投稿日:2025年01月22日
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設計初心者をはじめ、中堅設計者や管理職、生産技術など、ものづくりに携わる方々にもお役立ちいただける内容を配信していきますので、ぜひお楽しみください。
今回のテーマは「意外と知らない!コピー商品の落とし穴」です。
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設計者であれば、他社製品を購入して
分解・調査した経験がある方も多いのではないでしょうか。
「このような構造なら、同じように作れるかもしれない」と考えたことはありませんか?
とくに、市場で注目されている製品を目にすると、「同じようなものを作れば成功するのではないか」と考えたことがあるかもしれません。
しかし、コピー商品を作るのは思ったよりもはるかに難しいのです。設計・製造・品質管理など、あらゆる工程に多くの課題が潜んでいます。
今回は、コピー商品開発の壁とその対策について詳しく見ていきましょう。
コピー商品は意外と難しい?
「見た目が同じなら、性能も同じはず」
と思いがちですが、実はコピー商品の性能がオリジナル製品と大きく異なることは珍しくありません。
これはオリジナルの製品に使われている特別な材料や、高度な加工技術があるため、単に真似するだけでは同じものを作ることができないからです。
オリジナル製品と同じ品質で、もっと安い価格で作ろうとすると、コストを減らしながら品質を上げる必要があります。
さらに、特許や知的財産の問題もあり、簡単には真似できない理由の一つになっています。
一見簡単に再現可能に見える商品でも、その裏には見た目以上の技術と努力が必要です。これらの点を詳しく解説していきます。
進化するコピー技術とその限界
以前は、製品を手作業で分解し、マイクロメーターやノギスといった測定工具を使って形状を測っていました。特に複雑な形状の鋳物部品は、その測定が難しいものでした。
しかし、技術の発展により、3Dスキャナーを活用することで、形状データをスキャンし、パソコンに簡単に取り込めるようになりました。
このデータをもとに、加工データを作れば、切削加工機や3Dプリンターで短時間で形状を再現できるようになりました。
さらに、これらのスキャナーや加工機は工業試験場などで手頃な価格で利用可能です。
これにより、「形状のデータ化」の障壁がずっと低くなりました。
ただ、「形状のデータ化」だけでは十分ではありません。素材の選び方や加工精度、製造プロセスの最適化など、解決すべき課題はまだ多く残っています。
コピー製品製造の壁とは?
コピー商品を作るときには、見落とされがちな障壁がいくつかあります。
まず、「材料の選定」です。
オリジナルの製品に使われている特殊な素材と、同じ品質や性能を持つものを見つけるのは簡単ではありません。
次に、「サイズ公差や幾何公差の理解不足」です。
これらは製品の性能や耐久性に大きく影響するため、設計段階で正確に設定することが重要です。
さらに、「設備の違い」も問題になります。
オリジナル製品はその製造環境に最適化されていますが、同じ設備がなければ品質が低下したり、コストが増えたりすることがあります。
特に大量生産が難しいと、コストがかさみ、価格競争で不利になることもあります。
品質管理の課題について
品質を安定させることは大きな課題です。
一つには、品質基準がはっきりしていないことが問題です。オリジナル製品の品質基準が不明な場合、どのような試験や検査をすればいいかわかりません。
次に、試験設備が十分でないことも深刻な問題です。特に、信頼性や安全性を確認する試験設備は高価で、導入が難しいことがあります。
さらに、製品の長期的な信頼性を保つためには、長期間にわたって品質を維持することが重要です。
コピー商品は短期的にはオリジナルに似せて作ることができるかもしれませんが、長期間使っても品質が保たれるかは難しい問題です。
品質が保たれない場合、市場での信頼性が低下する可能性があります。
コピー商品開発の限界と現実
ここまでお話しした内容からもお分かりのように、安価で高品質なコピー商品を製造するのは簡単なことではありません。
オリジナル製品の構造や特性をしっかり理解しないと、同じ品質を再現することは難しいです。
また、自社の設備に合わせて設計を変更することや、製造技術を向上させることも必要です。
それにもかかわらず、
コピー商品で安定した利益を得ることはとても難しいです。
なぜなら、オリジナルの製品を開発した企業は、常に新しい製品を開発しているため、コピー商品ではその進化のスピードに追いつくことができないからです。
独自性を追求する重要性
こうした困難を考えると、単に真似するのではなく独自性を追求するほうがはるかに合理的です。
他社製品をそのまま真似るのではなく、自社独自の工夫や改良を加えることで、オリジナルを超える製品を生み出せる可能性があります。
実際、市場で人気の製品に改良を加えた企業は、性能や付加価値でオリジナルを上回る製品を開発し、消費者から高い評価を得ています。
例えば、掃除機市場では、ダイソンがサイクロン式技術を用いて強力な吸引力とスタイリッシュなデザインで人気を集めました。
一方、日本のメーカーは静音性や軽量化、さらに価格の手頃さに重点を置きました。
その結果、消費者が扱いやすく、
家庭環境に適した製品を提供することで、多くの家庭から支持され、競争力を高めました。
また、洗濯機市場では、ドラム式洗濯機をいち早く普及させた海外メーカーが注目されましたが、日本のメーカーは省スペース性や節水性能を重視したモデルを開発しました。
特に、パナソニックや日立は「少量の水で洗浄力を維持する技術」や「乾燥機能の効率化」に取り組み、日本の住宅事情や消費者ニーズに応じた製品を提供しました。
その結果、狭い住宅環境に適した洗濯機として高い支持を得ました。
さらに、電子レンジ市場では、米国メーカーが高火力と大容量を強みとする中、シャープや東芝は「スチーム機能」や「ヘルシオ」といった健康調理機能を搭載。
これにより、ヘルシー志向の消費者層を取り込み、特定の市場ニーズに応える独自性を発揮しました。
その結果、ブランド価値を向上させ、業界内での地位を強固なものとしました。
信頼できるオリジナル商品を選ぶ理由
市場で競争力を保つためには、独自性や技術革新が欠かせません。
外見が同じでも、内部の品質が同等とは限りません。表面だけを真似したとしても、実際の品質や性能が本物と同じかどうかはわかりません。
また、たとえ同じメーカーの製品でも、公差や加工精度の違いによって品質にばらつきが出ることがあります。
このような理由から、 設計者としては、独自性を加えることによって、製品の競争力や差別化を図ることが重要です。
また、製品に組み込む部品を採用する際には、コストだけでなく、その品質や性能、さらには全体の設計意図との適合性を考慮することが重要です。
一方で、消費者としては、少し高くても信頼できるオリジナル商品を選ぶ方が、長期的に見ても安心で賢明な選択と言えます。