投稿日:2025年03月04日
現代の製造業において、機械設計は製品開発の中心的な役割を担っています。
自動車、家電、医療機器など、あらゆる分野の革新は優れた機械設計によって支えられています。しかし、技術の進歩や市場の多様化に伴い、機械設計者には高度な専門知識と幅広いスキルが求められるようになってきました。
複雑化する設計要求に応えるためには、基礎工学の理解に加え、最新のツールの活用やチームとの効果的なコミュニケーション能力が不可欠です。
本記事では、機械設計の基礎からキャリア形成に必要なスキルや資格まで、機械設計者として成功するための方法を解説します。
このコラムを書いた人
機械設計のプロフェッショナル
製造業で10年以上にわたり機械設計に従事し、機械設計技術者試験1級を保有。基本設計から評価、量産までの工程を経験しています。若手技術者の育成や設計リーダーとしての役割も担い、幅広い業務での知見をもとに、実務に役立つ情報を発信することを目指しています。
機械設計とは何か?
機械設計とは、機械の「形状・構造・材料」などを考案し、実際に機能させるための仕様を決定するプロセスを指します。自動車のエンジンや工場で使用されるロボットアームなど、あらゆるものづくりの出発点であり、設計の出来不出来が製品の品質や安全性に大きく影響します。
機械設計者の役割は、単に「設計図」を描くだけではありません。顧客や市場のニーズを踏まえながら、製品のコストパフォーマンスや安全性を総合的に考慮し、最適な仕様を考案する必要があります。
このように、機械設計は製品の基盤を作り上げる重要な仕事であり、ものづくりの成否を左右する専門領域として多くの企業で欠かせない存在となっています。
機械設計の主な業務パターン
機械設計と一言でいっても、その対象となる製品や開発の進め方は多岐にわたります。新しい製品をゼロから立ち上げる場合もあれば、既存製品の品質や性能を改良することもあります。
また、大量生産を前提とした設計と、特定の顧客ニーズに合わせた設計では求められるスキルが異なるのも特徴です。ここでは、機械設計業務の主なパターンを比較紹介します。
新規設計と改良設計の違い
機械設計の業務パターンには、新しい製品をゼロから設計する「新規設計」と、既存製品をベースに性能向上や問題点の改善を行う「改良設計」があります。
新開発設計 | 市場のマーケティングや顧客ニーズをもとに、新しい製品をゼロから開発する手法。 新型の家電製品、新しい技術要素を取り入れたロボット開発など。 |
改良設計 | 生産中(既存)の製品に対して、機能や品質を向上させるための改良を行う手法。 既存自動車エンジンの燃費効率を向上させるなど。 |
新規設計は、独自のアイデアや最新技術を取り入れやすい反面、未知のリスクや大きな責任が伴います。たとえば、新型ドローンのプロペラを新素材で設計するケースなどです。
一方、改良設計は、ある程度のデータや実績を活用できるため、成果を出しやすい点が魅力です。たとえば、既存ドローンのバッテリーのみを変えて飛行時間を延ばすといった取り組みが該当します。
量産設計と特注設計の違い
もう一つの業務パターン分け方として、製品を多数生産する「量産設計」と、特定のニーズに合わせてカスタマイズする「特注設計」があります。
量産設計 | 大量生産を前提として、部品や製品を最適化する設計手法。 自動車や家電製品などの大量生産が前提の製品。 |
特注設計 | 特定の顧客要望に合わせて、オーダーメイドで製品や機械を設計する手法。 産業用ロボットの専用アタッチメント設計、医療機器の特別仕様対応など。 |
量産設計は、1個あたりのコストや製造工程の効率化が重視されるため、家電や自動車など大量生産が前提の製品に多く用いられます。
一方、特注設計は、顧客の特殊な要望に合わせる必要があります。産業ロボットの専用アタッチメントなどが代表例です。
機械設計の主な業務内容(プロセス)
機械設計は、単に図面を作成するだけではなく、製品のコンセプトづくりから最終的な市場フォローまで多岐にわたる業務が含まれます。
