投稿日:2022年03月07日
シールポットと呼ばれる装置を聞いたことがあるでしょうか?一般的には知られてない装置ですが、化学工場等では頻繁に使用されている装置です。
化学工場には、以下の理由等により、容器内の圧力を大気圧近くで維持したまま使用したい機器が多くあります。
化学工場で装置内を大気圧で維持しておきたいケース
- 反応後の容器内を大気圧にすることで反応を抑制したい。
- 大型の貯蔵タンク等は、表面積が大きい為、タンク内を大気圧に維持し、圧力による変形を防止したい。
- 化成品の揮発防止のため、容器内が負圧にならないように大気圧で維持したい。
とはいえ、容器を解放し、容器内を大気圧にすることはほとんどありません。
なぜなら、取り扱うガスが人体や環境に有害であったり、可燃性ガスであったりと簡単に外部に放出することが出来ないからです。
では、どのようにタンク内の圧力を大気圧近くに維持しているのでしょうか。
答えは、水等の液体で蓋をして、大気圧近くに圧力を維持し、且つ外部に有害なガスを放出しない様にするのです。その時に使用する装置が「シールポット」と呼ばれる水封装置です。
図.化学工場でシールポットの利用する理由
シールポットの目的
シールポットの目的はガスの放出を最小限にして、タンク内の圧力を大気圧に近づけることです。
液柱高さによって、常に一定の差圧を付けて液体で蓋をすることができるので、複雑な機械を設置するより非常にシンプルな構造で圧力を維持することが出来ます。
そして、タンクの中の圧力が何かの原因で上昇すると、蓋をしている液体を押し下げて外部にガスが洩れるようになっている為、その液注高さ分の圧力以上に高くなることはありません。
稀に、外部への放出が一切許容できないガスに対しては、シールポットのガスをベントスタック※やフレアスタック※等の排ガス設備で無害化処理する必要があります。
シールポットの液体にタンク内のガスをわざと吸収させて、無害化したガスのみを放出するスクラバーのような機能を持たせることも出来ます。
その場合は、ガスを吸収した液体を別途処理する手間が発生しますが、液体に吸収されている為、ガスとに比べて取り扱い易くなるといったメリットがあります。
※ベントスタック:排ガスを人体や周辺施設に影響のない高さから放出する施設
※フレアスタック:可燃性の排ガスを燃焼させて無害化する施設
内部構造について
シールポットの内部構造はとてもシンプルです。その構造を下の模式図で示します。
図中のシールポットは、左側は加圧側のシールポット、右側は負圧側のシールポットの一体構造になっています。それぞれタンクからのガスを黄色、水を青色で示しており、そのガス圧が高くなっても、低くなっても大気とバランスするようになっています。
表.ガス圧力によるシールポットの機能
ガス(黄色部分)の圧力が大気圧より高くなった場合 | ガス(黄色部分)圧力が図中のAの長さ分の水を下に押し、大気側にガスが放出される。 ガス圧力の最大=大気圧 + 水柱A高さ |
ガス(黄色部分)の圧力が大気圧より低くなった場合 | 大気圧力が図中のBの長さ分の水を下に押し、ガス側に空気が侵入する。 ガス圧力の最小=大気圧 - 水柱B高さ |
液中に差し込んだ長さ(図中A,B)によって、シールされる圧力が決まる為、難しい調整が一切いりません。又、蓋の役割の水(シール液)は、揮発分を補う程度の微量を流し続ければよいので、設置すれば一切の操作がいらない装置となります。
以下図のように加圧側のシールポットと負圧側のシールポットの組み合わせたタイプを主に化学工場では使用しているのです。
図.シールポットの構造図(左:タンク加圧時に作動、右:タンク負圧時に作動)
シンプルだが、立派な安全装置
シールポットは、外気に解放せずとも容器内の圧力を一定に保ち、圧力が上昇しても大気圧に戻る機能を備えた装置として使用されています。その為、安全弁では難しい微差圧で作動する安全装置としての役割を果たしています。
化学工場で多く採用されているのは、他の安全装置と違い、注水すれば機能するので、動作不良や分解整備を行う必要がないというメリットがあるからです。
まとめ
機械設計者にとって圧力維持をしたいときにまず考えるのは、差圧ダンパー、調節弁等の機械的なコントロールをまず想定するかもしれません。
しかし、シールポットの様な水封技術を利用すれば思いもよらず、簡単な構造で解決するかもしれません。