投稿日:2024年10月22日
部屋で作業している時に外からの音が気になる、車を運転している時に「ゴー」といった車外の音が気になったなどの経験はないでしょうか?
建物や車などの製品にとっては、静かな環境を保つための防音性能は製品の価値を上げるための非常に重要な要素の1つとなっています。
本コラムでは、騒音の対策方法である「吸音」と「遮音」について基礎的な考え方をまとめました。
騒音に対する設計方法の基礎を学びたいと思っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
騒音の種類
騒音は「誰かにとって望ましくない音」と定義されおり、音が大きくなるほど騒音を感じる人の不快感が大きくなります。
従って騒音の対策は音を小さくすることになりますが、騒音は音の伝わり方によって対策方法が変わってきます。
本章ではまず音の伝わり方の種類とその違いについて解説します。
空気伝搬音
空気伝搬音とは?
「空気伝搬音」は、「空気音」とも呼ばれ、その名前の通り「空気を介して伝わる音」のことを言います。
空気伝搬音は音源から発生した音が空気の振動として伝わる音で、窓や壁などを透過して伝わる音です。
例えば家の中で聞こえる音を考えてみると、隣の部屋から聞こえてくる話し声や、近くの公園から聞こえてくる子供の遊ぶ声、電車や車などが外を走る音などが空気伝搬音に当たります。
空金伝搬音の模擬図を以下に示します。
空気伝搬音は、音源からの距離が遠くなるほど音が小さくなる「距離減衰」や、防音壁などの上部から音が回りこみながら小さくなる「回析減衰」などの性質を持ちます。
空気伝搬音の対策
空気伝搬音は空気を介して伝わる音なので、音源から距離を取ったり、音源との間に壁や塀などの障害物を作ったりすることで音は小さくなります。
また、空気の隙間を遮断するように、構造物の気密性を上げることも対策となります。
空気伝搬音の大きさは以下の公式で計算できます。
騒音源から観測点までの距離が騒音源の寸法に比べて十分に大きい場合、この騒音源を「点音源」と呼ばれます。点音源という名前の通り、騒音源は1つを想定します。
騒音源から観測点までの距離をd、騒音源の出力をWとすると、観測点の音の強さIは、
となり、騒音源から観測点までの距離の二乗に反比例します。
また、道路のように自動車など多数の騒音源が直線状に並んでいる場合は、騒音源は半径dの円筒状に伝搬すると考えられ、観測点の音の強さIは、
となり、騒音源から観測点までの距離に反比例します。
なお、本コラムで紹介する「吸音」や「遮音」といった対策は、この空気伝搬音の対策方法です。
固体伝搬音
固体伝搬音とは?
「固体伝搬音」は、「固体音」とも呼ばれ、「音源から発生した振動が固体を介して観測点の近くまで伝わり、壁面などから放射される音」のことを言います。
空気伝搬音も厳密には外部の空気の振動によって壁面が振動することで、音が室内に伝わりますが、これは固体伝搬音には含まれません。
例えば家の中で聞こえる音で考えてみると、上の階の足音や洗濯機のモーター音、鉄道の振動によって発生するガタゴト音などが固体伝搬音に当たります。
固体伝搬音の模擬図を以下に示します。
なお、固体伝搬音は一般的には空気伝搬音と一緒に構造物の中に入ってくる場合が多いですが、空気伝搬音とは対策方法が異なるため注意が必要です。
固体伝搬音は固体の振動によって伝わるため、空気伝搬音に比べて遠くまで伝わる特徴を持っています。
また、固体伝搬音が振動によって音として放射する量は放射する面の素材や形状、固定方法などによって変化するため、同じ振動源から同じ距離を伝わった場合でも放射面の差によって音の大小が異なります。
さらに、構造体の中を様々な経路で伝わるため、振動源と全く異なる方向から音が聞こえる場合もあり、振動源が分かりにくいといった特徴があります。
固体伝搬音の対策
固体伝搬音は、「振動源が特定しづらい」、「伝搬経路が特定しづらい」、「対策の優先順位がつけづらい」などの問題があるため、空気伝搬音の対策よりも経験やノウハウが必要です。
例えば、空気伝搬音で効果的な対策であった「騒音源との距離を離す」ことや、「遮音壁を設ける」といった方法では、固体伝搬音には効果がないことがあります。
これは、固体伝搬音の対策は音ではなく、振動そのものを低減させる必要があるからです。
固体伝搬音の対策方法には「①振動源の振動自体を小さくする」、「②振動の伝搬経路を重くし、振動が伝わりづらい構造にする」、「③防振材を使用し、振動を絶縁する」の3パターンがあり、製品や構造からこれらの対策を組み合わせることで最適な方法を設計する必要があります。
①と③は、それぞれ「制振」と「防振」です。これらの詳細については過去のコラムを参考にしてみてください。(「防振と制振の違いとは?効果的な振動の低減方法」 https://d-monoweb.com/blog/effective-vibration-reduction-method/)
吸音による振動対策
吸音とは?
