冷凍サイクルを知ってエアコンマスターになろう

投稿日:2024年12月20日

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暑い夏の日、エアコンがどのように部屋を涼しくしているのか考えたことはありませんか?エアコンの背後には「冷凍サイクル」という優れた技術が隠されています。

本記事では、冷凍サイクルの基本的な仕組みやエアコンにおける冷凍サイクルの動作、効率を示す指標であるCOP、そして冷媒の種類とその特性について詳しく説明します。

冷凍サイクルとは?

冷凍サイクルは、冷媒を使って熱を移動させる過程を指します。エアコン、冷蔵庫、ヒートポンプなどの多くの冷却・加熱装置は、この冷凍サイクルの仕組みを活用しています。

冷媒は、液体から気体、気体から液体へと状態を変えながら、熱を「奪い」または「放出」することで温度調整を行います。これは、エネルギーを効率的に移動させるための基本的な仕組みです。

下の図のように、蒸発器(プレートA)で冷媒を蒸発させることで、冷媒が熱を奪い、他方の凝縮器(プレートB)で冷媒を冷却凝縮し回収することで、効率的に大気中に熱を排熱することができます。

図.冷媒を使ってプレートAを冷やす方法

しかしながら、プレートBで冷媒を十分に凝縮させるには、プレートBの温度をプレートAの温度以下に冷やしてあげる必要があります。

プレートAを冷やすために、もっと低温であるプレートBを準備しなければいけません。そのため、プレートAとプレートBのみでは、冷媒循環を実用的に利用することができないのです。

そこで、プレートAで気化した冷媒を、強制的に昇圧し高温の冷媒ガスにすることで、プレートB側では、外気温度で放熱することが出来るようになります。これを活用しているのが冷凍サイクルなのです。

図.冷房を循環させるために圧縮機と膨張弁が必要

エアコンにおける冷凍サイクルの仕組み

エアコンの冷房は、冷凍サイクルを使って、部屋の中の熱を外へ排出することで涼しい空気を作り出します。この過程は、以下の4つのステップから成り立っています。

エアコンの仕組み

圧縮:圧縮機が冷媒を圧縮し、高温高圧のガスにします。このガスは室外機に送られます。
凝縮:室外機の凝縮器で、圧縮された冷媒ガスが周囲の外気に熱を放出し、液体に凝縮されます。この過程で熱が放出されます。
膨張:膨張弁を通ることで、冷媒の圧力が急激に下がり、温度も低下します。
蒸発:低温低圧の冷媒が室内機の蒸発器を通過し、室内の空気から熱を吸収して気体に戻ります。この冷媒が熱を吸収することで、部屋の空気が冷やされます。

このサイクルが繰り返されることで、エアコンは部屋を涼しく保つことができるのです。

冷媒について

ここで冷媒についても触れておきます。

冷媒に求められる性能

冷媒として使用される物質には、いくつかの重要な性質が求められます。以下に冷媒に求められる代表的な性質を挙げます。

冷媒はいくつか種類がありますが、いずれも以下共通の特徴があるのです。

特徴 内容
高い潜熱 蒸発や凝縮の際に大量の熱を吸収または放出する必要があるため、高い潜熱を持つことが求められる。潜熱が高ければ多くの熱を移動させられる。
適切な蒸発・凝縮温度 エアコンの作動温度範囲内で蒸発および凝縮を行えること。
低毒性と安全性 人体に対して無害であること。また、漏れた場合でも引火や爆発の危険性が低いこと。
環境への影響が少ないこと オゾン層破壊係数(ODP)が低く、地球温暖化係数(GWP)も可能な限り低いものであること。

以下にいくつか代表的な冷媒を紹介します。

冷媒の紹介

【R-134a】

R-134aは、主に自動車のエアコンや冷蔵庫で使用される冷媒です。環境への影響が比較的少なく、取り扱いが容易なため、多くの家庭用および商業用機器で利用されています。

【R-410A】

R-410Aは、家庭用および商業用のエアコンに広く使われている冷媒です。高いエネルギー効率を持ち、冷却能力が高いため、特に新しいエアコンの多くに採用されています。

