投稿日:2021年12月06日
過去2回に渡って、
メカトロ設計においても「安全第一」を最優先に検討することの
重要性について解説しました。
本コラムはこの続編の制御設計編の紹介になります。
メカトロ設計において制御は、
装置を動作させるために欠かせないものです。
メカトロ装置の安全対策は、
機械的対策だけでは不完全な場合や動的な安全性を確保するために
機械と制御が連携して、安全対策を施す必要があります。
本コラムは機械と制御の連携により、
より安全性が高いメカトロ装置を提供するための事例紹介を通じ、
制御仕様の検討の参考にしていただければ幸いです。
なお、本コラムは以下の様に、全5回で構成されています。
他案件も未だご覧いただいていなければ、是非ご確認ください。
1.国際的な安全規格の体系
ISO規格は、全ての安全規格に共通で利用可能な基本概念や設計原則に関する規格、機械類の安全全般に関する規格として制定されています。
IEC規格は、電気・電子技術分野の国際規格です。
図2は、国際安全規格の体系図を示しており、
上位にISO規格の一般設計原則規格やリスクアセスメント規格があり、
その下位の左側に機械系ISO規格、右側に電気系IEC規格があります。
2.メカトロ装置を海外へ輸出する際の注意事項
日本では安全にコストを掛ける文化が未だ定着されておらず、
使用上の情報制限で回避されている装置が多数あります。
一方で電気・電子や制御の規格に関しては、
国内と海外で若干の差があります。
これらを知らずに設計を進めてしまうと、
海外規定を満たさないため、最悪の場合には輸出来ません。
1)海外規格は任意か、強制力が有るか?
欧州のEN規格やアメリカのUL規格、
中国のGB規格等では、規格の遵守が義務化されているものがあり、
不十分な安全対策では法的拘束力が伴うため、輸出が出来ません。
海外に装置を輸出される際は、
設計前に輸出される国の法律や規制について予め調査しましょう。
不明な点は安全機器販売メーカやコンサルティング会社等に相談し、
初めて輸出される場合には数カ月から半年程度の余裕を確保したスケジュールを計画しましょう。
2)電気機器の指定
一例として、日本では一般的にNPN出力のセンサが利用されていますが、
欧州ではPNP出力のセンサを使用しなりません。
NPNのセンサは、
地絡すると負荷に電圧が掛かり機器を誤動作させる可能性があります。
一方で、PNP出力のセンサは、
地絡しても電位差が発生せず負荷に電圧が掛からないため、
誤動作することは有りません。
制御ソフトはどちらでも作成可能ですが、
基本的にセンサの出力仕様が変わるため、
電気回路や制御ソフトもこれらに対応する必要があります。
3)ユーザ側のリクエストの確認
操作盤の画面や、例えば表示灯(色の並び)等の機器、
部品故障やメンテナンスを想定して現地の言語対応や現地の制御部品の使用を
ユーザ側から要求される場合があります。
これらに対応するには、労力や調達上の負担を考慮する必要があります。
3.制御的なリスク低減活動の進め方
機械的な安全対策と同様に、
以下の3ステップで検討を進めていくと良いでしょう。
1)本質安全設計
制御ソフトによる本質安全設計事例として、
モータ制御方法を用いて制動力を抑制し、
重大災害を防止する方法が取られます。
以下の3案の事例から制御方法を学びましょう。
何れの方法においても機械設計者が詳細設計を進める前に
モータ選定や制御ソフト仕様について、予め調整を行いましょう。
表2.本質安全設計を考慮したモータ制御方法の事例
整理番号 | 操作力の低減方法 | 項目 | 特徴およびモータ情報 |
1 | トルク制御 | メリット | ・出力トルクを一定に保つ(トルクリミッタとして利用) ・制御が容易 |
適用例 | ・定張力の巻き取り機構 | ||
デメリット | ・スピードをコントロール不可 ・低トルクで動作不可な場合がある |
||
適用モータ | ・トルクモータ、ブラシレスモータ、ACサーボモータ | ||
2 | トルク制限 | メリット | ・位置によりトルク制限値を可変できる |
適用例 | ・押し付けや挿入装置 | ||
デメリット | ・制御設定が若干複雑 ・モータおよび制御機器が高価 |
