投稿日:2022年02月02日
3DCADを使用する際、保存した3Dモデルのデータを「中間ファイル」と呼ばれる形式に変換する時があります。
中間ファイルに変換すれば、3DCADの仕様に依存せずにデータをやり取りできるため、例えばCATIAで作成した3Dモデルを、異なる分野である3DCG制作ソフトのBlenderでも開くことが可能となります。
以下の画像は、CADで作成した3Dモデルを中間ファイルであるSTL形式に変換し、Blenderにインポートしたものです。
では、中間ファイルにはどのような特徴があるのでしょうか?
今回のコラムは「中間ファイル」をテーマとして取り上げ、取引先とのデータのやり取りで注意しておきたい点をいくつか説明したいと思います。
多くの種類がある3Dモデルの中間ファイル
機械系の中間ファイルで使用されるものを以下に記載します。
【STEP(STP)】
ISO(国際標準化機構)によって規格されたデータ形式なので、多くの場面で使用されています。ソリッドデータをベースに変換してくれます。拡張子は「.step」「.stp」
【IGES(IGS)】
ANSI(米国国家規格協会)が策定し、自動車産業を中心に世界標準として認められたファイル形式です。サーフェスデータをベースに変換してくれます。拡張子は「.iges」「.igs」
【Parasolid】
Unigraphics Solutions社が開発した市販のカーネルで、ソリッドベースの中間ファイルです。SolidWorks、SolidEdge、NXなど多くの3DCADが採用しています。拡張子は「.x_t(.xmt_txt)」「.x_b(.xmt_bin)」
特に有名なものを3つ挙げましたが、扱うCADによっては他のファイル形式を指定されることもありますので、その時は拡張子などの確認を怠らないようにしましょう。
また、各ソフトウェア会社が開発した3DCADの拡張子はすでにこちらのHPでご紹介しましたが、これらのファイル形式は機密情報の塊なので、取引先に送信する前に上司に必ず許可を取ってください。
中間ファイルはあくまで3Dモデルの外形をソリッド、もしくはサーフェスで簡略化してデータ保存するため、モデリングの履歴を見ることはできません。
こうした特徴から、中間ファイルの形式は機密情報を漏らさない点で有利であると言えるでしょう。
しかしながら、モデリングの履歴を残さない性質のため、3Dモデルを完全に再現しているとは言い難く、場合によっては手作業で形状を修正することもあります。
多くの3DCADに対応し、一見便利と思える中間ファイルですが、そのメリット・デメリットを実際のデータを開いてしっかり把握しておきましょう。
取引先が同じCADを使っているとは限らない
CATIAやCreo Parametricなどが代表するように、大手メーカーが採用する3DCADはライセンス料が高額なので、すべての企業が導入しているとは限りません。
そこで中間ファイルの出番となるのですが、先にも述べた通りデータの精度は劣るため、本格的な設計を行う場合はモデリング履歴の残る元のファイルが必要になります。
CATIA V5を例に挙げるなら、ミッドレンジの3DCADであるSolidWorksとFusion360は部品データ(.CATPart)とアセンブリデータ(.CATProduct)を読み込むことが可能です。
しかしながら、SolidworksやFusion360からCATIA V5のデータとして保存することはできないため、この場合はSTEPやIGESなどの中間ファイルに変換してデータを渡す必要があります。
「.CATPart」を「.step」に変換すると、その時点からモデリング履歴がスタートとなり、CATIA V5にインポートするとスケッチや寸法などが含まれないソリッド形状のみが画面上に現れます。
以下の画像は、CATIA V5と仕様が似ている『FreeCAD』に.stepのボルトモデルをインポートした場合です。
CATIAとSolidworksは同じソフトウェア会社が開発したため、互換性があると勘違いしがちですが、実際は一方通行のデータのやり取りしかできません。
つまり、自分の扱うCADの実力や仕様を把握することはとても大切で、モデリングができると安易に引き受けてしまうと、後々に余計なトラブルへ発展する可能性があります。
取引先との打ち合わせの際に、
- お互いに使用する3DCAD
- やり取りするファイル形式
などを事前に確認しておくと良いでしょう。
目的に合わせた中間ファイルを作成する
実際に中間ファイルが用いられるのは、部品の大きさや形状を手軽に知りたい時やCAEによる解析作業など、モデリング履歴が必要としない場合です。
そのため製品開発の初期の頃には、容量の軽い中間ファイルでやり取りすることも多く、アセンブリデータに組み込んで部品同士の干渉を確認したりします。
そして本格的な設計に入ると、モデリング履歴や材料特性などが含まれるハイエンド3DCADの保存データを中心に作業が進みます。
中間ファイルへの変換は、データのやり取りにおける手段の1つなので、取引先の要望に合わせて渡すファイル形式が変わることを心得ておきましょう。
また、3Dプリンターで使用される中間ファイルにSTL形式(拡張子「.stl」)やOBJ形式(拡張子「.obj」)などもあり、用途も様々なので覚えておくと良いと思います。
以下の画像はFreeCADでエクスポートできる中間ファイルの一部ですが、かなりの種類があることが分かりますね。
IGESはデータの精度が悪いという評判もあり、現在はParasolidやSTEPが主流の3DCAD中間ファイルとして認められていますが、今後も新しい規格が生まれるかもしれないため、常に情報収集を怠らないようにしましょう。
まとめ
新人の方は今後、取引先に「3DCADは何を使用されていますか?」と聞かれる機会が多くなるかもしれません。
その時に使用する3DCADだけでなく、自分のスキルに合わせてやり取りが可能なファイル形式の名前を言えると、相手側も安心して会話を進めることができます。
先にも述べた通り、3Dモデルの元データは機密情報の塊です。
開発の初期段階でいきなり部品データやアセンブリデータを求めると相手の心証を悪くしますので、まずは中間ファイルから始めるなど、仕事の流れを読みながら提案するようにしましょう。