機械設計者のための有限要素法(FEM)による応力解析入門

投稿日:2024年12月16日

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機械設計の現場では、複雑化する顧客の要求や高まる性能基準に対応するため、設計者は日々、課題に直面しています。

特に、設計ミスを最小限に抑えながらコストや開発期間を短縮することは、設計者にとって常に大きなプレッシャーです。限られたリソースや時間の中で、試作を繰り返すことで解決策を模索することは、効率的とは言えません。

そこで有効なのが有限要素法(以下、FEM)です。FEMを適切に活用することで、試作を繰り返さずに製品の性能や弱点をシミュレーションし、初期設計段階で問題点を特定することが可能です。

このアプローチにより、設計プロセスを効率化し、コスト削減と開発期間の短縮を同時に実現できます。さらに、FEMは設計の信頼性を向上させ、より高品質な製品を作り出すための重要なツールです。

本日は、FEMの基本を解説し、設計者が正確な解析結果を得て設計最適化を行うための知識を提供します。設計の効率と品質を向上させたいと考えている設計者の方々に向け、実践的な情報をお届けします。

有限要素法の基礎:設計者が知るべきポイント

FEMは、解析対象を小さな要素(メッシュ)に分割し、それぞれの要素に対して数値的な解を求める手法です。

この方法により、構造全体の応力変位ひずみの分布を計算し、複雑な物理現象を数値的に解析することが可能です。

設計者はFEMの基本理論を理解しておくことで、解析結果をより正確に解釈し、それを設計に反映させることができます。

特に重要なのは、メッシュ生成境界条件の設定です。これらは解析結果に大きな影響を与えるため、慎重に設定する必要があります。

正確な結果を得るためには、これらの設定を適切に行うだけでなく、解析モデルの作成や結果の解釈にも十分な注意を払い、FEMの基本をしっかりと理解しておく必要があります。

メッシュと要素の選定が結果に与える影響

FEMの解析精度を大きく左右する要因の一つが、メッシュの設定です。メッシュを細かくすると解析精度は向上しますが、同時に計算時間やコストが増加するため、精度と計算負荷のバランスを取ることが求められます。

解析の目的に応じて、どの程度のメッシュの細かさが必要かを慎重に判断することが重要です。

要素の形状も解析結果に大きな影響を与えます。一般に、四角形六面体の要素は三角形四面体の要素よりも精度が高いとされていますが、三角形や四面体は計算が速く、粗い解析には適しています。

したがって、設計者は解析の目的に応じて、どの要素形状が最適かを判断し、必要に応じてメッシュの細かさを調整する必要があります。

特に重要な部分には細かいメッシュを使用し、全体的には粗めのメッシュを適用することで、計算時間を短縮しつつ精度を確保することが可能です。

このような最適なメッシュ生成が、効率的で信頼性の高いFEM解析のポイントとなります。

境界条件と荷重設定の重要性

FEMの解析において、境界条件荷重の設定は、結果の信頼性を左右する重要な要素です。

境界条件とは、解析対象のどの部分を固定し、どの部分が自由に動けるかを定義するもので、これを正確に設定しないと現実の挙動と大きく異なる結果が得られることがあります。

また、荷重の設定も同様に、どこにどのような力が作用しているかを正しく定義する必要があります。

例えば、力を局所的に加える場合と、面全体に均等に荷重を加える場合では、結果に大きな差が生じる可能性があるため、物理現象を忠実に再現する設定が重要です。

適切な境界条件と荷重設定を行うことで、FEM解析の信頼性を確保し、現実に即した設計の最適化を図ることが可能です。

有限要素法の結果の見方

FEMの解析結果は、製品や部品の弱点を特定し、設計の改善に直接役立ちます。

応力図や変位量図などの視覚的な結果を理解し、どのように判断すべきかを学ぶことで、FEMの活用を最大限に引き出すことができます。

応力図と変位量図から分かること

応力図は、部品や構造のどこに応力が集中しているかを視覚的に示します。これにより、ミーゼス応力主応力の分布を確認し、部品の弱点や強化すべき部分を特定することができます。特に、応力集中が発生している箇所は注意が必要です。

一方、変位量図は、荷重に対する部品や構造の変位を示し、設計した形状が適切に機能しているかどうかを評価するために使用されます。

静荷重に対する評価方法

静荷重下でのFEM解析では、構造が一定の荷重を受けたときの応力変形を評価します。特に、ミーゼス応力が材料の降伏応力を超えていないかを確認することが重要です。

また、構造全体が許容応力内に収まっているかどうかを応力分布でチェックすることが求められます。これにより、設計が静的な荷重条件に耐えられるかを判断できます。

繰り返し荷重に対する評価方法

繰り返し荷重に対する解析、つまり疲労解析は、製品の寿命を予測するために行われます。繰り返し荷重にさらされる部品では、応力が小さくても累積損傷により疲労破壊が発生する可能性があります。

FEMを使ってミーゼス応力主応力の変動を解析し、S-N曲線を用いて疲労寿命を推定します。

解析結果の評価と誤解を避けるためのポイント

FEMの解析結果を正確に評価することは、設計を最適化するために重要です。特に、応力集中特異点がある箇所では、計算結果として出力される応力値が物理的に意味を持たない場合があります。

これらの箇所の結果を過信するのではなく、全体の応力分布ひずみ分布を慎重に確認し、異常な値が出ている場合には、メッシュや条件設定を再調整することが推奨されます。

また、最大応力やひずみの値だけでなく、解析対象全体の挙動を把握し、モデルやメッシュ設定が適切かどうかも再確認することが重要です。

効果的な有限要素法の運用

FEMを効果的に活用するためには、設計者はソフトウェアの使い方だけでなく、解析の理論的背景も理解する必要があります。

特に、ブラックボックス化を避けるために、モデル化やメッシュ生成、境界条件設定の重要性を理解し、自ら適切な判断を下せることが求められます。

一方で、個人のノウハウに依存しない信頼性の高い設計品質を確保するための運用も重要になります。

FEMを効果的に活用するためには、適切な解析環境の整備と解析結果の妥当性確認が重要です。これにより、設計の信頼性を向上させ、製品の品質を確保することができます。

解析ができる体制構築を行う

FEM解析を正確に行うためには、専門的な知識を持った技術者が不可欠です。

知識習得を個人の努力に依存しすぎると、解析の精度や信頼性が低下する恐れがあるため、組織全体で外部セミナーの受講制度を構築するなどの適切な教育体制を構築することが重要です。

結果の妥当性確認を行う

解析結果の妥当性を確認するためには、得られた結果が実際の挙動と一致するかを評価する必要があります。

また、他の計算手法(手計算による概算)や実験データと照らし合わせて結果を比較し、解析モデルが正しく設定されているかを確認することが重要です。

最後に

FEMは、機械設計者にとって有用で不可欠なツールです。設計の初期段階からFEMを活用することで、試作回数を削減し、コストや開発期間の大幅な短縮が可能になります。

ただし、正確な解析結果を得るためには、メッシュの適切な設定、境界条件や荷重の正確な適用、および結果の評価が不可欠です。

また、組織全体でFEM解析技術に関する知識を共有し、解析の理論的背景を理解することにより、信頼性の高い解析を実施でき、設計品質向上にも繋がります。

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