投稿日:2025年06月24日
製品設計の現場では、設計データや部品表、図面といった情報を効率よく管理するためには「PDM(製品データ管理)ツール」が非常に有用です。
設計業務に慣れてくると、設計者の視点でPDMの導入や見直しに参加する機会も出てきます。その際、「どれを選べばいいのか?」と迷う方も多いのではないでしょうか。
今回は、実務に基づいたPDM選定のポイントを解説します。
このコラムを書いた人
PLMソリューションエンジニア
製造業向けPLM(製品ライフサイクル管理)ソリューションの開発リーダーとして、6年にわたり部品表(BOM)を中心としたシステム設計・導入支援に従事。自動車、家電、機械産業など幅広い業界での経験を活かし、製品データの一元管理や業務プロセスの最適化を実現。PLMシステムの要件定義から開発、運用までを一貫して支援し、現場に密着した実践的なソリューションを提供している。
PDMの導入は最初に「クラウド型」か「オンプレミス型」か選ぶ
PDMツールには大きく分けてクラウド型とオンプレミス型の2種類があります。
クラウド型:
インターネット経由でサービスを利用します。
- 導入が早く、初期費用も抑えやすいです。
- サーバーやネットワーク管理の負担が少ないのもメリットです。
- カスタマイズには制限があります。
オンプレミス型:
自社サーバーにシステムを構築します。
- 自社要件に合わせた高度なカスタマイズが可能です。
- セキュリティや他システムとの連携についても柔軟に対応できます。
- 導入や運用に専門知識とコストが必要です。
選定時には、「将来の拡張性」や「設計業務との親和性」といった視点が重要です。
たとえば、PDMツールが日々の設計フローに自然に組み込めるか、CADデータの保存や検索、図面の版管理がスムーズに行えるかなど、設計者自身の業務との相性を重視する必要があります。
スタートアップ的な小規模開発チームであれば、運用負担が少なくて済むクラウド型が適しているでしょう。一方で、多部門との連携や独自フローがある大規模な製造業では、カスタマイズ性に優れたオンプレミス型を選ぶケースが多く見られます。
PDMと既存のCADや基幹システムと連携できるか
実際の運用を考えると、PDM単体で完結することはまずありません。
むしろ、既存のCADソフトや生産管理システムなどの業務システムとの連携がカギとなります。
特に、CADベンダー純正のPDMは相性が良く、トラブルが少ないためおすすめです。たとえば、SOLIDWORKSを使っているなら「SOLIDWORKS PDM」が候補になります。
逆に、異なるメーカー製ソフトを連携させる場合は、APIやカスタマイズの可否をしっかり確認する必要があります。
コストとカスタマイズ費用をしっかり検討する
PDMツールの価格は数十万円から数百万円まで幅があります。たとえば、SOLIDWORKS PDM Professionalは年額35万〜85万円ほどが目安です。
加えて、以下の費用も忘れてはいけません。
- カスタマイズ費用(導入時の設定や開発)
- 追加ライセンス(利用者が増える場合)
- 年間保守・サポート費
これらを見積もりに反映しておかないと、あとから予算が足りなくなるという事態になりかねません。
操作のしやすさとベンダーサポートも重要
「操作が難しくて使いこなせない」
「サポートに問い合わせても対応が遅い」
こうした不満が現場でのPDM定着を妨げます。導入前にデモ版を試用したり、操作画面を確認したりすることをおすすめします。
また、導入後のサポート体制(日本語対応の有無や対応スピード)も選定基準のひとつです。特に経験の浅い技術者が多い職場では、サポートの質がPDM活用の成否を左右します。
実際に導入されているPDMツールの一例を紹介
製品名 | 特徴 | 提供形態 | 価格目安 |
Visual BOM | 超軽量3Dデータ管理、BOM連携 | オンプレミス/パッケージ | 要問合せ |
SOLIDWORKS PDM | 標準・プロ向けの2プラン、CAD連携、アクセス制御・自動化 | パッケージ | 年額35万~85万円 |
Autodesk Fusion 360 Manage | 設計データやBOM管理、工程管理など幅広いPDM機能をクラウド上で提供 | クラウド | 年額 67,760円 |
Aras Innovator SaaS | エンタープライズ向けPDM/PLM製品のクラウド提供版 | クラウド | 要問合せ |
PDMの導入ではセキュリティ面の違いにも注意
PDMを選定する際には、セキュリティ面の考慮も欠かせません。
クラウド型PDMでは、ベンダー側で最新のセキュリティ対策(通信の暗号化、多層防御、アクセス制御など)が施されていることが一般的です。
しかし、データセンターが海外にある場合、法規制(GDPRや米国法など)の影響を受けるリスクもあります。取り扱う設計データが国外流出しても問題ないか、社内規定を事前に確認しておくことが重要です。
一方、オンプレミス型は、物理的に自社内にサーバーがあるため、データの所在を完全に管理できるのが強みです。ただし、セキュリティ運用(パッチ適用、アクセス管理、バックアップなど)は自社の責任となります。
そのために専任のIT担当者を置くなどの十分な体制が求められます。
扱うデータの機密性に応じて、適切な運用体制を準備できるかを見極めましょう。
まとめ
クラウド型は導入が手軽で、短期間で運用を開始しやすいという利点があります。一方、オンプレミス型は自社要件に応じた柔軟なカスタマイズが可能である点が魅力です。
PDMツールを選定する際は、既存のCADや基幹システムとの連携がスムーズに行えるかどうかを最優先で確認する必要があります。
設計データの管理がうまくいけば、設計業務そのものの品質やスピードも大きく向上します。PDMはうまく活用すれば、設計者として成長するための心強い味方になってくれるでしょう。