投稿日:2025年05月27日
機械設計者として設備全体を構想する中で、「もっと生産能力を上げたい」「今の配管では少し物足りない」「細い配管でスマートに設計したい」といった要望が出てくるのは自然なことです。とくに、生産性向上を目指して配管内の流量を増やしたいと考えることはよくあります。
しかし、そのときに忘れてはならないのが「圧力損失」の存在です。配管はただの「通り道」ではなく、流体力学の影響を大きく受ける重要な要素です。
本記事では、「なぜ配管内の流速をむやみに上げてはいけないのか?」を理論的に説明し、圧力損失を考慮した設計思考を解説していきます。
このコラムを書いた人
機械系プラントエンジニア
国内化学プラントで機械設計や建設工事を10年以上経験。危険物製造設備、発電・ボイラ設備・排水処理設備、研究施設の多種多様な設計・調達・工事に携わり、その知識をコラムにて発信中。現場でも活かせる専門知識を、日本のモノづくりに活かしてもらいたい!という強い思いを持っている。
流速を上げると何が起こるのか?
流速を上げるということは、単純に流量を増やすことを意味します。定義式として、連続の式があります。
断面積Aが固定なら、流量を増やすには V (流速)を上げるしかありません。しかし、流速を上げることで、様々な弊害が発生してしまいます。その弊害について紹介していきます。
流速を上げると発生する弊害「圧力損失の急増」
圧力損失(ΔP)は、配管の長さL、内径D、流速V、流体密度ρに依存し、管摩擦係数λを使って以下のような式で表されます。
ここで注目すべきは、圧力損失が流速の2乗に比例するという点です。つまり、流速が2倍になると、圧力損失は4倍になります。
生産性を上げようとして流量を増やすために流速を2倍にした場合、それに伴ってポンプや圧縮機の負荷が一気に跳ね上がることになります。その為、流路の断面積を増やし、流速を抑えながら流量を確保するのが適切な対策です。
圧力損失はどう計算するのか
たとえば、上司から「この既存の配管を使って、できるだけ多くの流量を通してほしい」と指示されたとします。そのとき、まず検討すべきは「圧力損失がどれくらい発生するか」です。
圧力損失を正しく見積もるためには、大きく3つの要素を押さえておく必要があります。
それは、①ストレート配管、②分岐・曲がり配管、③バルブや継手などの機器類です。
それぞれ求め方をしっかり把握し、総合的に圧力損失を算出することが、適切な配管設計につながります。
ポイント①:ストレートの配管内を通る流体
まっすぐな配管内を流れる流体による圧力損失は、前述のダルシー・ワイスバッハの式を用いて求めます。この計算において重要なのが、式中に含まれる管摩擦係数λです。このλを求める際によく使われるのが、ムーディー線図です。
図:ムーディー線図
ムーディー線図を使うには、まず流体の流れの状態を示す無次元数であるレイノルズ数(Re)を計算しておく必要があります。
レイノルズ数と、配管の相対粗さ(管内壁のざらつき度合い)をもとに、グラフ上で管摩擦係数λを読み取ることができます。この図を活用すれば、複雑な反復計算を行わずにλを得られるため、非常に便利です。
ポイント②:分岐管や曲げ管等の配管以外を通る流体
管路の形状がストレートでない場合にも、圧力損失は発生します。この場合の圧力損失は、その流路の形状によって、どのように圧力損失に影響を与えるかを表す損失係数ζ(ゼータ)を利用して算出します。各形状により、損失係数ζの値の取り方が異なります。
例えば、同径で分岐する場合は、ストレート側でζは0.35、分岐側でζは1.29、90°のエルボ管では、ζは1.39です。
ポイント③:弁などの調節機器
バルブ(弁)は、開度によって流量を調整できるため、そのときどきで発生する圧力損失は可変となります。このため、バルブが引き起こす圧力損失は、一般的に「ストレート配管に換算した相当長さ(Le)」として扱い、評価するのが一般的です。
(例)相当長さLeの値
配管径(inch) | ゲート弁(仕切弁) | グローブ弁(玉形弁) | アングル弁 |
1/2 | 0.01 | 3.25 | 1.63 |
3/4 | 0.17 | 4.49 | 2.3 |
1 | 0.23 | 6.88 | 3.56 |
1・1/2 | 0.37 | 10.2 | 5.08 |
2 | 0.52 | 13.8 | 6.89 |
3 | 0.77 | 21.0 | 10.5 |
4 | 1.07 | 28.5 | 14.3 |
6 | 1.61 | 43.9 | 22 |
8 | 2.21 | 59.0 | 29.5 |
10 | 2.79 | 74.4 | 37.2 |
