投稿日:2022年01月28日
合金鋼の中で最も使用頻度が高いステンレス鋼。耐食性に優れ、磁石につかない特徴を持つことは、知っている方も多いと思います。しかし、中には磁石にくっつくステンレスもあるのはご存知でしょうか?
ステンレスには数多くの種類があり、「とにかく耐食性がほしい」「耐食性と強度を両立したい」「磁性が必要」など、目的によって使い分ける必要があります。
本コラムではステンレス材料の基礎知識から、よく使う材料の種類や特徴、それぞれの選び方まで解説します。
適切なステンレス材料を選ぶことで、コストを抑えながら長持ちする部品を製作できます。ぜひ本コラムを参考にしてみてください。
1. ステンレスとは? どんな種類がある?
ステンレスは、鉄にクロム(Cr)やニッケル(Ni)を加えた合金鋼で、その一番の特徴は錆びにくいことです。
ステンレスという名前はStainless(ステイン・レス)、つまり「汚れない・錆びない」という意味になります。
なぜ錆びに対して強いかというと、鉄にクロムを加えることで表面に「不動態被膜」と呼ばれる膜を形成するためです。この被膜によって錆びの進行を防げるわけです。
不導体被膜の膜厚は数㎚(百万分の数mm)程度しかなく透明なため、母材の見栄えを損なわず意匠性にも優れています。
それに加えて強靭であり、たとえステンレス鋼の表面に傷がついても、空気中の酸素とクロムが結びついて自動的に再生する機能を持ちます。
1-1. ステンレスの種類
ステンレスの種類はクロムやニッケルなどの含有量によって分けられ、大きく3つに分類されます。
種類 | 主な材料 | 説明 | 有利な点 |
オーステナイト系 | SUS304 SUS303 SUS316 |
・クロム・ニッケル系ステンレス鋼 ・全体の60%以上がこの種類 ・磁性を持たない |
耐食性 |
フェライト系 | SUS430 | ・クロム系ステンレス鋼 ・磁性を持つ |
コスト |
マルテンサイト系 | SUS410 SUS440C |
・クロム系ステンレス鋼 ・炭素含有量が多い ・磁性を持つ |
強度・硬度 |
参考文献:
元素から見た鉄鋼材料と切削の基礎知識(2012)日刊工業新聞社 P126
1-2. 磁石がつかないのはオーステナイトだけ!
オーステナイト・フェライト・マルテンサイトのうち、磁石にくっつかないのはオーステナイトのみです。これは、オーステナイト系のステンレスに含まれるニッケルが原因です。
ニッケルには、鉄が磁石とくっつくのを邪魔する性質があります。それによって、ニッケルを含むオーステナイトは磁性を失うことになります。
したがって、マグネットスタンドなどの磁石工具を使いたい場合は、オーステナイト以外のステンレスを選ぶようにしましょう。
2. オーステナイト(クロム・ニッケル系)の特徴
まず、オーステナイト系のステンレスから解説します。
オーステナイトは、前述した3種類の中で最も耐食性に優れるステンレスです。鉄に対しクロムだけでなくニッケルも加えられており、それによって組織の結合力が増すので粘り強い性質を持ちます。
オーステナイトに含まれるのは、SUS304など300番台のステンレスです。
次項からは、オーステナイト系ステンレスの中で代表的な材料を紹介します。
2-1. 基本となるSUS304
SUS304は、ステンレスの中で最もオーソドックスな材料です。「サス・サンマルヨン」と読みます。ステンレスを使用するときは、基本的にこの材料を使うといいでしょう。
主な特徴は以下の通り。
- 耐食性に優れる
- 溶接性に優れる
- 粘り強いため切削加工は難しい
2-2. 切削加工に向いたSUS303
SUS303は、リンや硫黄を加えて切削性を向上させたステンレスです。快削ステンレス鋼とも呼ばれます。
価格はSUS304よりも少し高めですが、削りやすいので加工コストを抑えられます。そのため切削加工品を製作する場合は、SUS303を使用するのがおすすめです。
主な特徴は以下の通り。
- 切削性に優れる
- 耐食性はSUS304より若干劣る
- 溶接には向かない(リンや硫黄が溶接性を悪くするため)
2-3. より強い耐食性を持つSUS316
SUS316は、SUS304にモリブデン(Mo)を添加した材料です。SUS304より耐食性が向上しており、「孔食(穴が開いた腐食)」のような、塩素濃度が高い環境で発生する腐食にも耐性があります。
したがって、沿岸部など海水や塩分の強いモノとの接触が想定されるなら、SUS316を使用するといいでしょう。
主な特徴は以下の通り。
- オーステナイト系の中でも耐食性に優れる
- 溶接性に優れる
- SUS304より切削性が劣る
- モリブデンを含む分コストが高い
3. フェライト(クロム系)の特徴
続いてフェライト系ステンレスの特徴を解説します。このステンレスは約18%のクロムを含んでおり、オーステナイトと異なりニッケルは加えられていません。
フェライト系の代表的な材料はSUS430になります。
3-1. フェライト系の代表格であるSUS430
SUS430はフェライト系ステンレスの代表格であり、ひとまずこの種類だけ覚えておくといいでしょう。
SUS430の一番の特徴はコストの安さです。それに加えて、ある程度の耐食性や加工性の良さを備えているので、安くステンレスを使いたい場合はSUS430を選ぶのをおすすめします。
主な特徴は以下の通りです。
- 価格が安い
- SUS304より耐食性に劣る(マルテンサイトよりは優れる)
- SUS304より切削性に優れる
- 溶接性は比較的良好
- 磁性を持つ
4. マルテンサイト(クロム系)の特徴
マルテンサイト系のステンレスは、炭素が多く含まれているため焼入れができます。オーステナイトやフェライトに比べて耐食性は劣りますが、焼入れできる分、強度や硬度の面で優れています。
ただし、雨水など水に対する耐食性は十分でないため、大気中での防錆用として使用するのがいいでしょう。
主なマルテンサイト系のステンレスは、SUS410とSUS440Cです。
4-1. マルテンサイト系の代表格であるSUS410
SUS410は、マルテンサイト系の中で代表的なステンレスです。耐食性だけでなく、強度や耐摩耗性が求められる条件に適しています。
主な特徴は以下の通り。
- 焼入れによって強度・硬度を上げられる(硬度はHRC43が目安)
- 切削性に優れる(焼入れ前の「焼なまし」状態)
- 他のステンレスより耐食性は劣る
- 溶接性が悪い
- 磁性を持つ
4-2. ステンレスの中で最も硬いSUS440C
SUS440Cは、炭素含有量が約1%もあり、ステンレスの中で最高の硬度を誇る材料です。SUS410では強度・硬度が不足する場合に用いるといいでしょう。
主な特徴は以下の通り。
- 焼入れによって強度・硬度を上げられる(硬度はHRC58が目安)
- 切削性に優れる(焼入れ前の「焼なまし」状態)
- 他のステンレスより耐食性は劣る
- 溶接性が悪い
- 磁性を持つ
ステンレスの使い分けまとめ
今回のコラムでは、よく使うステンレスの種類について主に紹介しました。それぞれの使い分け方をまとめると、以下のようになります。
今回紹介した内容が、ご参考になりましたら幸いです。
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