最近の化学工場のDX化に向けた動向

投稿日:2022年07月21日

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製造業のDX化による企業競争力を高めようとする動きがここ数年で起きています。

2000年初期の製造業は、人間が行う手作業を自動化して人件費を削減することを主として努力をしてきましたが、だんだんと人件費削減では、企業の競争力は追いつかない自体になっています。

その状況を打開すべく、この数年で、DX化による販路拡大や生産能力と消費者のマッチング等が行われることが企業活動の主軸に切り替わってきました。そんな中で化学工場のDX化を求める働きが最近、経済産業省を主として行われています。

なかなかニュース報道ではされていませんが、国際競争力を高めるための官民共同で進めていますのでその内容を紹介します。

経産省とDX推進を行っている化学工場の特徴とは、どんな特徴があるのでしょうか?

引用元:経済産業省資料

化学工場は、主に石油化学品と呼ばれる液体やプラスチック樹脂製造や肥料や塗料の工場を指しており、製造業の中でも鉄鋼や素材等の工場と同じで基本的に24時間の運転しています。

意外かと感じるかもしれませんが、工場はコントロール室からの遠隔操作により、すでに製造している工場内の無人化はほぼ実現されています。とはいえ、運転員が現場のパトロールを、交代しながら定期的に行っています。

こういった化学工場の設備は、すでに半世紀以上前に建設されたものが多く、特に古いとされている石油化学工場は大規模な設備がまだ建設時のまま運転を行っているのが現状です。

その為、化学工場が抱える問題点として、現場の経験者不足、経年劣化した設備によるトラブルの頻発の対策が必要とされています。

そういったリスクをIOT機器やAIの技術で乗り越えようとするために2019年ごろより経済産業省を主体として、スマート保安の取り組みがスタートしています。

AIやドローンなどのに業務そのもののあり方が変更となる可能性がある

官民の最近の取り組み

年月 取り組み内容とその背景について
2019年4月

石油・化学プラント内での電子機器等の活用範囲の拡大に向け、「ガイドライン」を作成
【背景】
電子機器やセンサー等を活用し、プラントの安全性の向上や保安業務の合理化等による生産性の向上を図りたい。しかし、プラント事業者は、法令に基づき危険区域を設定する必要がありますが、実態上、プラント内全体を危険区域として設定しているため、その危険区域の見直しを行う為のガイドラインを作成した。

2020年6月 官民のトップによる「スマート保安官民協議会」を開催
【スマート保安官民協議会の目的】
スマート保安の基本的な方針を明確化し、その重要性と取組の方向性を官民で共有することを目的としている。
企業と国での動きを以下の理念のもと強化を図るものとされている。
①企業は、新技術の開発・実証・導入等の取組を主体的に推進する。
②国は、保安規制・制度の見直しを機動的に行う。
これにより、安全性向上や企業の自主保安力の強化を実現し、関連産業の生産性向上・競争力強化を図る。
2020年7月 石油・化学プラントのスマート保安推進に向けて官民アクションプランを策定
【目的】
高圧ガス保安部会を開催し、高圧ガスの認定事業者(大手石油化学企業)との連携を図ることを決めた。
【官庁のアクション】
➀高圧ガス保安制度の総点検(ドローンによる目視点検の代替など)
➁スマート保安を推進する認定事業所制度のインセンティブ設計見直し防爆ドローンの実証・開発支援
③AIを安全に利用するためのガイドラインの策定
【企業のアクション】
➀ウェアラブル機器と5Gを活用した作業支援
➁ドローンによる高所・危険領域点検
③デジタルツインによるシュミレーションと状態可視化
④AIによる運転パラメータ自動最適化
2020年11月 石油・化学プラントのAIを活用したスマート化を促すため、ガイドラインと事例集
【背景】
厳格な安全性が求められる工場にAIの信頼性を評価する基準がない為、導入や開発に踏みきれないことが実態としてあり、投資効果も見えない為、導入を見送っている企業が多い。その為のAIガイドラインを発行した。
2022年3月 高圧ガス保安法等の一部を改正する法律案」が閣議決定
【目的】
革新的なテクノロジーの推進や人材不足等の環境変化に合わせて保安規制の見直しを行うことを目的としている。

スマート保安って何?

キーワードとして使われる「スマート保安」という言葉は、

“電力、ガス、高圧ガス等の産業保安分野で、IoT、ビッグデータ(BD)、人工知能(AI)、ドローン等の新たなテクノロジー等の革新的技術の導入を 通じ、安全性と効率性を追求しつつ、保安レベルを持続的に向上させるための取組”※と定義されています。

※産業構造審議会保安・消費生活用製 品安全分科会 産業保安分野における当面の制度化に向けた取組と今後の重要課題にて定義されています。

IoTと聞くと、「10年以上前からある技術なのになんで今更、、、」と思うかもしれません。

経済産業省が化学工場にターゲットを広げているのには理由があります。(以下は著者の主観も含みます)

  1. 化学工場では防爆エリア(危険物エリア)という電子機器が持ち込めないエリアがあり、タブレット等のスマート機器の導入を阻害しているという現状がある。その為、規制緩和を行う必要がある。
  2. 化学工場は、大規模工場が多く、IoT導入による経済的な活性が見込める。
  3. プラントの遠隔操作等のデジタル技術導入はすでに行われており、運転のデータ取得の土台がすでにある。さらに、安全性やセキュリティーに関する意識は他の産業に比べて高い。
  4. 工場の広大な敷地面積により、3Dスキャナやドローン等の技術恩恵を受けやすく、それら技術向上につながる。
  5. 高圧ガス保安法により大手メーカに義務を仰ぐことができるため、官庁でコントロールしやすい。

以上の5つにより、経済産業省は、日本のスマート保安技術を化学工場で実証しながら技術革新をしていこうとしているのでしょう。

今後の化学工場での取り組み

化学工場のDX化での最大のテーマは、工場のメンテナンス方法をどのように管理していくかを考えることです。3D上のマッピングデータで工場の設備を管理していく手法や、ドローンによる設備パトロールの実施検討が現在行われています。

会社の経営にとっては、設備投資による費用対効果が短期間で見込めるモノではない為、なかなか導入に踏みきれない企業もあるはずです。

そのほかに、運転操作をつかさどる分散制御システム(DCS)のデータ活用やAIによる運転管理の検討も行うことになるはずです。

これらは、ネットワーク上の情報セキュリティのリスク軽減が必要な為、安全上の対策も含めて、企業は取り組んで行くでしょう。

日本の産業の技術革新は、今後の化学工場での取り組みにかかっているのかもしれません。