製品の品質やコスト、納期を左右する重要な工程が数多く存在するため、全体像を正しく理解しながら進めることが大切です。
ここでは、機械設計のプロセスを大きく7つのステップに分け、各工程の目的やポイントを解説します。
1.概念設計(構想設計)
製品の基本的な方向性を決める重要な段階です。「できあがった機械でこういうことがしたい」という要求をもとに、実現方法のアイデアを出し、機能・仕様、サイズ・レイアウトなどを検討します。
この段階でコンセプトが曖昧なままだと、後の工程で大幅な修正が発生し、開発期間やコストが膨らむリスクが高まります。しっかりと目標と要件を固めることが、スムーズな開発の第一歩です。
2.基本設計
概念設計で固めた方針をもとに、製品の骨格となる部分を具体化する段階です。必要に応じてシミュレーションや解析を行い、実現可能性を検証しながらCADを使って大まかなモデルを作成します。
回路設計や構造・寸法の設定、問題の洗い出し・修正などが中心的な作業となります。
3.詳細設計
基本設計で固めた内容に対して、細部を詰めるのが詳細設計です。具体的には部品図や組立図を作成し、各部品の寸法や加工精度を明確にします。
また、CAD/CAEを利用して強度解析や熱解析といったシミュレーションを行い、設計の妥当性や安全性を検証することも重要です。
4.試作と評価
詳細設計の段階では、必要に応じて試作品を製作し、実機を用いた評価を行います。具体的には、部品の強度や環境耐性の検証や機能の妥当性確認を行います。
試作と評価を繰り返し行い、結果を設計へ反映させていきます。こうしたプロセスをしっかり踏むことで、より完成度の高い製品に仕上がります。
5.生産設計
詳細設計で完成した図面をもとに、製造・組立方法や工程を設計します。
この段階でミスがあると、製造段階で大きなトラブルやコスト増を招く可能性が高いため、製造担当との連携を密に行うことが不可欠です。
6.製造
製造工程では、製品の加工・組立を行います。その後、初期のロットを使って性能や安全性、耐久性などを総合的に検証し、必要に応じて設計変更を行います。
こうしたフィードバックを繰り返すことで完成度が高まり、最終的に信頼性の高い製品を市場投入できるようになります。
7.品質改善・市場フォロー
製品が市場に投入された後も、品質改善と市場フォローは重要な工程です。
顧客からのフィードバックや市場での使用状況を基に、製品の性能や使い勝手を向上させるための改善を継続的に行います。また、市場を分析し、新たなニーズに対応するための新製品開発の情報収集をすることも設計者の重要な仕事です。
機械設計の魅力・やりがい
機械設計には、魅力とやりがいが詰まっています。ここでは、機械設計の具体的な魅力とやりがいについて紹介します。
自分のアイデアを生かして世にないものを生み出す
機械設計の最大の醍醐味は、まだ世の中にない機械や製品を形にできる点です。苦労は多いですが、完成したときの達成感は格別です。
自分の設計した機械が誰かの役に立っていると考えると、やりがいも高まります。専門性だけでなくアイディア・センス・コミュニケーション能力など多彩なスキルが問われる難しさこそ、機械設計の面白さともいえるでしょう。
成長を実感できる仕事
機械設計は、常に新しい技術や知識を取り入れながら進化していく分野です。材料工学や加工技術、CAE解析など幅広い領域を学ぶことでスキルが着実に向上します。
近年では、複雑な形状を一体成型できる「3Dプリント」が普及し、これまで実現が難しかった設計が可能になりました。
こうした先端技術に触れながら、ライバルや仲間と切磋琢磨する過程にワクワクする――それが機械設計の楽しさと成長実感につながります。
設計から製造まで一貫して関わる仕事
機械設計者は、図面作成だけでなく、試作品の製造や量産化、そして品質改善までかかわります。