ただし、地球温暖化係数(GWP)が高いため、環境への影響が課題とされています。

【R-32】

R-32は、R-410Aの代替冷媒として注目されています。エネルギー効率が高く、GWPもR-410Aより低いため、環境に優しい冷媒として採用が進んでいます。

特に最新のエアコンでは、R-32が使用されることが多くなっています。

【R-22】

R-22は、以前は多くのエアコンで使用されていましたが、オゾン層破壊の原因となる物質を含んでいるため、現在は段階的に使用が廃止されています。その代わりに、より環境に優しい冷媒が使用されるようになっています。

これらの冷媒は、それぞれ異なる特性を持ち、用途や効率、環境への影響などによって選定されます。冷媒の選択はエアコンの性能や効率に大きく影響するため、適切な冷媒を選ぶことが非常に重要です。

モリエル線図を見てみよう

モリエル線図(Mollier Diagram)は、エンタルピー(h)と圧力の関係を表した線図で、冷凍サイクルや蒸気タービンなどの熱力学的なプロセスの分析に使われます。

モリエル線図を使うことで、エアコンのような機械の設計や性能の計算がより直感的に行えるので非常に便利です。グラフに様々な線が描かれており、グラフ上のある点における冷媒の状態を表すことができます。

モリエル線図の物性の見方

冷凍サイクルをモリエル線図上で見てみよう

エアコンの設計において、モリエル線図は冷媒の状態変化を視覚的に理解するために利用されます。

例えば、冷媒が蒸発器やコンデンサーを通過するときの圧力、温度、エンタルピーの変化をこの図で確認できます。

h1⇒h2 圧縮工程

圧縮機で冷媒の圧力が上昇し、エンタルピーも増加します。モリエル線図ではこの過程は斜め上向きに描かれます。この工程によって冷媒は過熱蒸気の状態となります。

h2⇒h3 凝縮工程

冷媒が外気に熱を放出しながら液体に戻るこの過程では、エンタルピーが減少します。線図上では圧力一定で右から左へ移動します。

h3⇒h4 膨張工程

冷媒が急激に膨張し温度が下がると、エンタルピーをほとんど変わらず圧力を低下させます。(等エントロピー変化)

h4⇒h1 蒸発工程

蒸発器で冷媒が室内の熱を吸収し気体に戻る過程では、エンタルピーが増加します。

この蒸発工程で吸収できる熱(=h1-h4)の値は、冷凍サイクルの冷凍能力[kW]に比例している為、この蒸発工程前後のエンタルピーの差(=h1-h4)は、冷凍機の性能評価を行う上で重要な値になります。

冷凍サイクルの効率「COP」とは?

冷凍サイクルの効率を表す指標の一つに、COP(Coefficient of Performance, 成績係数)があります。

COPは、冷凍サイクルがどれだけ効率的に冷却や加熱を行うかを示す指標で、冷凍サイクルの良し悪しが分かる指標となっていますので、エアコンマスターを目指す方はこのCOPを理解しておかなければいけません。

COPは以下の式で表されます。

ここで、Qは冷媒が移動させる熱量、Wは圧縮機に必要な仕事量です。COPが高いほど、同じエネルギーでより多くの冷却や加熱が可能となるため、エアコンの効率が良い(高い)ことを意味します。

例えば、COPが4である場合、1kWの電力を消費して4kWの熱を移動させることができるということになります。

エアコンの設計や選定においては、COPの値が高いものを選ぶことで、電力消費を抑えつつ効率的に冷却や加熱を行うことが可能です。

まとめ

冷凍サイクルやモリエル線図の知識があれば、エアコンの仕組みをより深く理解でき、使い方や性能を分析することで、より効率的で環境に優しい製品を選ぶ目安にもなります。

エアコンは私たちの生活を快適に保つために欠かせない存在ですが、その背後には冷凍サイクルという高度な技術が使われています。

モリエル線図を使って冷媒の状態を可視化することで、冷凍サイクルの理解が深まり、エアコンを最適に利用する方法が見えてきます。

この記事を通じて、エアコンの仕組みを知り、冷凍サイクルのマスターになってください!

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