投稿日:2022年01月24日
「機械設計において優先して覚えるべき材料を知りたい」
「材料を選定するための基礎知識を身に付けたい」
今回はこのような悩みに答えていきます。材料知識が重要だと分かっていても、材料の種類は膨大なので、何から覚えたらいいか迷ってしまいますよね。
そこで本コラムでは、設計初心者の方に向けて以下の内容を解説します。
・初心者がまず覚えるべき材料
・材料選定に必要な知識
・用途に応じた材料の選び方
このコラムを読めば、機械材料を選定するための基礎知識が身に付き、「こういう場合は○○の材料を選ぶ」という基準を作ることができるでしょう。ぜひ読んでみてください。
1. 設計初心者がまず覚えるべき機械材料とは?
まずは、機械材料の全体像を大まかにつかんでおきましょう。機械設計で使われる材料は、大きく分けて金属材料と非金属材料に分類されます。
設計初心者の方は、上図のうち赤枠で囲った材料から覚えるのがおすすめです。なぜなら設計業務において使用頻度が高く、基本となる材料だからです。
ひとまず赤枠で囲った重要材料を把握しておけば、実践ですぐに役立つので、機械設計者として早く戦力になれるでしょう。
では、それぞれの材料を選定する際に何を見ればいいのでしょうか?次項では、材料選定に必要な基礎知識を解説します。
2. 選定に必要なのは材料の「特性」と「コスト」
機械材料の選定では、強度など必要な機能を満たしながら、コストを抑えた材料を選ぶのが重要です。そのためには材料の特性と、コストを決める要素について理解しておく必要があります。
2-1. 材料の特性をつかむ
前述の図で示した重要材料の特性をまとめると、以下の表のようになります。
重要材料の特性まとめ(目安)
特性 | 鉄 | アルミ | 樹脂 | |
炭素鋼 | 合金鋼 | |||
比重 | 7.9程度 | 7.9程度 | 2.7程度(鉄の約1/3) | 1.0程度(鉄の約1/8) |
強度 | 〇 | 〇 | △ | × |
硬度 | 〇 | 〇 | △ | × |
耐食性 | × | ×※ステンレスは〇 | △ | △※材料で異なる |
価格 | 〇 | × | △ | △ |
大きな特徴 | 材料の強さ | 材料の軽さ | 自由度の高さ |
※上表の価格は同じ大きさで比較した場合を示す。
2-2. 3つの要素で検討し材料のコストを抑える
材料のコスト削減を考えるときは「価格の安さ」だけでなく、「加工のしやすさ」や「規格の豊富さ(流通性)」も含めて検討しなければいけません。ここでは、加工性と流通性について具体的に解説します。
2-2-1. 加工のしやすさ
材料のコストは、材料自体の安さだけで決まるわけではありません。たとえば、安価な材料を選んでも加工が難しい場合は、作業に手間がかかり加工時間が伸びてしまい、その結果加工コストの増大につながるでしょう。
しかし、たとえ高価な材料でも加工性に優れていれば、作業に手間がかからないのでトータルのコストを抑えることができます。
したがって、材料の加工性は選定時における重要なチェックポイントになります。
2-2-2. 規格の豊富さ(流通性)
寸法や形状といった規格の豊富さも、材料を選ぶ際の重要なチェックポイントです。さまざまな種類の板厚や、平鋼・丸棒・形鋼などの規格が数多くそろっていれば、加工コストを下げるのに役立ちます。
なぜなら、規格品の寸法に合わせて設計することで、加工が必要な箇所を減らせるためです。たとえば、板厚12mmで高さ50mmのプレートが必要な場合、そのサイズの平鋼を使えば長さ方向を切断するだけで済みます。
寸法や形状のバリエーションが豊富な材料を選ぶようにしてください。
それでは次項から、用途に応じた材料の選び方を解説していきます。
3. 基本は鉄系材料を選ぼう
出典: マサカツ鋼材
材料を選定するときは、鉄系材料を基本にするといいでしょう。理由としては、
- 強度が高い
- コストが安い
- 加工しやすい
- 規格品が多い
といった要素を満たしているからです。
3-1. 第1候補はSS400
鉄系材料のうち、まず候補に挙がるのはSS400です。最も一般的に使われる鉄系材料であり、炭素鋼に分類されます。
SS400には以下のようなメリットがあります。
- 素材として一定の強度がある(引張強さ=400N/〖mm〗^2以上であることが、JISで規定されている)
- 価格が安い
- 加工性が良好
- 溶接性が良好
- 規格品が豊富
このようにSS400は非常に使い勝手がいい材料ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 簡単に錆びるため防錆処理が必要(酸化した状態が一番安定するので、空気中でもすぐに錆びてしまう)
- 焼入れはできない(炭素量が約0.15~0.2%と少ないため)
SS400を使うとき塗装やめっきといった処理を施すのが一般的です。塗装とめっきのどちらを使うかは「防錆には塗装とめっきのどっちを選ぶ? 特徴や使い分けを解説!」の記事をご覧いただければと思います。
また、めっきの種類を選ぶ際は「【これだけは知っておきたい】めっきの種類や特徴、用途別の選定法」をご参照ください。
3-2. 強度が必要ならS45C
SS400だと強度が足りない場合は、S45Cにするといいでしょう。S45CもSS400と同様に、一般に広く使われている炭素鋼です。45という数字は、炭素量が0.45%であることを意味します。
S45Cのメリットは以下の通りです。
- SS400よりも強度が高い(引張強さが570N/〖mm〗^2)
- 炭素量が多いため焼入れ効果が高い(焼入れ・焼戻しによって、引張強さを690N/〖mm〗^2まで上げられる)
