投稿日:2022年08月08日
回転体であるモーターが多くの機構に搭載されている現在の製品設計において、振動要素である「変位」「速度」「加速度」の関係性を理解・把握することは必要不可欠となっています。
本コラムでは振動初心者やこれから振動解析を行うエンジニアに向けて、振動の基礎知識の把握、及び基礎的な力学モデルや実測データから変位、速度、加速度の関係性をまとめました。
全2回にわけて配信いたしますが、前半のコラムでは、振動の基礎について解説、後半のコラムでより詳しく振動について解説します。
これから振動への知識を深めていきたい人は、是非本コラムを参考に振動についての基礎知識を勉強してみて下さい。
振動の基礎
振動が人体に及ぼす影響
車や飛行機などの大型な原動機が搭載されている製品だけでなく、パソコンや洗濯機などのモーターが使われている製品の設計において、振動現象の把握は非常に重要です。
なぜなら振動が悪影響を与える最も重要な物が、人間自身であるからです。
振動が人体に及ぼす悪影響の例としては、船酔いや電動のこぎりによる白ろう病や難聴などの症状があります。
下表に振動及び、振動から発生する騒音現象が人体に与える影響及びその振動数を示します。
引用元: モード解析入門:長松昭男著」
最近では再生可能エネルギーがしきりに取りざたされており、洋上での風力発電が世界的に流行していますが、風力発電を行うための風車が回転することにより発生する低周波音が問題となっています。
風車を早くから導入したポーランドやスウェーデンなどでは、各音域(周波数)における基準を設けており、低周波音の発生を抑える義務が課されています。
また具体的な悪影響を与えないまでも、振動や騒音は製品性能に大きな影響を及ぼします。
例えば自動車では、エンジンや路面から発生する振動・騒音が車内に出来るだけ入ってこないといった「快適性」が製品の売り上げを決める重要な要素となります。
そのため自動車メーカーは振動騒音問題の解決に、数百人規模の技術者と莫大な費用を使っています。
振動が製品に及ぼす影響
振動が製品に及ぼす代表的な現象に疲労があります。
疲労破壊は製品が繰り返し荷重を受けることで、小さい荷重であっても起こる破壊現象です。
金属が同じ振動を長く受け続けると、結晶が不揃いで原子間の結びつきが弱い結晶粒界に沿って微かな割れが無数に発生します。
割れが発生した部分ではそれ以上応力受けられなくなり、別の部分の応力が高くなります。すると別の部分でも割れが発生するため、表面全体に割れが広がります。
しばらく表面に割れが広がった状態で荷重を受け続けると、次第に割れが進行していき、破壊に至ります。この現象が疲労破壊です。
疲労破壊の詳細はこちらのコラムを参照下さい。
疲労破壊を防ぐには、すべての部分の繰り返し応力が疲労限度以下となるように設計するか、振動による疲労破壊のサイクルを把握し、部品交換・点検の期間を設定する必要があります。
振動の種類
振動は大きく分けて、自由振動、強制振動、複雑な振動に分類できます。
自由振動
自由振動は、ある振動系が動的な外からの作用を受けると必ず発生する振動で、一度発生すると何もしなくても勝手に振動し続ける振動現象です。
荷重が加わった時だけでなく、力の方向や周波数、大きさが変化した時にも発生します。
自由振動はほとんどの場合速やかに消えてしまうため、実際の機械で強制的に引き起こされる振動ほどは問題となりません。
しかし自由振動は外から力が作用しない、物体自体の動特性に支配されている振動現象です。
従って実験モード解析などによって自由振動を観察することによって、物体の動特性を簡単に正確に把握することが出来ます。
ここで動特性は、質量、剛性、減衰(粘性)の3種類を指しています。
強制振動
強制振動は、外からの加振力(振動を加える力)に対する振動現象です。
外からの加振力に対する応答であるため、加振力が作用すると共に直ちに発生します。
加振力が作用すると、強制振動だけでなく自由振動も同時に発生します。大抵の場合には、加振力と自由振動の周波数は異なるため、2つの振動が混ざり合った複雑な振動である、「過渡振動」となります。
その後自由振動が消えると、一定の強制振動だけが発生する「定常振動」となります。教科書などに載っている式は、この定常振動の状態を示しています。
また、外からの加振力は、力加振と変位加振、またはその中間の3種類に分けられます。
力加振(ちからかしん)は加振される対象物(製品)が、加振する物(加振機)の質量よりもはるかに大きい場合の加振方法で、加振される対象物(製品)には力として作用します。
そのため力加振の場合、対象物(製品)によって揺れる幅(変位)が変化します。通常の振動試験はこの方法で行われます。
変位加振はその逆の加振される対象(製品)が、加振する物(加振機)の質量よりもはるかに小さい場合の加振方法で、加振される対象物(製品)には加振する物(加振機)が変位することによる慣性力が作用します。
変位加振の場合、加振される対象物(製品)が変わっても変位の大きさは変わらないのが特徴です。
これは例えば地震などによって建物が揺らされる場合にあたります。地震は建物があっても無くても同じ振幅で振動します。
複雑な振動
複雑な振動には、「自励振動(じれいしんどう)」と「非線形振動」があります。
自励振動(じれいしんどう)は非振動的なエネルギーが加わる系においても、その系自体の特性によって非振動的なエネルギーを振動エネルギーに変換して発生する振動現象です。
少しイメージしにくいと思いますので具体例を用いて説明します。
自励振動(じれいしんどう)の代表例として、ブレ-キの鳴きや、切削工具のビビり現象、チョークのスリップスティック現象などがあります。
例えば、ブレーキの鳴きは、摩擦力(非振動的なエネルギー)が音(振動エネルギー)に変換されて引き起こされるものです。通常、摩擦力は熱や減速させる力に変換されるのですが、温度や湿度などの条件によっては音に変換されることもあります。
非線形振動は物体の復元力(バネ剛性)や粘性(空気抵抗や摩擦)が、距離や速度に比例しない振動現象のことです。
実現象ではほぼ全ての振動現象は非線形性を持ちますが、振幅が十分に小さい場合の非線形振動は線形振動に近似出来ます。
非線形振動は非常に複雑であうため、解析などで製品の動特性を予測する場合には線形振動を用いることが一般的です。
以上、前半のコラムでは振動の基礎について解説してきました。少し難しい内容も含まれていましたが、これら基本的な振動現象を理解しておくことは、振動問題を解決していくスキルを身につけていくための第一歩となります。
また、後半のコラムでは、振動現象の基礎である「変位、速度、加速度」の関係性について解説します。引き続き次のコラムも参考にして、振動の基礎を学んでみてください。
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