試作品や量産段階で初めてわかる課題も多いため、すぐに設計修正や部品構成の見直しを行う対応力が欠かせません。製品が完成し世に出るまでの全プロセスに深く携われるのは、機械設計ならではの大きな魅力といえます。
機械設計者になるために
機械設計者として成功するためには、基礎的な工学知識やCAD・CAEツールのスキルに加え、優れたコミュニケーション能力が求められます。以下では、これらの要素について詳しく紹介します。
基本的な工学の知識
機械設計には、材料力学、流体力学、熱力学などの基礎工学の知識が不可欠です。これらの知識は、部品の強度計算や熱膨張を理解し、製品の信頼性を確保するために重要です。
例えば、自動車のエンジンの設計には、流体力学や熱力学の知見が必須となります。基礎工学の知識は、大学で学ぶだけでなく、実務を通じてさらに深めることが求められます。
ツールの活用スキル
設計の効率化や高度化には、CADやCAEなどのツールの活用が不可欠です。手作業での図面作成は時代遅れとなり、現在では3Dモデルによる可視化やシミュレーション解析が主流となっています。
例えば、SOLIDWORKSやICAD、CATIAなどのCADソフト、ANSYSなどのCAEソフトを活用することで、設計の最適化が可能です。これらのツールを使いこなすスキルは、現代の機械設計者にとって必要不可欠です。
コミュニケーション能力とチーム連携
機械設計は、一人で完結する仕事ではなく、他部門との連携やチーム内での協力が欠かせません。設計段階で部品調達や製造現場、品質管理との擦り合わせを怠ると、後工程で大きなトラブルを招く可能性があります。
技術力と同様に、コミュニケーション能力が求められるのが機械設計者の特徴です。
機械設計に資格は必要か?
機械設計の仕事においては実績が重視されることが多いため、資格は必ずしも必須ではありません。しかし、資格を取得することで専門的な知識や技術を客観的に証明できます。
また、資格取得を通じて技術の理解を深め、実務に役立つ知識を身につけることが可能です。この結果として実績を積むことに役立つでしょう。
機械設計者におすすめの資格2選
ここでは、機械設計者としてスキルを高め、キャリアアップを図るためにおすすめの資格を2つご紹介します。
①機械設計技術者試験(https://www.kogyokai.com/exam/)
機械設計技術者試験は、社団法人日本機械設計工業会が主催する資格試験で、機械設計の総合的な知識を問います。
機械要素、材料力学、流体力学、熱力学など幅広い分野から出題されるため、受験準備を通じて実務スキルの向上にもつながります。
試験は1~3級があり、実務経験や知識レベルに応じて受験が可能です。基礎工学の知識を再確認し、実務に活かすことができる点が大きなメリットです。
②CAD利用技術者試験(https://www.acsp.jp/cad/)
CAD利用技術者試験は、CADの操作や図面作成の知識を証明する資格です。CADが使える機械設計者はどの業界でも重宝され、特に3D CADのスキルは製品開発プロセスの高速化に直結します。
試験取得を目指して学習する過程で、ソフトの細かい機能や効率的な操作方法を習得でき、実務のスピードアップにも寄与します。
また、CAD利用技術者試験は操作スキルだけでなく、図面の読み書きやJIS規格などの基礎知識も身につくため、設計者としての基盤強化に最適です。
最後に|機械設計者として成功するために
本記事では、機械設計の業務や必要なスキル、資格について詳しく見てきました。
機械設計は単なる図面作成ではなく、アイデアを形にし、製品の全工程にわたって関与する仕事です。工学の知識やCAD・CAEツールの活用能力、そしてチームとのコミュニケーション能力が、成功するための鍵となります。
しかし、これらすべてが完璧である必要はありません。まずは一歩を踏み出し、基本的なスキルを磨くことから始めましょう。
実務経験を積みながら、自分の可能性を広げていくことができます。そして、常に学び続ける姿勢を持つことが、機械設計者としての成長につながります。