- 加工しやすい
- 規格品が多い
ただしS45Cは炭素量が多い分、溶接には向きません。またSS400と同様に錆びやすいため、使用する際は防錆処理を施してください。
S45Cに焼入れする際の注意点
S45Cなどの炭素鋼に焼入れする際は「質量効果」に注意してください。質量効果(mass effect)とは、材料のサイズが大きくなるほど、中心まで焼きが入らない性質のことです。
質量効果によって、求める強度を得られないなどの悪影響があるため、大物部品に焼入れする場合は、炭素鋼ではなく後述する合金鋼(SCM435)を選ぶのをおすすめします。
合金鋼は炭素鋼に比べて質量効果が小さいので、小物から大物までしっかり焼きが入ります。合金鋼を選ぶのは、直径φ20mm、板厚14mmを超えるくらいを目安にするといいでしょう。
3-3. さらに強度が必要なら合金鋼
S45Cなどの炭素鋼でも強度が足りない場合は、合金鋼を使うといいでしょう。強度が必要な際によく使われる合金鋼は、クロムモリブデン鋼の一種であるSCM435です。
SCM435は、炭素鋼にC(クロム)とM(モリブデン)が添加された材料で、数字の4は合金元素の記号を表し、末尾の35は炭素量を表しています。添加している元素が多い分高価であり、炭素鋼に比べて規格品の種類も少ないのがデメリットです。
しかし、焼入れ・焼戻し後の引張強さは930N/〖mm〗^2以上になり、高い強度を誇ります。また前述したように、大物部品であっても焼入れ性が良好です。
なおSCM435は、基本的に焼入れ・焼戻しを施して使ってください。そのままだと機械的特性が炭素鋼と変わらないため、高価な材料を使う意味がなくなってしまうからです。
4. 耐食性を保ちたいならステンレス
部品の錆びをしっかり防ぎたい場合は、耐食性を備えたステンレス材料を選んでください。最も代表的なステンレスはSUS304であり、基本的にはこの材料を使うといいでしょう。
防錆対策にはステンレスを使う以外にも、前述した塗装やめっきといった表面処理を行う方法があります。しかし表面に傷がつきやすい使用条件などでは、塗装やめっきの膜が剥がれて、そこから錆が進行することも考えられます。
一方、ステンレスなら表面が傷ついても耐食性を保てるので、そのような使用条件ではステンレスを選択するといいでしょう。
また、納品スピードを早める目的でステンレスを選ぶこともあります。ステンレスなら表面処理を施さなくていいため、部品が完成するまでの時間を短縮できます。特急対応が必要な場合などは検討してみてください。
なお、ステンレスの他の種類についても知りたい方は、以下のコラムをご覧ください。
「磁石につくステンレスもある? よく使うSUS材料の種類や特徴を解説」
5. 軽さが必要ならアルミ合金か樹脂材料
人が運ぶ運搬物や、自動化機械の可動部など、軽さが求められる箇所にはアルミか樹脂を使いましょう。
人が運ぶ運搬物を軽くすれば作業が楽になり、現場作業の効率化や安全性の向上につながります。また、可動部に軽い材料を使えば慣性力が小さくなるので、位置決め時間が減って自動機のサイクルタイム向上に役立ちます。
5-1. アルミ材料はA5052が基本
アルミ材料の選定ではA5052を選ぶのが基本です。加工性や流通性に優れており、最も汎用的なアルミ材料になります。
なおA5052などのアルミ材料にも、ステンレスと同じく耐食性が備わっています。しかし、ステンレスほど錆びに対して強くないため、錆びやすい環境ではアルマイト処理を施してください。
5-2. アルミと樹脂の使い分けは?
アルミ材料と樹脂材料を使い分ける際は、以下のポイントを目安にするといいでしょう。
【アルミ材料が適する条件】
- ある程度の硬度が必要な場合 (圧入治具など、位置決めブロックにぶつけて使う部品には硬度が必要)
- 100℃を超える高温条件で使用する場合 (※200℃以上ではアルミ材料も使わないこと。強度が急激に下がってしまうため) (※耐熱性に優れた樹脂材料もある)
【樹脂材料が適する条件】
- ワークに傷を付けたくない場合 (樹脂は軟らかいため、ワークに接触する部品に適する)
- 可動部に取り付けるカバーを透明にしたい場合 (樹脂は着色の自由度が高い)
特に生産設備で使う樹脂材料について知りたい方は、
以下のコラムをご覧ください。
「生産設備で使われる樹脂(プラスチック)材料とは? 種類や特徴を解説」
6. 板金部品はSPCCが一般的
出典: ミューテック35
板厚3.2mm以下の板金部品の材料には、SPCCを使うのが一般的です。SPCCは冷間圧延鋼板の一種であり、広く使われている材料です。通常、力を受けるような箇所では使われず、小型のブラケットやカバーなどに用いられます。
SPCCは鉄系材料で錆びやすいため、表面処理を施して使ってください。また、とにかく耐食性を求めたり、表面処理の手間を省きたかったりする場合は、SPCCの代わりにSUS304を使うといいでしょう。
まとめ
今回は、機械材料を選定するための基礎知識について解説しました。材料知識を身に付ける上で、何から勉強したらいいか分からない初心者の方は、ひとまず今回紹介した材料を覚えておくといいでしょう。
紹介したのは設計で頻繁に使う材料ばかりなので、すぐに実務で役立つはずです。今回紹介した内容が、ご参考になりましたら幸いです。
なお、「機械材料の知識をもっと深めたい!」という方は、MONO塾の機械材料入門講座をおすすめします。1日たった10分勉強するだけで、実践で役立つ材料選定の手法を身に付けていけます。
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