電動モーターは制御性が良くなりいろいろな所で使われるようになりました。しかし、一般的に電動モーターのトルクや回転が使用機器の要求仕様と一致することは少なく変速機とセットになったギヤードモーターが使われます。

この記事ではギヤードモーターの選び方を具体例もまじえながら解説します。

ギヤードモーターの簡易的な選定の流れ

電動モーターの出力はトルクと回転数の積で決まります。

このため電動モーターを高出力化するには電動モーターの回転数を速くします。一般的に3000rpm程度が最高回転数となっていましたが、最近では10000rpmを超えるような電動モーターもあります。

しかし、機器によっては低回転、大トルクが必要な機器もあります。そのため、ギヤボックスを使って回転数やトルクを調整します。

しかし、モーターとギヤボックスを別々に選定するのは面倒です。そこでギヤードモーターが選択されることがあります。ギヤードモーターは電動モーターとギヤボックスがセットになっていますので、使い勝手の良い製品です。

ギヤードモーターは以下の手順で選定します。

1）要求仕様の確認

ギヤードモーターを使用する機器が必要とするトルクや回転数といった要求仕様の確認をし、要求仕様に合わせたギヤードモーターを選定します。

仕様は変速の有無や使用時間、メンテナンスの可否、防水、防塵、防爆などの使用環境も確認しておきます。

2）電動モーターの選定

機器が必要とするトルクと回転数が決まったらそれに合った出力を持った電動モーターを選定します。

出力だけでなく用途によってDCモーター、ACモーター、ブラシレスモーターなどのモーター形式や環境性能にあった電動モーターを選定します。

使用機器によっては電動モーターだけでなくモーターを制御するコントローラの選定も必要です。

3）ギヤボックスの選定

電動モーターは通常高回転に設計されているので出力が決まったからと言って機器にそのまま使うことはあまりありません。

ギヤボックスを使って適正なトルクや回転数に調整します。ギヤボックスだけで回転数やトルクを調整することは困難であったり専用設計になって高価になったりします。

機器に合わせるためには最後の微調整はコントローラで行います。

4）ギヤボックスとセットで性能確認

電動モーターとギヤボックスが決まったのでギヤードモーターの仕様が決まりました。

ギヤードモーターの選定では出力を一つのポイントで選定しましたが、実際使用する場合の必要トルクと回転数を満足しているかは性能曲線を使って確認します。

もし、必要トルク時の回転数が足りていないようであれば電動モーターの出力を大きくしてギヤボックスを選定し直します。

回転数がオーバーしているようなら制御機器で修正可能なのか検討します。

この作業を繰り返して要求仕様を満足するギヤードモーターを最終決定します。もちろん環境性能といったことも考慮にいれて選定します。

ギヤードモーターの出力トルク計算の仕方

P(W):電動モーターの出力、Pg（W）：ギヤードモーターの出力、Tg（Nm）：ギヤードモーター出力トルク、Ng（rpm）：ギヤードモーター出力軸回転数、η：ギヤボックス効率とすると次式の関係があります。

計算結果の電動モーターは市販の標準品として販売されていないことが多いので仕様を満足するように計算結果より高出力の電動モーターを選定します。もしくは専用品を新設します。

ギヤボックスの選定の仕方

ギヤボックスの変速比Igは電動モーターの出力軸トルクとギヤードモーター出力軸トルクの比で求められます。

電動モーターの出力軸トルクはモーター特性から決まり、ギヤードモーターの出力軸トルクは要求仕様から決まります。

計算から決まった変速比を持つギヤボックスがあればいいのですが、一般的には標準品として存在することはあまりなく専用設計するか、計算値より高減速比のものを選択します。

高減速比のものを選択すれば、トルクに余裕のある仕様です。ただし、速度は不利になるのでその確認は必要です。

速度を満足しなかった場合は、出力が大きいモーターを選択して再度計算し直します

ギヤードモーターのトルク計算の具体例

トルク線図

出力線図

具体例として要求仕様：必要トルクＴg＝18Ｎm、必要回転数Ｎg＝50rpmを満足する電動モーターとギヤボックスを選定します。この仕様を満足する電動モーター出力Pは次式で計算します。ギヤボックスの効率は0.95です。

計算結果よりギヤードモーター出力は99.2（Ｗ）となりました。この仕様で連続運転するなら連続定格出力が99.2W以上の電動モーターを選定します。

走行モーターなどでは、最大トルクで連続運転しないので連続定格出力に近い出力の電動モーターを選定します。

例として連続定格出力が80Wの電動モーターで検討します。

連続定格80Wの出力線図よりモーターが99.2Wを超えるポイントは、P=100W,
N=2420rpm、T=0.395Nmです。このポイントのトルクから減速比を計算します。

減速比は45.6ですが、ちょうど良い設定がないならでトルクに余裕が出るように計算値より大きい減速比のギヤボックスを選定します。電動モーターの回転数Ｎは2420rpmなのでギヤードモーターの出力軸回転数Ngは55.5rpmです。

必要回転数は50rpmなので、それより速いのですが、遅くするのはコントローラでできますので、この電動モーターとギヤボックスで仕様を満足します。

この計算では要求仕様は必要トルクＴg＝18Ｎm、必要回転数Ｎg＝50rpmの1点みでしたが、走行モーター等では最大登坂能力(最大トルク点)と最高速の2点の要求仕様が一般的です。

要求仕様の２点について、モーター性能を確認して未達であれば出力が大きいモーターを選定し直し、要求仕様を満足するまでこの作業を繰り返します。

この計算例では連続使用時間を考慮しませんでしたが、選定したポイントが使用時間を満足するかどうかも確認します。

ギヤードモーター選定のまとめ

ギヤードモーターの選択は下記の手順に従って選択します。

1. 要求仕様のトルクと回転数からギヤードモーターの出力を計算する
2. 計算した出力以上の出力を出せる電動モーターを選択する
3. トルクから減速比を計算し、それ以上の減速比をもつギヤボックスを選択する
4. 選択したギヤードモーターが速度の仕様を満足しなければ電動モーターを出力が大きいものを選択し直し、仕様を満足するまでこの作業を繰り返す
5. 使用時間や防水性能など使用環境に合ったものを選択する

近年モーターの性能向上と制御機器の発達により油圧から電動に置き換わるものが増え用途が広がっています。この記事がギヤードモーターの選定の参考になれば幸いです。

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