投稿日:2022年05月17日
毎年春になると新入社員の教育を、新人教育用のマニュアルで説明する企業が多くあるかと思います。
機械設計業務に新しく新任する社員が配属された際に、まず目を通す書類が、この設計業務マニュアルです。
組織によっては「設計標準」と名前がついているかもしれません。
この設計業務マニュアルは、きちんと定期的(又は随時)に更新していますか?
設計業務マニュアルを更新するのは非常に手間がかかりますし、組織全体に周知と教育を随時行う必要があるのでマニュアルの管理者は大変ですね。
しかし、設計業務にかかわらず、業務マニュアルは企業の品質を維持するために必須のドキュメントです。
その重要なマニュアルを管理することは、その会社の技術力を維持しているということと同じ事なのです。
設計業務のマニュアル化の難しさを認識しておく
設計業務マニュアルを新たに作成する場合、その内容は具体的な業務のフロー、設計技術やアカデミックな知識等の幅広いマニュアルになるかと思います。
そんな中でも、以下の設計業務のマニュアルを作成しようとした際は、壁にぶつかることを認識しておいてください。
➀最新の技術をマニュアルに取り込んだ場合、その技術進化が早く頻繁に更新が必要になる
最新の技術を利用した設計をマニュアルに取り込んだ場合、その技術革新が早く、すぐに陳腐化し、他の技術におきかわってしまう可能性があります。その場合は、マニュアル化しずらいと感じるかもしれません。
なぜなら、そのマニュアルは、更新の頻度の高いマニュアルになってしまうからです。(更新の頻度が高いマニュアルが悪いというわけではなく、その技術管理が面倒なマニュアルとなってしまいます)
➁属人的な業務をマニュアル化しずらい(他の部署との連携では特に起こりやすい)
他の部署と業務を連携を行う際に、その特定の人の業務のやり方によって仕事の進め方が左右される場合、マニュアル化は難しいと感じます。
なぜなら人事異動や配属変更によって都度そのマニュアルが変更となると、非常に面倒です。
③熟練設計者の技術をドキュメント化しずらい
設計の熟練者の設計は、その人がこれまでこなしてきた実績と経験から得た、最適な判断力をもとに設計を行っています。
その熟練者の嗅覚にも似た判断力も技術力なのですが、主観による判断も伴う為、なかなか文章化し難いのです。
これら3点は、設計業務を行う際に絶対に無視することが出来ない為、必ずマニュアルとして必要となるにもかかわらず、マニュアル化しずらいというジレンマがあるのです。
その為、マニュアル化をあきらめて「先輩から個別で習う」という口伝で引継ぎが行われていることが多いのです。
結局の所、設計業務マニュアルは誰のためのもの?
よく勘違いをする人がいます。設計業務マニュアルは、新配属された人や不慣れな人が仕事を覚えるだけの為のモノであり、ベテラン社員だけで構成された設計チームである場合は、そんなマニュアルは不要であると思っている人がいるかもしれません。
先ほども述べましたが、その組織(企業)の技術力=設計業務マニュアルなのです。
もしマニュアルのない組織があったとしたら、その組織の各個人の実力がどれだけ高くても、公では技術力=零なのです。ひどい言い方になりますが、その設計組織の企業的な価値は無いとみなされます。
その為、設計業務マニュアルは新人のためだけのモノではなく、その組織の技術力を証明する為の文章であることを認識しなければいけません。
そのマニュアルを維持し、更新することが、そのベテラン設計者の技術力を証明することになります。それほど設計業務マニュアルは、重要なモノであるのです。
ここからマニュアルによる組織運営に関して考えていきます。私も設計の業務マニュアルを作成する際は、非常に悩みながら作成しています。
設計者は個人主観で業務を進めた方がいいのか
設計技術者は、仕事経験を積めば積むほど、その人の主観が色濃くなり、設計手法に特徴が現れてきます。
いわゆる「1人の設計者として色(個性)がでてきた」という状態です。これは設計組織が10人であれば10人とも違う設計業務を行ってきた結果です。
この結果によって、すべての設計者は機器設計に対してそれぞれ違う思想を持つようになります。
このようにして、設計者はだんだんと個人主観が強くなっていくものです。
その為、組織管理者の視点からは、設計業務マニュアルは、その個人の主観を阻害することなく補正し、組織全体の設計思想がずれていかない様にする為の管理ツールと捉えることが出来ます。
では、設計者は個人主観で業務をおこなった方がいいのでしょうか?
その答えは、その組織が目指すビジョンによって変わります。
設計の品質は個人の実力と組織力の2つで決まる
現在あなたの組織が少人数のベテランのみで構成される組織であった場合、その組織の強みは「臨機応変な対応が可能」な組織であると思います。
又、人数が多く上司部下の関係が強い組織であれば「品質の維持」がその組織の命題になっているかもしれません。設計マニュアルの内容は、その組織力を重視するか、個人を重視するかによって変わってきます。
どちらかが正解でも不正解でもなく、その組織が目指す組織像(ビジョン)によって個人の実力を強化したいのか、または組織力を強化したいのかでマニュアルの内容は異なるのです。
そのマニュアルのあり方に関して、以下のマトリックス図を示してみました。
- 規則重視型:マニュアルを充実させ、全体の統制を維持する組織
- 設計品質の統一重視型:設計を外注するなど、設計品質の維持を目的とした組織
- 組織命令重視型:マニュアルは最低限にし、細かい仕様は上層組織で意思決定し設計を進める組織
- ベテラン実力主義型:マニュアルの自由度が高く、個人の設計の実力を信頼する組織
マトリックス図:組織と個人のどちらに依存させたいかによってマニュアルのあり方が異なる
もしあなたの所属している組織が、マニュアルが充実しており、多くの実績や知識の管理が出来ている成熟した組織となっている場合は、自然と規則重視型になっているかもしれません。
それは組織の統制力が高く、品質の維持が出来ているといえます。その反面、これまでにない仕様変更に臨機応変に対応しずらいといったデメリットもあることを知っておいてください。
マニュアルが個人の実力を阻害しない様にすること
マニュアルはある程度、設計業務に強制力を与えるため、各個人の実力向上を阻害することが内容に含まれていないかを注意しなければいけません。
特に本コラムの始めに述べた「マニュアルしずらい3点」をマニュアル化する際は、注意が必要です。
しかし、この3点をマニュアル化することが出来れば、組織としての技術向上はかなり高まるはずと考えています。
これらのマニュアルは更新頻度が高いので管理は大変ですが、皆が知りたい情報をマニュアル化できるため、利用頻度が高いマニュアルになるはずです。(更新頻度が高いマニュアルを“活きたマニュアル”と呼んだりします)
「マニュアル化が難しいがマニュアル化すべき内容(頻繁な更新が必要)」
- 最新の技術のマニュアル化
- 俗人的な業務のマニュアル化
- 熟練設計者の技術をドキュメント化(マニュアル化)
マニュアルに記載されている為に、応用が効かないで非効率的な業務を強制させてしまうことが無いように定期的な内容の見直しを行いましょう。
又、そのマニュアル編集作業も組織内のメンバー全員参加ですることでマニュアルの再認知を促すことができるのでおススメの手法です。