||
適用モータ | ・ACサーボモータ | ||
3 | 偏差差分過大 | メリット | ・高負荷になり位置ずれが大きい場合に動作停止 ・設定により、ばねの様な不感体を設定可能 |
デメリット | ・偏差差分許容値の設定を広げ過ぎると位置ずれが増加する ・モータおよび制御機器が高価 |
||
適用モータ | ・ACサーボモータ |
2)安全防護
①安全装置およびインターロック
機械的な安全対策ではガードを設置し、
危険源と隔離するまたは、危険源が外部に放出されない様に対策する方法について紹介しました。
制御的な安全防護としては、一例として安全柵のドアの開閉を検出するドアスイッチを設けることやライトカーテン、マットスイッチ等で、人や物の侵入や存在をセンサで検出し、信号が検出した場合に異常と判断し装置の動作を停止させるインターロックをソフト的に構成することで、安全性を担保する方法があります。
⚠安全装置およびインターロックの機能の解除
段取りやメンテナンスは非定常な作業だから、
安全装置の機能を除外して作業しても良いと考える方が多くいます。
そして作業前に復旧を忘れて災害が発生します。
段取りはルーチン作業であり、これは非定常な作業ではありません。
またメンテナンスにおいても故障箇所や点検を想定し、
想定外の作業は極力無くしましょう。
作業の利便性より安全性を重視しましょう。
安全装置が解除されていることに気付かずに作業することは非常に危険です。
このため安全装置やインターロックが解除されていることを検知するインターロックの付加の検討や、警報を表示・発砲した上で動作を許可する等、機能解除状態が判断できる様に仕様を検討しましょう。
②付加保護方策
負荷保護方策の一般的な事例として、非常停止ボタンを設置する方法があります。
非常停止ボタンを設置する上での注意事項としては、作業者が速やかに押せる位置に設置する必要がありますので、設置に当たっては危険源の位置と装置の移動速度、制動力等からリスクを評価し、リスクレベルを評価して適正な位置に適正な個数配置されているかを確認しましょう。
非常停止に関しては、基本的に動力電源および信号を含む全停止です。
装置を立上げする際には、先ず初めにこの機能を確認してください。
また、非常停止ボタンを解除した際には自己復帰動作せずに停止状態であることを確認してください。
3)使用上の情報制限
①警報装置
異常な状態を周囲に知らせ、作業者に操作停止を行ってもらうものです。
表示灯 やブザー等がこの代表例です。
②警告表示、③伝達すべき情報
警告表示と使用者に伝達すべき情報および取扱説明書の記載例については、
2021.11.25発行のメカトロ設計のリスク管理と安全ルール(機械設計編)で紹介済みです。制御設計に該当する項目をご確認ください。
まとめ
さて、いかがでしたでしょうか。
ここまでの説明で、メカトロ設計のリスク管理と安全対策(制御設計編)についてご理解いただけたでしょうか。
この記事でのポイントをおさらいすると以下の通りです。
1.国際的な安全規格の体系
1)安全全般 ISO/IEC Guide51
2)機械系の安全規格 ISO規格
3)電気系の安全規格 IEC規格
※JIS規格は、上位ISO、IEC規格との整合性を取り制定
2.メカトロ装置を海外へ輸出する際の注意事項
1)輸出国の規定は任意規格か、強制力が有るか?
2)電気部品や機器の指定(輸出国の規定による制御機器の指定を確認)
3)ユーザ側のリクエストの確認(操作画面やメンテナンス性等からの要望)
3.制御的なリスク低減活動の進め方
1)本質安全設計:制動力を低減する制御方法3案を紹介
2)安全防護:①安全装置およびインターロックの事例紹介
②付加保護方策(非常停止スイッチの設置方法の紹介)
制御的な安全対策を行うには、
機械設計者と制御設計者がモータやセンサ等の機器選定や制御仕様、
インターロック仕様を調整し設計を進めることが重要です。
また、偶発的な操作ミスや装置故障を想定して、
非定常を定常と考えて安全対策を検討することが重要です。
より安全なメカトロ装置は技術で守る!関係者みんなで防ぐ!
引き続き、安全第一のメカトロ設計について学びいきましょう。