12 | 3.35 | 89.3 | 44.6 |
参照;流体固体輸送工学ハンドブック(発行:朝倉書店 著:植松時雄ら)より
特殊な構造を持つバルブや制御用の調節弁については、形状が近い他のバルブの相当長さを参考にして圧力損失を見積もることになります。
また、配管設計者として重要なのは、流量調整の余地(調整代)をどの程度確保するかという点です。流量を絞るためにバルブを小さく開けた際、圧力損失が過大になり、必要な流量を確保できなくなるリスクがあります。したがって、十分な圧力余裕をもたせた設計が求められます。
特に調節弁を使用する場合には、調節弁で消費される圧力損失は、配管系全体の圧力損失の40~50%程度(0.4~0.5倍)を見込んでおくのが実務上の目安です 。
流速を上げると発生する弊害「エロージョンによる配管減肉」
配管内の流速を上げすぎると、配管内壁にエロージョンが発生する可能性があることを忘れてはいけません。
エロージョンとは、流体が局所的に高速で流れることで、その接触面が削り取られてしまう現象です。とくに流れが曲がる部分や、バルブ内部のように複雑な構造を持つ箇所では、流速の集中や乱流の発生により、エロージョンが加速しやすくなります。
この現象が一度始まると、短期間で減肉が進行し、最終的には穴あきや破損に至る可能性があります。特に蒸気のように比体積が小さく、容易に高速化する流体では、注意が必要です。
エロージョンによる配管損傷は、運転の安定性や安全性に大きく関わるため、流速の設計段階から適正な範囲に制限することが求められます。
流速の適正値はあるの?
圧力損失は、配管内の流速の2乗に比例して増加します。これは裏を返せば、ある程度まで流速を抑えておけば、圧力損失の影響は小さく、流体を遠方まで効率的に送ることができるということです。
そのため、設計段階で「この流速までは圧力損失の影響が小さい」とされる基準流速を目安に配管設計を行えば、大きな問題が起きにくいとも言えます。
ただし、すべてのケースにこの基準が当てはまるわけではありません。流体の種類や温度、配管の材質、設置環境などによって最適な流速は変わります。
以下に示す目安はあくまで一般的な参考値としてご活用ください。
実際の配管内流速目安(備考欄のコメントは経験則です)
流体 | 目安の流速 | 備考欄 |
水、海水 | 1m/s~2m/s | 粘性が低い液体のほとんどはこれに該当する。 |
蒸気(飽和) | 10m/s~20m/s | 流速は飽和蒸気より過熱蒸気の方が大きくとれるが、40m/s以下に抑えておくこと。エロージョン発生や蒸気のドレン化による損失を防止する |
油など温度によって粘性が変わる流体 | 0.3~0.6m/s | 粘性の影響があり、流速は低めに設定する。粘性が大きい場合は、圧力損失の計算は必須。 |
配管内の流速を減らしすぎるとどうなる?
配管設計では、圧力損失を抑えるために配管を太くしたくなることがありますが、流速が小さくなりすぎると別の問題が発生します。代表的な例が、管内への汚れの堆積です。
流速が遅いと、配管内に滞留する時間が長くなり、汚れやスラリー分が水平配管の底部に堆積しやすくなります。この堆積物が流路を狭めたり、局所的な腐食の原因になったりするため、結果的に設備トラブルにつながるリスクがあります。
特に以下のような条件では、最低限の流速を確保することが非常に重要です。
- 断続運転される流体系統
- 排水や廃液などの汚れた流体
- スラリーなど固形分を含む流体
このような場合、圧力損失を恐れて配管径を大きくしすぎると逆効果です。
「せっかく太い配管を選んだのに、すぐに汚れが溜まって詰まってしまった」という事態を防ぐためにも、適正な最小流速を保てる配管径を検討する必要があります。
まとめ
配管を設計する際には、管内流速を意識した配管径の選定が非常に重要です。特に、配管距離が長い場合や、粘度の高い流体、過熱蒸気などを扱う場合には、圧力損失の検討が欠かせません。
圧力損失は、単にストレート管の摩擦だけでなく、配管ルート上に存在するエルボ・ティー・調節弁などのあらゆる要素で発生します。
これらの個別の損失を積み上げた総和に加えて、運転時の操作性を確保するために、適度な“圧力損失の調整代”(余裕代)を持たせることが大切です。
弁開度の調整幅を確保できるように設計しておくことで、現場での運転や制御の柔軟性が高まり、トラブルを未然に防ぐことができます。
以上のことから配管設計者は、どのように弁を操作し流量を制御するのか、そしてその系統における最大流量・最小流量の範囲を正確に把握しておくことが求められます。
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