投稿日:2022年06月27日
「客先から配管フロー図の提出を求めれられたけど、何を書けばよいか分からない」
「そもそも配管フロー図なんて必要なのかな?」
複数の機器を組み合わせて1つのユニットにしている装置には、その機器の内部がどのようにつながっているのかを説明するための配管フロー図が非常に役に立ちます。
この配管フロー図は、本来ユニット製作の初期設計からしっかりと作り込んでおく必要があるのですが、機械設計者にとってはそれほど重要なものとして扱われないケースがあるため注意が必要です。
大抵の場合、配管フロー図を製作するスタッフは、全体のプロセスを理解している人が作成するものなので、機械屋が配管フロー図を書かないことはよくあります。
だからと言って、「私は機械製図しか信じない!」「プロセス設計者が作成すればよいのでは」「配管フロー図は機械設計者の範疇ではない」という機械設計者は意識を改めなければいけませんよ。
なぜなら、配管フロー図を作り込まずに、ユニット機器設計をしてしまうと「製作費の過剰&過少見積」「プロセスの欠陥」「構造上の問題点」がチェック出来ずに、製品化が進んでしまう恐れがあり、その完成度は機械設計者の目線が必要不可欠だからです。
配管フロー図は、力学的に無理がないか等の考慮した設計であるかという視点や、決められた空間内で設計することができるか等の機械設計者の確認が必要なのです。
「そうは言っても、機械製図は知っているが、配管フロー図はどう書けばよいか分からない」
という配管フロー図を書いたことがないという人向けに、配管フロー図を作成するためにどういった事を決定し、何を記載しておく必要があるのかをこの記事で解説します。
フロー図の目的(配管フロー図って何?)
まず前提としてフロー図とは何かについて触れておきます。
フロー図で何が表現されているのかを正しく認識していないと、その図面の目的がぶれてしまいます。数あるフロー図のいずれもプロセス設計者が、各専門設計者に設計情報を渡す為に存在しているのです。
リスト:フロー図の例(プラント設計の考え方を参考)
呼び方 | キーワード | 目的 |
マテリアルバランスシート (略称:マテバラ) 物質収支ダイヤグラム |
物性成分 質量保存則 物質変化(固体・液・ガス) |
化学反応や分離等による物質収支を表現するフローシート |
プロセスフロー図 プロセスフローダイヤグラム (略称:PFD) |
化学工学的流体分離・合成法 製品の製法 具体的な機械装置の選択 各製造工程 |
製品を生成(製造)するまでの製造法や機械等の選択を行い、その工程を表す為のフローシート。 視覚的に分かりやすく、装置の形をダイヤグラム上に表現しそれを線でつないだ図面 |
ヒートバランスシート (略称:HB) 熱勘定図 |
熱量の収支 熱交換設計 冷却機検討 |
熱量(発熱・吸熱)の収支を表現し、必要に応じて熱交換器や冷却機の性能の決定を行う為のシート |
配管フロー図 配管計装図 (略称:P&ID) Piping&Instrument Diagramの略 |
配管サイズ、配管仕様の決定 計装機器の選択 各接続方法について明記 |
すべての配管のサイズや接続方法を表現し、計装機器の取付についてもすべて記載されている図面。装置全体のフロー図の最終形 |
配管フロー図は、上表の目的のフロー図の中の1つです。配管フロー図の目的は、プロセスのつながりを考慮した配管の接続と、そこに取り付けられる計器や機器の取付法を表現することになります。
一概に配管フロー図と呼んでいる人もいるかもしれませんので、何の目的で作成するかによってその呼び名は変えた方がいいかもしれません。
「あの人は、配管フロー図って呼んでいるけど、プロセスのことを書いているからプロセスフローダイヤグラムのことだね。」
呼び方は自由ですが、図面を見せる相手に対してあいまいな表現になるので、なるべく統一しておいた方がいいですね。
配管フロー図(P&ID)には何を載せておくべきか
配管フロー図は、具体的な製作や設置施工をイメージできるように情報を記載しておく必要があります。その為、機器の間を配管でつないだような図になります。
以下の情報を必ず載せておく必要があります。
- 配管の材質やサイズ
- 機器の取合サイズや規格(その装置の接続方法等をなるべく詳細に記載しておくことが必要です)
- 計器の取付位置と接続方法
- バルブの種類
- 計装品の機番や機器の機番
- ユニットになっている範囲(ユニット内は詳細は記載せずに省略する場合もある)
配管の分岐がある場合は、その分岐する位置関係(分岐の順番等)が現物のユニットと違わない様にしておく必要があります。
下に配管フロー図のサンプルを記載しておきます。
計装機器や各配管部品のシンボル(レジェンド)は、あらかじめシンボル表を作成しておき、その表で定めたルールにしたがって作成すればよいです。
もし、そのシンボル表が自社にない場合は、「JIS Z 8209 化学プラント用配管図記号」を参考にするとよいでしょう。バルブや計器だけでなく、様々な装置のシンボルがある程度規定されています。
※JIS規格にないシンボルを使用してはいけないというわけではなく、自社のルールがあればそれを使用しても問題ありません。
又、配管フロー図を確認する人は、そのユニット機器の設計者だけではないことを念頭に入れて作成しなければいけません。
その装置を現場で組み立て工事を行う人や、その装置をメンテナンスする人、その装置を使用する人等も配管フロー図を確認することになるのです。
その人たちにも、きちんと伝わるように配管フロー図を作図する必要があるのです。
伝わるフロー図を心がけるには?
複雑な装置になればなるほど配管フロー図は複雑になってしまいます。
その為、すべての配管を一枚の図面に描くのではなく、プロセスの種類ごとに分けて記載すると伝わりやすいフロー図になります。
又、配管が交差して表記する場合は、その2本の配管が接続されているのか接続されていないかを分かりやすく記載しておくことが必要です。
そして、機器のどの位置に配管が接続されるのかも、極力イメージが掴み取りやすい様に、現物に近い位置にノズルが接続されているように図を書くようにしておきましょう。
配管の自社スペックを決めておく
配管フロー図に配管仕様を事細かに記載するのは、ごちゃごちゃしてしまうため、多くの企業では配管のスペック(ラインスペックと呼ばれる)をあらかじめ何種類か決めています。
そうすることで、配管のスペック記号を配管仕様の変わりにフロー図上に記載することで簡略化を行っています。まだ自社の配管スペックがない場合は、使用可能な圧力と温度を考慮して以下の例で作成してみてください。
配管スペックで決めておくこと(例)
- 配管材質・・・配管、エルボ管、ティー管、レデューサ管、フランジの材質の規定
- 接続の方法・・・ねじ込みの規格やフランジ規格を決めておく
- 使用するガスケットパッキンの種類・・・ガスケットの仕様を決めておく
- ボルトナットの規定・・・フランジ接続時に使用するボルトナットの仕様を決めておく
- 手動弁の仕様・・・ボール弁や締切弁、玉形弁等の型式を決めておく
- 特殊な加工の有無・・・酸洗いや磨きの必要有無等が必要な場合の仕様を決めておく
- 腐食性の有無・・・腐食性がある場合の留意事項等
まとめ
配管フロー図は、ユニット機器の機械設計者にとっては、プロセス設計者からの機器仕様の連絡図となります。その為、配管フロー図の完成度がそのユニットの品質を左右することにもなります。
その為、配管フロー図がきちんと設計されているかを確認し、不足情報や設計上の修正が発生しないかを機械設計者は機械屋の知識で確認する必要があるのです。
そして、何か修正が必要となれば、きちんとプロセス設計者に対して、フィードバックしてフロー図の修正を行うようにしましょう。