行い問題がないかを確認すれば、検討その2は終了です。
- 始動時の負荷トルク < モーター始動トルク※又はモーター停動トルク
- 最大負荷トルク値 < モーター最大トルク※
※モーターメーカの試験成績書やカタログを参照
検討その3:フライホイール効果(はずみ車効果)の確認
フライホイール効果を算出は、ポンプ(負荷側)は、計算により求め、モーターの許容値はメーカの成績書に記載されている値を参照します。
機器のフライホイール効果は、慣性モーメントの4倍で計算するのが一般的です。以下の計算式で計算することが出来ます。
これによってポンプ側のフライホイール効果の値が算出できますので、モータ側の許容値以下であるかを確認すればよいのです。
まとめ
多くの場合、ポンプメーカ等の回転機メーカですでに実績のあるモーター型式を標準として、モーター選定することが一般的になっています。
それでも、モーターの選定が出来るようになれば、モーターと機器を自由に組み合わせることができる設計者としてスキルアップにつながりますね。
今回はポンプ用のモーターを想定して掲載してみましたが、あらゆる回転機に対して検討が可能である為、モーターの入れ替えや、装置への組み込み等でも活用できると考えています。