吸音とは材料によって音の振動エネルギーを吸収し、熱エネルギーに変換することで騒音を低減させる方法です。
吸音に用いる材料を吸音材と呼び、発生する音を吸収し弱める効果があります。
吸音材の効果を模式図であらわすと下図のようになります。
吸音材に入射されたエネルギーの多くは材料に吸収され、一部が反射・透過する様子を表しています。
なお、振動エネルギーから変換された熱エネルギーによって吸音材の温度が急上昇するようなことは、日常的に発生する騒音ではありません。
吸音性能の評価方法
吸音材の吸音性能は、吸音率:αで示されます。
吸音率は、材料に吸収された(反射されない)エネルギーと、材料に入射したエネルギーの比で表され、0~1の値となります。
例えばコンクリートのような固い壁に音が入射した場合を考えます。コンクリートはほぼ入射と同じエネルギーが反射される(Ii = Ir)ため、吸音率:α = 0となり、吸音性能は最も悪くなります。
逆にαの値が1に近い材料ほど吸音効果が大きいことを示しています。
吸音材の種類
吸音材はその吸音機構の違いで大きく3種類に分けられます。
多孔質型
多孔質型は、小さな穴が無数に開いている材料のことです。
最も多く利用されている材料であり、代表的な材料には「グラスウール」、「ウレタンスポンジ」、「フェルト」などがあります。
多孔質型の吸音性能の計算方法は、毛細管理論から始まり様々なモデルが考案されています。
計算モデルの詳細は本コラムには記載しませんが、多孔質材料の吸音率には、材料中の空気の流れにくさを示す「流れ抵抗」や、材料の体積に占める空気の体積の割合を示す「多孔度」、材料中の空隙部分の音波の回り込み度合いを示す「迷路度」、音による空気の運動を規定する量である「空気の体積弾性率」などや、「粘性特性長」、「熱的特性長」、「弾性率」、「ポアソン比」といった様々なパラメータが影響しています。
多孔質型は中音・高音域の対策に効果的です。
板振動型
板振動型は、薄い板状の材料のことです。
板振動型の吸音材は、音が直接素材に当たることで摩擦が生じ、音エネルギーの一部が消費されることで吸音効果が発生します。
板振動型材料には、ベニヤ板やカンバス生地などがありますが、簡易的な防音対策として用いられることが多く、吸音効果はそれほど高くありません。
板振動型は低音域に対して効果的な対策ですが、あくまで緊急避難的な防音対策として用いられるため、本格的な対策には別の方法が用いられます。
共鳴器型
共鳴器型はその名前の通り、共鳴現象を利用した材料のことです。
空洞に孔が開いた形状の共鳴器に音が当たると、共鳴周波数の付近で孔の部分の空気が激しく振動し、発生した周囲との摩擦によって音エネルギーを減少させる方法です。
共鳴器型材料には、アルミや鉄、ステンレスなどの金属に孔をあけた有孔ボードやパンチングメタルがあります。
共鳴器型は材料の共鳴周波数付近で吸音特性が最も高くなるため、特定の周波数に対する吸音に効果的です。
遮音による振動対策
遮音とは?
遮音はその名前の通り、「音を遮ること」を示します。
具体的には、空気を伝搬してくる音を遮断にて跳ね返すことで、音が透過しないようにする方法です。
遮音材の効果を模式図であらわすと下図のようになります。
遮音材に入射されたエネルギーの多くは材料に反射され、一部が吸収・透過する様子を表しています。
遮音は吸音と違い、音を跳ね返すだけのため音自体は小さくなりません。
したがって車のエンジンルームなどのように密閉されている空間では、跳ね返る(反響する)ことで入射音がエンジンから発生する音よりも大きくなってしまう場合があります。
このような密閉された空間の音を小さくする場合には、遮音だけでなく入射側を吸音することで入射音のエネルギーを下げる必要があるため、注意が必要です。
遮音性能の評価方法
遮音材の遮音性能は、音の透過率:τ、または透過率をdB表記した透過損失:TLで表されます。
透過率は、材料を透過する音のエネルギーと、材料に入射した音のエネルギーの比で、以下のように表されます。
また、透過損失は、
で表されます。
透過損失を図示した例を下図に示します。(値は参考値です)
図において350Hz付近で透過損失が下がっている傾向が見られます。これは入射する音波の周波数と遮音材の振動数が一致することで音が透過する量が増加し、遮音性能が低くなる現象で、「コインシデンス効果」と呼ばれます。
コインシデンス効果が発生する周波数をコインシデンス周波数と呼びます
コインシデンス周波数は遮音材の形状や材料で決まる値なため、遮音設計ではコインシデンス周波数と騒音源の周波数を重ならないようにすることが重要になります。
また、遮音材の単位面積当たりの質量である面密度[kg/m2]が大きい材料ほど、遮音性能が高くなる傾向があり、これを「質量則」といいます。
つまり遮音性能を上げるには、より重い材料を使うと効果が高くなります。
遮音材の種類
主に使用される遮音材には、コンクリートやガラス、金属板、石膏などがあります。
ただし、これらの材料は遮音性能が高いものの、どれも重量が重い傾向があります。
したがって、製品の軽量化要求が高い車などに使用する場合は遮音材だけでなく吸音材を適切に配置することで騒音を低減する方法がとられます。
まとめ
空気伝搬音の騒音対策である、吸音と遮音についてまとめました。
建物や車の防音は、遮音と吸音を組み合わせることが基本となります。
設計者は遮音材と吸音材の適切な組み合わせを設計出来るようになることが求められています。