投稿日:2025年06月03日
機械のメンテナンス中、「ベアリングが外れない」「工具がない」といった状況に直面したことはないでしょうか。
誤った方法での取り外しは、シャフトやハウジングへのダメージなどの二次被害を引き起こし、想定外の修理コストが発生することもあります。
本記事では、専用工具がなくても対応可能な4つのアプローチと、専用工具を用いた正しい取り外し手順を解説します。
安全面や部品保護の観点からの注意点も紹介していますので、状況に応じた最適な方法を選択し、確実かつ安全にベアリングを取り外せる技術を習得してください。
このコラムを書いた人
ノイズ対策設計の専門家
大手電機メーカーでノイズ対策に関する研究開発及び製品設計に10年以上従事。産業用機器等の様々な製品開発に加え、特許出願、学会発表の経験も豊富。最近は生成AIを活用した業務効率化も進めている。従来の経験に囚われず、常に新たな技術をキャッチアップして試行することを心がけており、これらの経験から得た知識をコラムにて発信中。
ベアリングの外し方(専用工具あり)
ベアリングの取り外しを確実かつ安全に行うためには、専用工具を使う方法が最も効率的です。特に嵌合がきつい構造や、高価な機械部品に損傷を与えたくない場合は、工具の選定と使用方法が作業品質に直結します。
ベアリングの取り外しに使える専用工具とは
ベアリングの取り外しには、主に「プーラー」と呼ばれる工具が使用されます。プーラーは、ベアリングの外輪や内輪にかかる力を均等に分散させることで、無理なく引き抜くことができます。
代表的なプーラーには、「外掛けプーラー(外輪に爪を掛けるタイプ)」と「内掛けプーラー(内径にチャックを挿入するタイプ)」があります。
外輪用プーラーはベアリングの外側から爪をかけて引き抜くタイプで、ベアリングの外輪が露出している場合に適しています。
内輪用プーラーは、内輪に専用のアタッチメントを差し込んで引き抜くタイプで、シャフトの奥まった部分に装着されているベアリングに効果的です。
そのほか、スライディングハンマーや油圧式のプーラーもあります。スライディングハンマーは衝撃を利用するタイプで、小型機器や摩耗したベアリングに向いています。油圧式プーラーは強い力が必要な大径ベアリングに対応できます。
専用工具を使った正しい外し方とコツ
専用工具を使ったベアリングの取り外しは、取り付け位置の確認、工具の正確な固定、そして安定した力の加圧の3ステップで構成されます。
まず、ベアリングの取り付け状態を目視と触診で確認します。外輪が見えているのか、内輪にのみアクセスできるのか、また、周囲に干渉する構造物がないかを確認することが重要です。
次に、プーラーの装着です。外掛けプーラーの場合は、ベアリングの外輪の縁に爪を均等に掛け、センターのネジがシャフトの中心に垂直に当たるように調整します。
内掛けプーラーの場合は、アタッチメントを内輪に差し込み、拡張・固定してから引き抜く構造となります。
最も重要なのは、加える力の方向とバランスです。力が均等に伝わらないと、ベアリングが斜めに抜けてしまい、部品に歪みが生じる可能性があります。センターがずれていないかを都度確認しながら、少しずつ締め込んでいくことが安全かつ確実な作業につながります。
ベアリングの外し方(専用工具なし)
専用工具が手元にない場合でも、ベアリングを取り外す方法はいくつか存在します。それぞれの手法にはメリットとリスクがあるため、状況に応じた適切な選択と慎重な作業が求められます。
オイルを挿して力づくで抜く方法
潤滑用のオイルを使った方法は、比較的安全かつシンプルです。まず、ベアリングの周囲に潤滑オイルを十分に挿します。使用するオイルは、潤滑性能が高く揮発しにくい浸透性に優れた潤滑油が適しています。
オイルがベアリングとシャフトの隙間に浸透するまで少し時間を置くことがポイントです。
オイルがなじんだら、ベアリングの外周またはシャフトを慎重に押し出すように力をかけます。木片やゴムハンマーなど、ベアリング自体を傷つけにくい道具を使って、徐々に押し出すことが推奨されます。
この方法は、ベアリングが比較的緩くはまっている場合や腐食が少ない環境で有効です。ただし、固着がひどい場合には不十分なことがあります。無理に力を加えすぎると、部品にダメージを与える恐れがあるため、慎重に作業を進めましょう。
シャフトを叩いて外す方法
オイルによる潤滑が効かない場合は、シャフトを直接叩く方法を試してみましょう。注意すべき点は、叩く位置が「シャフトの端部」であり、ベアリング本体ではないことです。ベアリングを直接叩くと、玉や保持器にダメージが及びます。
