なぜ「モーター選定を丸投げ」は失敗するのか

投稿日:2019年01月13日

機械設計の現場で経験を積むにつれ、任される範囲も増えてくる頃かと思います。
機構設計、強度計算、図面作成……。

その中で、多くの若手エンジニアがつまずく「壁」があります。
それは、「モーターの選定」です。

ある日の設計現場。
入社2年目のA君は、搬送用コンベアの設計を任されました。

駆動部分を決める段階になり、電気設計のB先輩にこう依頼しました。

「このコンベアを動かしたいので、
 いい感じのモーターを選んでおいてください!」

しかし、B先輩から返ってきたのは厳しい言葉でした。

「これじゃ選べないよ。
 何を、どのくらいの速さで動かすの?
 負荷トルクやイナーシャは計算した?」

A君は呆然としました。
(モーターは電気部品だから、電気屋さんの仕事じゃないの……?)

もし、あなたがA君と同じように思ったとしたら、
今日のメールは仕事の進め方を変える大きなヒントになるはずです。

なぜ「選定の丸投げ」がNGなのか。
そして、手戻りのない設計をするための「鉄則」をお伝えします。

なぜ、「丸投げ」では失敗するのか?

結論から言います。
選定に必要な情報の半分以上は、機械設計者にしか出せない」からです。

「モーター = 電気部品 = 電気担当」と思いがちですが、
モーターが回す相手は、あなたが設計した「機械(メカニクス)」そのものです。

電気設計者は回路や制御のプロですが、
「その機械を動かすために、物理的にどれだけの力が必要か」を計算するプロではありません。

・ベルトコンベアの摩擦抵抗は?
・ワークを含めた総重量は?
・ローラーや歯車の「回りにくさ(慣性モーメント)」は?

これらの情報は、機械の構造を決めた機械設計者であるあなたにしか分からないのです。

電気設計者に依頼するなら、
「必要なスペック(トルクや回転数)」という共通言語に翻訳して渡す必要があります。

「動かない」を防ぐ選定の3ステップ

では、具体的にどう進めればよいのでしょうか。
機械設計者が行うべき「選定の準備」を3ステップで紹介します。

【ステップ1】使用環境と駆動機構を明確にする

カタログを開く前に、前提条件を整理しましょう。

・使用環境
 温度、湿度、粉塵の有無、電源電圧(単相/三相、100V/200Vなど)。

・駆動機構
 コンベア、昇降リフター、ボールねじなど、何を動かすのか。
 機構によって計算式が異なります。

【ステップ2】機械的な負荷を「数値化」する

ここが最重要です。
「なんとなく重い」ではなく、物理計算で数値を弾き出します。

1. 必要トルク
 摩擦や重力に逆らって動かし続ける力です。
 減速機を使う場合は、減速比に応じて必要なトルクが変わります。

2. 負荷慣性モーメント(イナーシャ)
 見落としがちなのがこれです。
 「回転のしにくさ」「止まりにくさ」を表す数値で、
 質量だけでなく形状(直径)が大きく影響します。

 これがモーターの許容値を超えていると、
 トルクが足りていても回り出しません。

【ステップ3】「共通言語」で依頼する

ここまで準備できれば、スムーズに連携できます。

「このコンベア用を選んで」ではなく、

「回転数は100rpm、必要トルクは2.5N・m、
 負荷慣性モーメントはこれくらいで、
 インダクションモーターを使いたい」

と依頼しましょう。

ここまで具体的であれば、電気設計者も
最適なインバータやコストを考慮した提案を返してくれるはずです。

【ミニクイズ】あなたの理解度をチェック!

ここまでの内容を踏まえて、簡単なクイズです。

Q1. モーター選定において、機械設計者が算出して提示すべき項目として最も適切なものは?
A. インバータの周波数設定値
B. 負荷装置の慣性モーメント(イナーシャ)
C. モーター内部のコイルの巻き数

Q2. 次の記述のうち、選定時の考え方として「間違っている」ものは?
A. 減速機(ギヤヘッド)で回転数を落とすと、トルクは大きくなる。
B. カタログの「定格トルク」が必要トルクを上回っていれば、慣性モーメントは無視してよい。
C. 使用環境(温度や粉塵など)は、設計初期に確認しておく必要がある。

▼ ミニクイズの解答・解説は、ページの末尾に掲載しています。

機械設計者が「選定」できるメリット

自分で選定計算ができるようになると、設計の質が劇的に向上します。

例えば、計算の結果「モーターが大きすぎる」と分かった場合。
丸投げしていたら「スペースを広げて」と言われて終わりですが、
自分で計算していれば、

「ローラー径を小さくしてイナーシャを下げれば、
 小さいモーターでも動かせる!」

といった機械側からの最適化が可能になります。

これはコストダウンや装置の小型化に直結する、
機械設計者ならではの提案です。

まずは「基礎」を体系的に学ぶことから

とはいえ、

「慣性モーメントの計算式に自信がない」
「カタログの専門用語が難しい」

という方も多いでしょう。

モーターの種類(AC、DC、ステッピングなど)によっても、
見るべきポイントは異なります。

そこで、体系的にまとめられた講座で
「基礎の基礎」を押さえておきませんか?

