投稿日:2022年06月16日
回転機の機械設計を行う上で、電動機は切っても切れない深い縁があります。しかし、動力を生み出す装置であるにも関わらず、その電動機の扱いは機械エンジニアと電気エンジニアでその扱いはまったく異なります。
電気エンジニアは、電動機のことは必須事項であるのですが、機械エンジニアの中では、割とマイナーな知識として捉えている人が多く、とっつきにくいイメージを持っている人が多いかもしれません。私も機械エンジニアなので、この気持ちはすごくよく分かります。
その為、機械エンジニアの人にとって、回転機器の性能は、電動機の性能がきちんと担保されていることが前提条件となっており、その電動機の性能まで意識して確認している機械エンジニアは少ないとされています。
しかし、モータ―の性能を確認することは、難しい式を計算するわけでもなく、決して難しくはないのです。
まずは、そのモーターの健康診断書となる資料「誘導電動機検査成績書」をメーカにもらってください。
この誘導電動機検査成績書は、モーターの製造元がモーターの性能試験を行い、その結果レポートです。モーターを購入した際に、メーカーに提出を要求すればほぼ間違いなく提出してもらえる資料なので、忘れずに要求しておくことをおススメします。
新人の頃に、回転機を購入した時によく上司に「必ず誘導電動機検査成績書をもらっておくように!」と言われ続けましたが、この書類は機械エンジニアこそが入手しておくべき書類なのです。
誘導電動機検査成績書から分かること
この成績書はメーカによって書式は異なりますが、以下の特性試験と負荷特性が記載されています。
特性試験について
特性試験は「無負荷試験」と「拘束試験」の2つの試験結果が記載されています。
項目 | 内容 |
無負荷試験 |
・モーターに負荷をかけずに定格電圧をかけて起動させる試験 ・起動時の励磁電流値とその損失の値が分かる ・電流値の単位が%となっている場合は定格電流値を100%で換算した値を記載している |
拘束試験 |
・モーターが回らない様に拘束した状態で、定格電圧より小さい電圧値を与えて、定格周波数の時のその入力電力と入力電流値を計測する試験 ・電流値に応じた損失の値が分かる。 |
無負荷試験と拘束試験を行うことで、モーターの損失値が分かるようになります。
負荷特性
負荷特性は、負荷率を変更させて定格電圧、定格周波数で運転した時の各計測値をまとめて記載してしています。
負荷特性をはじめて見る人は、以下のことを知っておけば問題ありません。
- 負荷率によって効率や力率が異なる
- 負荷が上がると回転速度がわずかに下がる(負荷が大きくなると滑りが起きる)
- 最小始動トルク(プルアップトルク)は、誘導電動機の起動直後から最大トルクに至るまでの始動トルクで一番小さい値をさす。
と認識すればよいです。
トルクの確認
誘導電動機の起動時から定格運転(定格トルクを出力する状態)までのトルク推移を以下のグラフで示します。
グラフの横軸が回転速度を表している為、モーターを起動した瞬間の状態は回転速度=0の状態と言えます。その後、回転速度=定格回転速度に推移するのです。
負荷側のトルクは常に電動機のトルクカーブの下(つまり電動機トルクより低い)状態である必要があります。そうでなければ、電動機は回転機器をピクリとも動くことも出来ません。
誘導電動機検査成績書の活用例
この検査成績書があると、どんな活用ができるのでしょうか?
モーターの電流値を計測出来れば、機器がきちんと仕事をしているかを、計算することが出来るようになります。
その為に以下の理論式でモータの定格出力を算出できる様にしておく必要があります。その式を以下に示します。
➀モータ消費電力とモーター定格出力の関係式
モータの消費電力はモーター電源の仕様によって2パターンあります。
➁3相電源の場合(商用200V、400V、3000V)
③単相電源の場合(商用100V、200V)
この➀~③で使用する値はすべて誘導電動機検査成績書に記載されていますので、特に悩むことなく、数値を当てはめれば、消費電力とモーター定格出力を計算することが出来ますね。
その定格出力の値と機器の必要動力(軸動力)で比較すれば、回転機器がきちんと動いているか(仕事をしているか)を確認することができるのです。一方で、回転機器の軸動力が分からない場合は、モーターの出力を計算することで予想することができるようになります。
その他の活用例としては、モーターの回転する力「トルク」が負荷側の機器に対して、十分かどうかを確認することができる様になります。
モーターは起動した瞬間に、わずかに出力トルクが低下します。すぐにその低下したトルクは上昇しますが、その低下したトルク値をプルアップトルクと呼びます。
一般的に負荷側の回転機は、このプルアップトルク値よりも低いトルク値で、動くようにしておく必要があります。また、最大トルクが回転機器の軸をねじ切らない様に強度上の考慮も必要となります。
電動機で動かす回転機器を設計した際は、どれくらいのトルクが必要か?そして、最大でどれくらいのトルクが発生するのかを確認しなければいけません。
モーターを購入する際に忘れずにもらっておくこと
誘導電動機検査成績書を入手できるタイミングは、メーカーがモーターを納品する前に試験を実施する必要があるので、メーカーにモーターを購入した段階で、メーカーに誘導電動機検査成績書を要求しておく必要があります。(モーターメーカーも検査を行う準備が必要なので早めに連絡する様にしておきましょう)
モーターの性能試験結果を持っていれば、機器が正常に機能しているか診断(性能低下の診断)が出来だけでなく、実際に動いている際の電流値から機器の性能評価も行うことが出来るのです。
著者である私も、回転機器の運転中に発生する性能低下トラブルには、この誘導電動機検査成績書がいつも役に立っています。
モータ―は電気エンジニアの分野だから、機械エンジニアには関係ないと考えてしまいがちですが、機器の診断役として大いに活用できることが分かりましたでしょうか?
モーターの性能を読み解き、負荷側回転機の性能を診断できる様になることで、機械エンジニアとしてのスキルアップにつながりますね。