使用する工具も重要です。金属製のハンマーをそのまま使うと変形や傷の原因となるため、打撃面にあて木を挟む工夫が必要です。作業時は、シャフトの軸方向に対して垂直かつ真っ直ぐに力を加えることを心がけましょう。
軽い打撃を何度か繰り返し、少しずつベアリングが動き始めるのを確認しながら作業を進めると安全です。
ボルトを使った簡易的な外し方
専用の工具がなくても、既存のボルトやナットを活用した簡易的な取り外しが可能です。ベアリングハウジングやフランジにねじ穴がある場合に有効です。
手順としては、ベアリングの取り付け部にある対向するねじ穴に適合するボルトを均等にねじ込みます。このとき、ボルトは数回転ずつ交互に締めていくことが重要です。
片側だけを強く締めると、ベアリングが斜めに傾き、取り外しが困難になるだけでなく、部品の歪みを引き起こす可能性があります。
ボルトの締め込みが進むと、ベアリングが徐々に押し出されます。この方法は力加減を調整しやすく比較的安全ですが、ねじ山やボルトの材質が弱い場合には過大なトルクをかけないよう注意が必要です。
過熱して外す方法
ベアリングが固着して動かない場合、熱膨張を利用して外す方法があります。
軸を取り外す場合は、ベアリングを温めて膨張させます。ベアリングを破棄可能な場合は、ガスバーナーなどで直接加熱します。再利用する場合には、水蒸気を吹き付けることで加熱し、取り外します。
加熱時間は状況により異なりますが、過熱しすぎるとベアリングの焼き付きや材料変質を引き起こすリスクがあります。温度管理が難しい場合は、非接触型の温度計を併用すると便利です。
加熱後はすぐに取り外し作業を行う必要があります。必ず耐熱性の高い作業用手袋を使用し、周囲の可燃物に注意してください。
ベアリングを取り外す際の注意点
ベアリングの取り外し作業では、安全性と部品の保護にも十分な配慮が必要です。作業ミスや確認不足によって、周囲の構造部品を破損させたり、自身が怪我を負ったりするリスクも考えられます。
シャフトやハウジングを傷つけないためのポイント
ベアリングの外れにくさに焦って力任せに作業を進めると、シャフトやハウジングを容易に損傷してしまいます。とくに金属同士が密着している構造では、打撃やこじりにより接触面に傷や変形が生じやすくなります。
このような損傷は一見して軽微に見えても、再組み付け時に芯ブレや偏摩耗を引き起こす原因になります。力のかけ方と方向、使用する道具の選定には細心の注意が必要です。叩く場合は必ず当て木や柔らかい素材を介し、直接金属面を打撃しないようにしましょう。
火気・高温使用時の安全対策
加熱による取り外しを行う場合、火気を扱うという点でリスクが高くなります。ガスバーナーを使用する際は、作業場所の換気を十分に確保し、周囲に可燃物や引火性の液体がないことを事前に確認しておくことが必要です。
耐熱手袋やフェイスシールドなどの個人保護具を必ず着用し、万が一の際に備えて消火器を手の届く位置に配置しておくことも推奨されます。
バーナーを使用する際には、炎の向きや当てる距離を一定に保つことが重要です。不均一な加熱は部品の熱膨張にムラを生じさせ、外しにくさや材料の歪みにつながります。
ベアリングの外し方まとめ
ベアリングの取り外しは、方法の選択と工程の精度が結果を大きく左右します。専用工具がない場合でも、オイルの活用、打撃による緩め方、ボルトを用いた押し出し、熱膨張を利用する方法など、状況に応じたアプローチが存在します。
専用工具を使用すれば、より確実で再現性の高い作業が可能となります。プーラーやスライディングハンマー、油圧工具などを適切に選び、正しい手順で使用することにより、短時間で効率的にベアリングを外すことができます。
どの方法を用いる場合でも共通して重要なのは、安全と精度への意識です。シャフトやハウジングを損傷させない工夫、火気使用時のリスク管理、作業手順の確認は、プロの現場でも必ず実践されている基本です。
焦らず丁寧に進めることで、トラブルの発生を未然に防ぎ、作業効率と品質を両立させることが可能になります。
今回紹介した各種手法と注意点を押さえることで、ベアリングの取り外しに対する不安や迷いは大きく減るはずです。今後のメンテナンス作業において、自信を持って取り組めるスキルの一つとして、ぜひ実践に活かしてください。
あなたにおすすめのeラーニング
- 【全32種類の機械要素を動画で学ぶ!全10章(350分)】
機械要素を学ぶことで自然と「部品選定および設計能力」が身につく