誤差が生じやすいボルト締結部のCAEによる解析方法

投稿日:2021年12月20日

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機械製品に数多く使用されるボルトやネジですが、
部品と部品を繋ぐ要素でもあるため、CAEによる解析時に
境界条件をどう決めるのか悩む人は多いと思われます。

境界条件とは、CAEにおいて「荷重」や「拘束」など、
解析モデルの境界上に設定する様々な条件のことです。

特にボルトやネジのような締結部に使用される部品は、
境界条件をよく考えなければ、計算結果の精度が悪くなる可能性があります

こうした課題に向き合うため、
今回はCAEの初心者でも分かるボルト締結部の解析方法についてご説明します。

解析時に誤差が生じやすいボルト締結部


図1 二枚の板をボルトで締結したモデル

一般的に、
部品同士を繋げる役割を持つボルトは、
このように用いられることが多いと思われます。

こちらの画像は、
二枚の板を一本のボルトで固定したものです。

解析時において接触要素を決めるとなると、
二枚の板が接触した部分を全面的に固着させるか、
ボルトと板が接触する部分を固着させるかに分かれると思います。

図2 ボルトで締結した二枚の板を正面から見た様子

図2の設定その1では、
板の接触面がボルトで固定されたと想定して解析した場合、
ボルトのモデルも不要なので必然的に計算時間も短くなります。

しかしながら、
モーダル解析(固有値解析)のように剛性の影響を受けやすいものは、
板の接触面が完全に固定されてしまうと剛性が極端に上がってしまい、
正しい結果が得られない可能性があります。

対照的に図2の設定その2では、
ボルトと板の接触面のみ固定されたと想定し、
材料特性を入力して計算を行います。

こちらはより現実に近いシミュレーションとなりますが、
ボルトやネジを一本ずつ設定するのは非常に手間が掛かるため、
あまり効率的ではありません。

また近年では、螺旋形状を含めたボルトのモデリングが可能となり、
より詳細な解析を行うこともできますが、メッシュモデルや境界条件が
複雑になればなるほど、比例して計算時間も長くなってしまいます。

知っておきたいボルト締結部のモデリング

ボルト締結部の解析は、
CAEの歴史にとって課題の一つでした。

そのため、「MPCモデル」や「リベット型モデル」といった
ボルトを再現する解析手法が生まれ、
作業の効率化を図ろうとしています。

では、ボルト締結部を再現するモデルには
どのようなものがあるのでしょうか?

【接触面を固着してボルトを省略するモデル】

ボルト締結した全面を固定する解析モデルです。

ボルトモデルは省略しても構わないですし、
境界条件も複雑でないため計算時間も短くて済みます。

図3 二枚の板が完全固定されているメッシュモデル

しかしながら板の端に荷重を加えた場合、
二枚の板の接触面が完全固定されているため
たわみによるボルト周辺の歪みを確かめることはできません。

また剛性も上がってしまうことから、
モーダル解析による固有値の結果が必然的に高くなるため
実測値との誤差が大きく出る可能性があります。

あまり有効な手段とは言えませんが、
締結する箇所が応力集中や固有値などの解析結果に対して影響が少ない場合、
工数を削減する意味でこのモデルを用いるのも方法の一つだと考えられます。

【締結部をMPC要素にて結合したモデル】

ボルトとの接触面をMPC(多点拘束)要素にて結合したモデルです。

ボルトの頭が接触する領域をMPC要素で拘束し、
軸も含めて線が走るようなビーム形状で表現します。

こちらはボルトの3Dモデルが必要なく、
指定した領域のメッシュ節点を蜘蛛の巣のような
ビーム要素で拘束するモデルが作成されます。

図4 MPC要素で固定したモデル

ボルト締結部を簡素化したモデルなので計算時間も短くて済み、
CAEソフトによっては3Dモデルの接触面を指定するだけで作成が可能なので
初心者でも分かりやすいのが特徴的です。

ただし、あくまで簡素化したモデルであることから、
解析結果に対して影響の少ない箇所に用いることが一般的となります。

【ボルトの3Dモデルを用いたリベット型モデル】

ネジ山を省略したボルトの3Dモデルを用いて解析を行う方法です。

図5 リベット型ボルトを用いてメッシュを作成したモデル

図5の例では、ボルトの頭と板の接触面を固着し、
材料特性を入力して解析を実行します。

より現実に近いシミュレーションなので、
実測値との誤差が少ない結果を得ることが可能ですが、
切るメッシュが多くなるため、手間と計算時間が必然的に増えてしまいます。

パソコンの性能が高ければネジ山を表現した3Dモデルで
解析を行うこともできますが、形状が複雑になるため、
時間に限りのある実務で用いるのは難しいと言えるでしょう。

図6 ネジ山を再現したボルトの3Dモデル

図6では左がネジ山のないリベット型モデル、
右がネジ山を再現したモデルですが、
明らかにメッシュは右のモデルが多くなります。

また、ネジ山が接触する部分を節点拘束するといった細かな作業もあるため、
人為的なミスで計算途中にエラーが発生する可能性があります。

しかしながら、
ボルト周辺における精度の高い結果を求めるなら話は別となり、
問題の発生箇所を考慮した上でモデルを使い分けましょう。

・・・・以上で3つのモデルをご紹介しましたが、
どれが最適かという明確な答えはありません。

解析の目的により何百とあるボルトやネジを省略したり、
設計変更での影響の大きい箇所を詳細にモデリングしたりするなど、
臨機応変に対応する必要があります。

工数にも影響するCAEの境界条件

CAEによる解析で大切なのは、
設計の変更でどのような影響が出たのかを知ることなので、
過去の解析結果と実測値との比較はとても重要な参考資料になります。

そのため、
経験者のアドバイスや実測値に近い解析データに基づいて境界条件を決め、
より効率的な解析を目指しましょう。

もし境界条件が定まらないまま解析を続けますと、
無駄なモデリングやエラー修正などの作業に追われ
時間がどんどん削られてしまいます。

何事も「最初が肝心」です

これはボルト締結部だけに限らず、
解析全般に言える心掛けなので、分からないことがあれば積極的に
CAE経験者とのコミュニケーションを図ってください。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

ボルトやネジのような機械に欠かせない部品は、
設計においても重要な要素の一つですが、
CAEでは少し扱いが違います。

例えば壁にネジで固定したフックの強度を知りたい場合、
壁に固定した部分はネジを排除して全面で拘束したり、
またネジをMPC要素で拘束するといった方法もあるため、
やり方は千差万別です。

やり方は無数にあっても、実測値との近似性がなければ
解析データは無駄になってしまうので、
CAE技術者にとっては腕の見せ所になります。

あくまでシミュレーションなので、
実測値との誤差を0%にすることはできませんが、
より近似したデータを得られれば製品開発の一助となり
技術者のスキルアップにも繋がると思います。

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