投稿日:2021年12月14日
過去3回に渡り、
メカトロ設計においても「安全第一」を
最優先に検討することの重要性について解説しました。
本コラムは作業環境編の紹介になります。
作業環境は、
一見メカトロ装置と無関係と感じられる方がいらっしゃると思いますが、装置を扱う作業者が体調の不調を訴え労災として認定されている事例があります。
これらはメカトロ装置の設計段階において作業者の安全性についての設計配慮不足から発生している労働災害で、この様な災害についてもリスクアセスメントを実施し、リスクレベルの低減に努め、安全・安心なメカトロ装置の提供を目指しましょう。
本コラムでは作業環境を起因とする労働災害発生事例に関連する規格や法規、
リスク低減対策の進め方についてご紹介します。
皆さんの身の回りにも同様の場面がありませんか?
この機会に再確認してみましょう。
1.熱による災害事例
1)事象および発生要因
熱による災害というと火傷をイメージされる方が多いと思いますが、
意外に見逃されがちな熱中症です。
熱中症は高温多湿の作業環境下で長時間作業することによって発症します。
発生要因としては、
メカトロ装置を連続運転することでモータ等の機器が発熱し、
これを防護カバー等で密封、高温状態が促進されます。
また、外気温に加え、多湿状態や通気性が悪い場合には
比較的低温でも熱中症が発症する可能性が高くなります。
2)関連法規またはJIS規格の情報
JIS Z 8504「WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく
作業者の熱ストレスの評価-暑熱環境」より内容を抜粋し紹介します。
熱中症は、気温と湿度、通気状態等の複合的な要因があるため、
温度や湿度を個別に測定した場合には、これらの結果から演算し評価が必要になりますが、WBGT(不快)指数を直接的に表示可能な黒球式熱中症指数計が販売されていますので、ご利用されると便利だと思います。
以下の表より、熱中症の掛かり易さの指針が示されています。
3)リスク低減対策
a) 熱中症発生要因を確認する。
b) 防護カバー内部を通気性が悪い場合はファンを設置し、加熱を防止する。
c) 防護カバーの密封により高温になっている場合は、
金網またはパンチングメタルタイプのカバーに変更し、放熱性を改善する。
d) 作業場所にWBGT指数測定計器を設置し、
基準値以上の指数を示した場合には警報を発砲し、作業を停止する。
e) 作業者は、定期的に休憩を取り、水や塩分を補給する。
2.騒音による災害事例
1)事象および発生要因
プレスや圧入、刻印、カシメ、機械加工、研磨等の装置は、
製品と工具等の金属接触や、機械部品の駆動部の金属接触により
騒音が発生します。
騒音が大きいのは誰もが直感的に気付くのですが、
煩いところで作業することに慣れてしまい、
知らない内に聴力低下等の異常を来す場合があります。
騒音は空気中を伝搬するものと、
振動した物体から伝搬するものがあります。
2)関連法規またはJIS規格
中央労働災害防止協会 騒音障害防止のためのガイドラインより
85Bb以上の騒音を伴う作業に関して、事業者は労働安全衛生法第88条の規定に基づく届出と騒音低減対策に努めること、従事者には耳栓等の保護具着用が義務付けられています。
3)リスク低減対策
a) 振動源を特定しましょう。
b) 振動源が物体から伝搬されている場合は、振動源を低減することを考え
ます。振動源を低減する方法としては、防振材(ゴムやジェル、ばね等)
の防振材を振動源付近に押し当てること等により、振動の伝搬を抑制し
騒音レベルを低減します。
c) 次に空気伝搬する振動は、防護壁を設置し、遮音を検討します。
d) 防護壁の効果が少ない場合には、防音壁内部に吸音材を貼り付け等をし、
振動を吸収に努めましょう。
3.滑り、躓き、墜落による災害事例
1)事象および発生要因
メカトロ装置においても階段やチェッカープレート(縞鋼板製の床)、
防護柵等を設置することがありますが、例えば階段の踏板や高さ、
角度等が不適切で、転倒事故が発生する場合があります。
また、床の段差による転倒や、防護柵の高さや間口の開放状態が悪く、
防護柵を設置しても挟まれ等の災害が発生している場合があります。
2)法規またはJIS規格
メカトロ装置に良く使用される機器の設計について、
