投稿日:2025年04月11日
市場環境の多様化や顧客ニーズの急速な変化に伴い、機械設計においては「標準化」と「柔軟性」の両立が求められるようになりました。
そこで注目されるのが、部品やユニットの共通化によって効率と信頼性を高めつつ、必要な箇所だけをカスタマイズできるモジュール設計です。
本記事では、モジュール設計のメリットと課題、そしてその成功に向けたアプローチについて解説します。
このコラムを書いた人
機械設計のプロフェッショナル
製造業で10年以上にわたり機械設計に従事し、機械設計技術者試験1級を保有。基本設計から評価、量産までの工程を経験しています。若手技術者の育成や設計リーダーとしての役割も担い、幅広い業務での知見をもとに、実務に役立つ情報を発信することを目指しています。
モジュール設計とは
モジュール設計とは、製品を複数の独立した部品(モジュール)に分け、それぞれを標準化して設計・製造する手法です。これにより、同じモジュールを複数の製品で利用でき、新規設計部分が減り、開発期間の短縮や在庫管理の効率化が実現します。
上図のように主要部品をモジュール化することで、複数製品を開発する際に最小限の新規開発のみで市場が求める製品ラインナップをそろえることが可能になるでしょう。
モジュール設計のメリットと問題点
まずは、モジュール設計によって得られるメリットと問題点について解説します。
モジュール設計のメリット
モジュール設計は、設計工程の効率化、コスト削減、そして信頼性向上といった多くの利点をもたらします。
新規設計箇所の削減
モジュール設計では、既存の標準部品やモジュールを再利用することで、新たに設計する箇所を最小限に抑えることが可能です。
たとえば、産業用ロボットでは、アームの基本構造や関節部はすでに実績のある標準モジュールとして確立されています。
これを利用することで、たとえば特定用途向けのセンサーやエンドエフェクターの取り付け部のみを新規設計することが可能となり、全体の設計工数を大幅に削減できます。
標準部品使用頻度増加による信頼性の向上
既に評価済みの標準モジュールを用いることにより、設計全体の信頼性が向上します。また、共通の設計思想が浸透することで、技術の伝承が円滑に進むという副次的効果も期待できるでしょう。
たとえば、航空機分野では、故障リスクを徹底的に排除することが求められます。複数の機種で使用実績のある標準モジュールを採用することで故障率の低減を図っています。
部品加工費、購入費の削減
複数製品で共通部品を採用することで、一括加工や大量購入ができ、部品加工費や購入費の削減が可能です。
共通在庫となるため、在庫総量の削減
標準化された部品やモジュールを共通在庫として運用することで、製品ごとに個別の部品を保有する必要がなくなります。これにより、在庫総量が削減され、管理コストも低減されるでしょう。
モジュール設計の問題点
一方で、モジュール設計を導入する際には、いくつかの問題点も存在します。ここでは、導入にあたって考慮すべき3つの問題点について解説します。
初期投資の増加
モジュール設計のメリットを享受するためには、従来の設計手法からの転換や、設計の標準化推進のための初期投資が必要です。
具体的には、設計手法の統一、モジュールの選定、データ管理など、初期段階でのコストが増加する可能性があります。
たとえば、CADデータや部品情報を管理するシステムの導入には、数百万円規模の初期投資が必要となる場合が一般的です。
設計の自由度が制約される
標準モジュールに依存した設計では、創造性やカスタマイズ性が制限される傾向があります。特殊な要求や標準モジュールでは対応できない課題に直面すると、柔軟な対応が難しくなります。
結果として、既存の標準モジュールだけでは対応ができず、新たな設計を行わざるを得ない状況もあり得ます。
モジュール設計を進めるには、設計自由度と効率化のバランスをどのように両立させるかが大きな課題となるでしょう。
管理の複雑化
モジュールごとに設計データやバリエーションが存在するため、これらを一元管理するシステムや運用ルールの整備が不可欠です。データ管理が不十分な場合、情報の混在や更新漏れが発生し、結果として設計品質の低下を起こす可能性があります。
モジュール設計を成功させるためのアプローチ
モジュール設計のメリットを最大限に活かすためには、設計者や関連部門全体での統一した取り組みが必要です。以下では、モジュール設計を推進するアプローチのポイントを解説します。
設計者への認識教育
モジュール設計を成功させるためには、まず設計者がそのメリットと必要性を十分に理解することが不可欠です。実際の成功例を交えた研修などを通じて、標準化による効果を具体的に示し、設計者の意識改革を促します。
また、各プロジェクトで設計のばらつきを防ぐため、設計方針を策定し、共通部品の活用を推進することも重要です。
具体的には、定期的な勉強会を実施して、成功事例をデータとともに紹介し、モジュール設計のメリットを実感させます。さらに、新規設計部分と既存モジュールの利用割合を評価指標とし、定期的なレビューで設計者へのフィードバックを行いましょう。
標準部品・モジュールの質と量
標準部品やモジュールの充実は、モジュール設計の基盤となります。多様な設計ニーズに対応するため、幅広い用途に適した標準部品のラインナップを整備することが重要です。
使用実績が豊富で品質が保証された部品やモジュールを採用することで、各製品の信頼性が向上し、設計者も安心して共通部品を利用できます。
具体的な取り組みとしては、まず自社製品の過去の設計を分析し、共通化可能な部品やユニットを抽出します。
これを基に、標準部品・モジュールのカタログを整備し、設計者が容易に選択できる環境を構築します。また、自社のみでカバーできない場合には、外部メーカーとの連携を通じて、必要なラインナップを拡充します。
さらに、標準モジュールの性能や耐久性を評価します。これにより、設計者が安心して標準部品を採用できる体制を整えていくと良いでしょう。
利便性とデータ管理
設計の効率化を実現するためには、標準部品やモジュールのデータ管理が極めて重要です。まず、最新のCADデータや部品情報に即座にアクセスできるデータ管理システムを導入します。
設計者が必要な情報を迅速に取得できることは、モジュール設計の推進の成否に直結するでしょう。
そして、保存されたデータについては、仕様や変更履歴が明確に管理されるよう定期的な更新と自動通知システムの導入が求められます。
また、設計者がデータベース利用時に疑問や問題を感じた場合に備え、専用のサポート窓口やFAQを整備することも有効です。
最後に|競争力の基盤を作る
市場の多様化が進む現代では、製品開発の高速化とコスト競争力の確保が企業存続の鍵となります。
モジュール設計は、設計の標準化と柔軟なカスタマイズを両立させることで、開発期間の短縮、設計工数の削減、製品全体の信頼性向上、さらにはコスト削減が可能です。
このためには、適切な認識教育、標準部品やモジュールの充実、効率的なデータ管理の取り組みが不可欠です。
こうした取り組みを着実に実施することで、長期的な競争力強化が可能となり、企業は多様な顧客ニーズに柔軟かつ迅速に対応できる基盤を築くことができます。
モジュール設計の戦略的導入は今や不可欠な取り組みと言えるでしょう。