当社の 「機械要素入門講座(モーター編)」 では、
選定の考え方から、種類ごとの特性、実務で使える計算手順までを
動画とテキストで解説しています。

・カタログスペックの読み方(定格トルク、許容負荷イナーシャなど)
・慣性モーメント計算用Excelシートの使い方
・コンベアや昇降機など、具体的な機構別の選定事例

など、明日からの業務に直結する知識が詰まっています。

「とりあえず動けばいい」から卒業し、
「根拠を持って最適なモーターを選べるエンジニア」を目指しましょう。

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設計の現場で、自信を持って
「このモーターで行きましょう!」と言えるよう、
ぜひ学びの一歩を踏み出してみてください。

【解答・解説】

メルマガのミニクイズに挑戦していただき、ありがとうございます。

ここでは、クイズの正解と、なぜその答えになるのかという
「技術的な根拠」を解説します。

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Q1. モーター選定において、機械設計者が算出して提示すべき項目として最も適切なものは?
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【正解】
B. 負荷装置の慣性モーメント(イナーシャ)

【解説】
モーター選定において、機械設計者と電気設計者(制御担当)の
役割分担は非常に重要です。

・A. インバータの周波数設定値
 これは主に「制御」の領域であり、電気設計者が担当します。

・C. モーター内部のコイルの巻き数
 これはモーターメーカーが設計する領域であり、
 ユーザーである設計者が算出するものではありません。

なぜ「B」が正解なのか?

モーターが動かす対象(負荷)の

・重さ
・摩擦
・形状

を知っているのは、その機械を設計した機械設計者だけだからです。

特に「慣性モーメント(イナーシャ)」は、物体の「質量」だけでなく
「形状(回転中心からの距離)」によって大きく変化します。

電気設計者は、

「どのような機構で」
「どれくらいの大きさの物体を回すのか」

という情報がなければ、モーターを制御するための機器
(ドライバーやインバータ)を選定できません。

そのため、機械設計者が慣性モーメントを計算し、
仕様として提示する必要があります。

——————————————————————————–
Q2. 次の記述のうち、選定時の考え方として「間違っている」ものは?
——————————————————————————–

【正解】
B. カタログの「定格トルク」が必要トルクを上回っていれば、慣性モーメントは無視してよい。

【解説】
これが間違い(選定ミスのもと)です。

なぜ「慣性モーメント」を無視してはいけないのか?

「定格トルク」は、あくまで回転し続けるために出せる力の指標です。

一方で、「動き出し(起動)」や「停止」の際には、
定常回転時よりも遥かに大きなエネルギーが必要になります。

慣性モーメント(イナーシャ)とは、簡単に言えば

「回転のしにくさ」
「止まりにくさ」

を表す数値です。

もし、負荷の慣性モーメントがモーターやギヤヘッドの許容値を
超えていると、以下のトラブルが発生します。

1. 起動しない・脱調する
 トルクは足りていても「回し始める力」が足りずに動かない、
 あるいはステッピングモーターの場合はパルスについていけず
 「脱調」します。

2. 破損する
 停止時などに発生する大きな慣性エネルギーに耐えきれず、
 ギヤヘッドやモーター軸が破損する恐れがあります。

したがって、トルクだけでなく、
必ず「許容負荷慣性モーメント」も確認する必要があります。

【その他の選択肢について】

・A. 減速機(ギヤヘッド)で回転数を落とすと、トルクは大きくなる。
正しい記述です。
 ギヤヘッド(減速機)を使って回転数を落とすと、
 その減速比に応じてトルクは大きくなります。

・C. 使用環境(温度や粉塵など)は、設計初期に確認しておく必要がある。
正しい記述です。
 使用環境(温度、湿度、粉塵など)は設計者が自由に変えられない条件であるため、
 設計の初期段階で必ず確認しなければなりません。

解説を読んで「計算式に不安がある」と感じた方へ

「理屈はわかったけれど、実際の複雑な形状で
 慣性モーメントをどう計算すればいいの?」

「カタログの『許容負荷慣性モーメント』と
 『イナーシャ比』はどう使い分けるの?」

そう感じた方は、基礎から体系的に学べる

機械要素入門講座(モーター編)

で確認することをお勧めします。

本講座では、以下の実務スキルを習得できます。

・形状ごとの慣性モーメント計算手順
 (円柱、直方体、中心がずれた物体など)

・実務で使える計算ツール(Excel)の活用法

・コンベア、昇降機、ボールねじなど
 機構別の具体的な選定フロー

「なんとなく」の選定から卒業し、
根拠を持って設計できるエンジニアを目指しましょう。

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