JIS B 9713-3:機械類の安全性−機械類への常設接近手段−第3部:階段,段はしご及び防護さく(柵)を抜粋し紹介します。
以下の表にJIS規定値を一覧に整理しました。
また、JISでは規定値が明確に示されていないものがあり、
住宅等で階段や防護柵の実績のある建築基準法(第23~27条)を参照し、
推奨値を右側に記載しました。
表3 水平防護柵および階段、階段防護柵の寸法表 ※単位記載外はmm
部位 | 記号 | 寸法 | 推奨値 |
登り高さ(踊り場まで) | L | 3000以下 | 3000以下 |
水平移動距離 | G | 規定無し (600≦G+2H≦660) |
220 |
け上げ高さ | H | 220 | |
踏み板の奥行 | T | 規定無し | 230 |
踏み板の重なり | R | 10以上 | 10 |
傾斜角度 | α | 規定無し | 45°(42~48°) |
階段幅 | W | 推奨800(最小600) | 800 |
頭上間隙 | C | 1900以上 | 1900以上 |
頭上空間 | E | 2300以上 | 2300以上 |
水平防護柵の高さ | Y1 | 1100以上 | 1100以上 |
防護柵の隙間 | Y2 | 500以下 | 500以下 |
つま先板の高さ | Y3 | 80~100 | 100 |
つま先板の隙間 | Y4 | 10以下 | 0 |
階段防護柵の高さ | Y5 | 900~1000 | 1000 |
図1 水平防護柵および階段、階段防護柵の例
3)リスク低減対策
a) 滑り対策
2階立て以上の構造物に設置する安全柵には、万が一足を滑らせ転倒、墜落の危険があるため、図1の様につま先板を設け、作業員の墜落災害を防止すると共に部品等の落下事故を起こさない様に対策しましょう。
b) 躓き対策
床の段差を設けない措置として、設計で3mm以内、施工で5mm以内の段差範囲内に施工されていることを確認します。(国土交通省 住宅性能表示基準バリアフリー基準より引用)
c) 階段および防護柵
登り高さやけ上げ寸法、防護柵等の高さが基準を満たしていない構造物が多々散見されます。
皆さんが階段や防護柵を設計する際は、
規格を確認し設計を進めましょう。
なお、昇降手段としては、階段、段はしご、はしごの3種類がありますが、
段はしごやはしごはメンテナンス等の一時的な利用用途であること、
基本的に物を持っての上り下りは禁止されています。
・階段: 傾斜角≦48度
・段はしご:48度<傾斜角≦75度
・はしご: 75度<傾斜角≦90度
その他に振動や有害物質、光線、放射線、酸欠、
人間工学および原則無視による災害の可能性がありますが、
上記と同様に危険源を特定し、リスクアセスを実施し、
完成後にも再確認することでリスク低減対策を確実に実施しましょう。
まとめ
さて、いかがでしたでしょうか。
ここまでの説明で、メカトロ設計のリスク管理と
安全対策(作業環境編)について理解いただけたでしょうか。
この記事でのポイントをおさらいすると以下の通りです。
1.熱中症による災害のリスク低減対策
1)発熱要因を確認する。
2)防護カバー内部を通風により、加熱を防止する。
3)防護カバーの放熱性を検討する。
4)作業場所のWBGT指数を測定し、基準値外の場合には警報を発砲する。
5)定期的に休憩を取り、水や塩分を補給する。
2.騒音による災害のリスク低減対策
1)振動源を特定する。
2)物体から伝搬される振動を防振材の押し当てにより音源を抑制する。
3)空気伝搬する振動を防護壁による遮音する。
4)上記で効果が低い場合には防音壁内部に吸音材を貼り付ける。
3.滑り、躓き、墜落による災害事例
1)JIS規格や建築基準法等を参照し、規格値を確認して設計する。
2)段はしごやはしごは常時使用する目的では使用しない。
常時利用する場合は階段を設計する。
3)床には5mmを超える段差を作らない。
メカトロ装置を設計する際には、
機械や電気、制御等の技術的検討にばかり注力してしまうと、今回紹介した様な付帯部分や作業環境要因の労働災害が発生してしまう可能性があります。
この様な災害を防止するには、
製作前のデザインレビュー等の打ち合わせに、エンドユーザとなる現場作業者に参画いただき、事前に説明することで作業性等に問題が無いか確認すると良いでしょう。
この機会に是非、
メカトロ仕様を検討する上で現場の作業環境要因に問題が無いか確認し、
安全安心なメカトロ装置の提供に努めましょう。